あなたが勝ったら
学園へ続く長い坂道。
遅刻寸前の生徒には最後の難関。地獄の坂道・・・もしくは遅刻坂とも呼ばれている。
そこを今日は遅刻寸前で上ろうとしている私。
目の前に見えてきた坂道に大きく息を吸った時、後ろから元気な声がかかった。
「よっ、今日は遅刻寸前?もう少し早く起きたほうがいいよん。」
振り向かなくても分かる、特徴のある喋り方。
身も軽いらしいが、性格も超がつくくらい軽いエージだ。
無視してペダルを踏む足に力を入れたけど、直ぐに真っ赤な自転車が並んできた。
「どしたの?機嫌悪っ」
「エージと話してる暇はないのよ。今から一気に上るんだから。」
殆どの女子生徒は坂の途中から自転車を降りて歩くのだ。
それを私は上りきるつもり。
ひょえ〜、マジ?と大げさな声がするけど構っていられない。
「が遅刻寸前なんて珍しいよね。何かあった?」
「そーよ。何かあって遅れそうなの!もう先に行きなさいって。」
「何かって何?すご〜く、気になる。さっきさ、交差点でチラッと見たんだけど・・・アレ?」
「エージに関係ない。」
「他校の制服だったような・・・カレシ?」
「まさか!」
「じゃ、友達?」
「知らない人」
「にしては話しこんでたじゃん。」
勢いをつけて坂を上りはじめた。
なのにエージは横に並んでシツコク話しかけてくる。
っていうか、いつから私を見てたわけ?
「色々と事情があってお断りしていたの。もう、話しかけないでって!」
「お断り・・・つまりは告られてたってコト?それで振ったと。」
「そーよ。」
「かわいそ。」
なにやら同情するようなことを言うエージをキッと睨む。
既に息が切れてきて太腿のあたりがビリビリしてきた私の隣で、余裕たっぷりに自転車をこいでいるのが憎らしい。
「どっちが。エージだって、いつもニコニコして愛想を振りまいてるくせに告られると容赦なく振ってるじゃない。」
「だってさ、好きじゃないもん。」
「あっそ。私も右に同じなの。」
ああ苦しい。そろそろ立ちこぎしないと無理かも。
坂は半分を上りきったし、ゴールは見えている。
時計を見る気力もなく、とうとう立ちこぎを始めた。
「ってさ、人知れずモテるよね。」
「はぁ?こ、こんな苦しい時に何を言い出すのよ。エージほどじゃないし。」
「なんかさぁ・・・ヤダ。」
「何が?ね、もう時間マズイんじゃない?みんな急いでるって。」
体育会系の男子が私の横を凄まじいスピードで走りぬけていく。
エージが本気を出せば私なんか置いて上りきってしまうのだろうに、何故かダラダラと並んでいる。
「やっぱさ、ヤダって気持ちは大事だよね。」
「は?い・・意味わかんないって。苦しい・・・もう駄目かも。」
「ウン。なんか嫌なんだ。」
エージはブツブツと呟くと、坂の先を見上げた。
そして突然に腰を上げて立ちこぎを始めると私を振り返りニカッと笑った。
「、競争だ!俺が勝ったら好きになってね!」
え?何を?
一瞬のことで聞き返す間もなく、エージは残りの坂を一気に上っていく。
私も慌てて追いながら言葉の意味を考えた。
好きになるって、何を?
エージが勝ったらって・・・勝負は既に決まってるのに。
ああ、とにかく上りきらなきゃ。
じゃないと遅刻するし、答えだって分からないもの。
心臓が飛び出しそうなほどバクバクしてる。
空が段々と近くなり、視界が開けてきた。
エージは赤い自転車に跨ったまま、私が上ってくるのを待っていた。
「俺の勝ちぃ!」
「か・・ちも・・なにも・・はぁ、」
まだ門まで距離がある。
校門前に先生の姿が見え隠れしているのが分かった。
息も絶え絶え、最後の力を振り絞ろうとしていた私にエージが言った。
「俺のこと好きになってね!」
「は?」
「俺も頑張るからさ。絶対、好きになるって。」
まるで大好きなカレーパンでも勧めるみたいに軽く言ってエージは頭をかいた。
少し見えたエージの耳が赤いのは坂を上りきったから?それとも・・・
「んじゃ、行こっ。のこり1分だにゃ。」
のぼせきった頭で頷き、ヨロヨロと先を行くエージの自転車を追った。
この強引な勝負が私たちの始まり。
あの時は必死だったんだってばと、エージは笑う。
「でもイイじゃん。ちゃんとは俺のこと好きになっただろ?
終わりよければ全てヨシって言うもんね。」
そう言って私の手を握ると大きく振って歩く。
でもね、二人で歩くのが日常になった今も一つだけ言ってないことがある。
それは、
勝負なんか関係なかったってこと。
だって。ずっと前から・・・私はエージが好きだったんだもの。
今度エージと何か勝負することがあったなら、教えてあげてもいい。
またエージが勝ったらの話だけど、ね。
あなたが勝ったら
2007.05.23
やっぱ菊チャン可愛い♪
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