プレゼントは俺












の誕生日さ、合宿と重なっちゃった」



そう、エージ先輩が言った。
ずっと会えない訳じゃない。
誕生日の翌日には帰ってくるからって言われた。


頭では分かっていても、私の表情が曇っていたのだろう。
エージ先輩は困ったように微笑んで、ヨシヨシと私の頭を撫でた。



「ゴメンね?でも誕生日は翌日には盛大に祝うから
 お土産も買ってくるし。だから楽しみにして待ってて?」



祝われる方が慰められるなんて。
私は沈む気持ちを振り払い、頑張ってきて下さいねと笑顔を見せる。
するとエージ先輩は嬉しそうに頷いて、額に優しいキスをくれた。





エージ先輩のいない日々は驚くほど静かで、緩慢に過ぎていく。


自他とも認める、甘い先輩。
いつも私の傍にいて、机に頬杖をついては笑っていた。
私の髪に指を絡めるのが大好きで、頭を抱き寄せてはキスを落とす。
大石先輩がいてもお構いなしで、私を背中から抱きしめては頬擦りをするような人。


慣れない私は恥ずかしくて、いつもエージ先輩から逃げていた。
逃げても結局は捕まって、腕の中でジタバタして。
そんなところが可愛いんだとエージ先輩は気にも留めず、懲りずに抱きついてきた。


今の私はエージ先輩の温もりが恋しくてたまらない。
誰も触れてくれない髪を自分で撫でてみても寂しくて、
エージ先輩の呼ぶ『』という声の響きを頭の中で再生する。


テニス部では合宿中の携帯電話使用は許されていない。
練習に集中するためだから仕方ないけれど、せめて誕生日ぐらいは声が聞きたかった。



我儘になっちゃったなと溜息が出た。



人気のあるエージ先輩に片想いして、あの頃は付き合えるなんて夢にも思っていなかった。
ダメもとでバレンタインデーに手作りチョコケーキを渡したら目の前で食べてくれた。



『こ、これさ、本命だよね。間違いないよね?』



意気込んで訊ねてくるエージ先輩に驚いて、緊張のあまり泣いてしまったのも懐かしい。



誕生日を迎えた夜。
私はベランダから星を見上げ、明日のことを考えた。


エージ先輩が帰ってくる頃に、おかえりなさいってメールして。
きっと『いつもの公園で』って返信が来るから、そしたらとびっきりの笑顔で迎えて。
服は可愛いのがいいかなぁ。お母さんに誕生日プレゼントで買ってもらったスカートにしよう。


先輩、抱きしめてくれるかな。
明日は恥ずかしがらずに素直になろう。



!!」



そんなことを考えていた時だ。
どこからか名前を呼ばれ、慌てて周囲に視線を向ける。


外灯の下、青学のレギュラージャージにラケットバッグを担いだエージ先輩が手を振っていた。



ウソ、どうして。



鼓動が跳ねて、勝手にドキドキしはじめる。
下にと親指でジェスチャーする先輩に頷き、可愛さも何もない部屋着のままベランダを後にした。



お母さんにバレない様に、そっと玄関を出てエージ先輩のもとへ。
合宿先からそのままなのだろう。電柱の下にはスポーツバッグとお土産の紙袋が見えた。



「せ、先輩」


「誕生日おめでとう!!間にあって良かったぁ」



先輩はニコニコとして、開口一番に『おめでとう』をくれた。
それだけでも胸がイッパイになって泣きそうになる。



「あ、ありがとうございます。あの・・合宿は?」
「みんなは明日の朝にバスで帰ってくるよ。俺だけ新幹線でビュ〜ン」


「まさか私の・・・」
「もちろん、の誕生日のため。いいカレシだろ。俺」



自慢げに笑うエージ先輩。
明日には会えるのに、私の誕生日のためだけに。


思った時には、目の前にいるエージ先輩が涙で歪んでいく。



「ちょっ、?」



顔色を変えて私を覗きこむエージ先輩の大きな瞳。
ここは家の前。分かっていたけど、溢れだす想いを止めることができなかった。


自分から飛び込んだ腕の中。
レギュラージャージの鮮やかな青と赤に頬を寄せたら、
いつもは強引に抱きしめてくるエージ先輩が焦った声をあげた。


両手をあげたり下ろしたりして落ち着かないエージ先輩。
押し当てた胸からは、いつもよりずっと早い鼓動が聞こえてくる。



「あ・・えっと。だ、抱きしめてもいい?」



うわずった声で尋ねてくるのが可笑しくて、泣き笑い。
小さく頷いたら、おそるおそるという雰囲気で背中に温もりが添えられる。



「はぁ。帰ってきたって気がする」



安堵したような声と一緒に包むように抱きしめられた。
エージ先輩の温もりに私も体の力を抜く。


今夜はちっとも恥ずかしくなかった。
それよりなにより会えたのが嬉しくて、懐かしくて、安心した。



「可愛いなぁ。ウン。めちゃ、可愛い」



途中から盛り上がってきた先輩にギュウギュウ抱きしめられて息もできない。
それも嬉しいから平気。



「あ、そうだ。誕生日プレゼントね」
「はい」


「家にあるから」
「え?」


「だから明日」



そっと体を離したエージ先輩が、すまなそうに頭をかく。
会うことばっかり考えて、プレゼントを持ってくるの忘れてたと。


来てくれただけで十分です。
それを口にするより先に、エージ先輩が満面の笑みで自らを指差した。



「とりあえず、プレゼントは俺で」



私は笑顔で頷く。



ハイ。


最高のプレゼント、確かに受け取りました。




















プレゼントは俺 

2009/05/04




















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