成田に降り立ったとき。心が決まった。



日本の空気。同じ黒髪の人間が行き交う空港で。



お前に会いたい・・・と。



心が強く求めたから。















無口な恋人 〜あなたに会いたくて〜















実家に戻る。自分の部屋も一年ぶりだ。


大学を卒業してすぐに。アメリカに飛んだ。
大学生とプロを両立してきたが。学生の肩書きがとれたら、自由になった。


だから、かねてから誘われていたアメリカに渡ったのだ。





旅立つ日。友人たちに混ざって、彼女も後ろの方に立っていた。
ずっと笑顔の彼女に。俺は、ほんの少し落胆していた。





どこまでいっても、友人でしかないのか?と。





だから言えなかった。ずっと、自分の胸の中にいる彼女に。
これから旅立つ自分が、想いを打ち明けるなど。


アナウンスが鳴り響き。皆に挨拶して、背を向けようとしたとき。
視界の隅に入った彼女。





彼女は泣いていた。ハンカチを口元に当てて。ボロボロ・・・と涙を流していた。





あの顔を見たときに。本当は、もう心を決めていたのかもしれない。





アメリカで成功したら。彼女を自分のものにしようと。










俺は彼女を探した。
彼女と親しかった友人に連絡し。挨拶もそこそこに彼女の居場所を訊ねる。


不二には。





「手塚さ。遅いよ?彼女、可愛いから。もう・・・手遅れになってるかも?」





などと。意地の悪いことを言われ。気持ちが焦る。


それでも不二が調べて。彼女の住むマンションを探してくれた。





「みんな、手塚が彼女を好きなの、気がついてたんだけどね。
 もちろん、彼女が手塚を好きなのもね。
 けどさ。本人同士が気付いてないんじゃ・・・って、エージとも話してたんだよね。」





そんな大事なこと。気付いていたのなら、早く言えっ!と、思ったが。





「手塚のことだからさ。ちゃんと、アメリカで成功して・・・とか、けじめを大事にするんだろうなって。」





中学からの付き合いだ。俺の性格など。もう、皆知り尽くされているということだ。


不二に礼を告げて、電話を切ったのが夜の八時だった。










迷いはなかった。


こんな遅くに出て行くなど。普段の俺なら考えられないことだったが。





会いたくて。どうしようもなく・・・会いたくて。





手遅れにならないうちに。1分でも早く。彼女を自分のものにしたかった。










呆れる家人に「不二のもとに行く」と嘘をつき。


俺は、夜の闇に飛び出した。










そして。今。


マンションのドアを開けて、瞳を大きくしている彼女が目の前にいる。



「手塚君・・・いつ帰ったの?」



戸惑いを隠せない、君の瞳。



「今日だ。話がある。あがっても・・・いいだろうか?」


「あっ・・・どうぞ。あの、散らかってるけど・・・。」


「いや。突然きたのは、こっちだ。気にしないでくれ。」



久しぶりの彼女の声。何度も、頭の中で再生してた声とは微妙に違っていて。
やはり、本物の彼女に勝るものはないのだと、心の中で苦笑する。


自分の前に立って、リビングへ案内する彼女の背中。
抱きしめたい・・・と思ってしまう衝動をなんとか抑えつけて。





彼女らしい。シンプルで、優しい色に統一された部屋に足を踏み入れる。
ほんのりと。いつか感じた、彼女の香りに包まれて。


もう、思考回路がショートしそうになる。



「お・・お茶いれるね。」と。



小さなキッチンに立つ後姿。





見回した部屋の片隅に重ねられていた、テニス雑誌。
手にとって、幾つか折られたページを開けば。すべて・・・俺の記事だった。


そこで、思考はショートした。





皆は俺を。冷静で、感情の起伏に乏しい人間だと思っているようだが。
本当の俺は違う。


激しい、自分でも持て余すような熱情が。俺の中にはある。


それは。長い間、共にテニスをしてきた彼らは知っているようだが。



『手塚。気持ちは分かるけど・・・あんまり無茶しちゃ駄目だよ。
 彼女は、君が情熱家なの。きっと、知らないからね。』



電話を切る直前に。不二に言われた言葉が頭をよぎった。


全くだ。昔から、人の心を読むアイツには油断ができない。





ヤカンに水を入れてから。



「手塚君は、なにがいい?」



と振り返った彼女が。俺の手元を見て、ハッとする。



「あ・・・あの。それはね、あの。手塚君のファンとして・・・」



しどろもどろの彼女。言い訳など、必要ないんだ。







雑誌をテーブルに置いて。そのまま、彼女に向かう。


俺が近づいていくたびに、怯えたような瞳で俺を見上げる彼女。



何か言葉を?
いや、必要ない。言葉で。今の気持ちを現すなど、到底できそうにないから。




身を引く彼女の肩を掴んで。力任せに、自分の胸に押しつける。


そのまま、力いっぱい抱きしめた。



「会いたかった・・・」



自然にこぼれた囁きに。溜息にも似た吐息。



「手塚君・・・。」
「ん?」



腕の中、彼女の声が震えている。気のせいではないだろう。



「私も。・・・会いたかった。」
「ああ。」



更に腕の力を強くして。このまま、ひとつになれそうなほど。


きつく、きつく抱きしめた。















異国の空の下。





息を切らせながら青を見上げて。いつも想っていた。





会いたい、と。





会いたくて。会いたくて。とうとう、帰ってきたんだ。





君を、この手に抱くために。




















「あなたに会いたくて」

2004.12.19





あとがき・・・

言葉の足りない手塚君。けれど、心の中は雄弁なんです。




















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