無口な恋人〜
バレンタインデーキス♪
家に帰ったら、机の上に小包が置かれていた。
「あなたが帰国するって言うから、行き違いになるよりは・・・と思って。」
母親の言葉を聞きながら差出人を確認すると彼女の名前。
慌てて封を開ける俺の後ろで
「今度、紹介して頂戴ね。」 と母の楽しそうな声がした。
中から出てきたのは、チョコレート。
なんだ?
不思議に思いながら、同封されたカードをひろげた。
手塚君へ
お元気ですか?私は相変わらずです。
今はどこにいるんでしょう?アメリカ?イギリス?ドイツ?
もしかして、日本だったりして。
世界を飛び回っている、あなたに。
バレンタインデーチョコを贈ります。
体には気をつけて。
活躍をお祈りしています。
追伸
迷惑なら、捨ててください。大丈夫だから。
大丈夫だから?どういう意味だ?
自分でも眉間に皺が寄っているのが分かった。
今日は3月1日。バレンタインデーから、2週間が過ぎている。
考えるよりは動いた方が早いだろう。
彼女がくれたチョコレートの箱をポケットに突っ込んで、脱いだばかりの上着を羽織ると部屋を飛び出した。
もう仕事は終わっている時間なのに、彼女に電話をしても出ない。
ああ、どうしてこう、俺は不器用なんだろう。
タクシーの中で流れる町並みを見つめながら思う。
彼女に電話をしようと何度も思った。
だが、気付けば日本は深夜の時間。
電話をするのを躊躇って、そうこうするうちに日にちが過ぎていく。
手紙など、何を書いていいのか分からない。
メールも、俺が書くと業務連絡のようになってしまう。
からかけてきてくれれば良いのだが、彼女は遠慮する。
ほんの少し目を離せば。
直ぐに彼女は俺の腕をすり抜けようとする。
俺がこんなに愛しているのに。彼女には伝わらない。
はいつも離れた場所に立って、すぐに身を引こうとする。
そんなことを俺は望んでいないのに。
彼女のマンションで車を降りて、窓を見上げる。
明かりの点いていない部屋。
まだ、帰っていないのか。
とにかく会いたい。
その想いだけで、エレベーターに乗った。
彼女の部屋の前で待つ。
まるで不審人物だが、致し方ない。
合鍵を貰っておくのだった・・・と後悔する。
だが、この前は想いを告げるだけで精一杯だった。
腕の中に抱いた。
長く・・・じれったいほどに想ってきた彼女を抱いて。満たされて。
その満たされた想いを抱きしめたまま再び渡米した。
もっと言葉を尽くしておくべきだったのか?
ろくな約束もせずに別れて、その後も連絡が途切れがちだった。
それが彼女を不安にさせたのだろうか?
追伸
迷惑なら、捨ててください。大丈夫だから。
そう書いたの気持ちを考えると・・・胸が痛む。
どれくらい待っただろう。
エレベーターの音がして、近付いてくる足音。
角を曲がってきたのは・・・彼女だった。
「て・・づかくん」
の大きな瞳を見ただけで。
頭の中で考えていた言葉が消え去っていく。
思いばかりが溢れ出して、どんな言葉も色褪せて意味がない。
「」
名を呼んで、そのまま廊下を走って。彼女の体を抱きしめた。
力いっぱい抱きしめて、全身で彼女を感じる。
「手塚君、いつ日本・・・」
腕の中、くぐもった声が聞こえてきた。
力を抜くと、頬を染めて見上げてくる瞳が潤んでいる。
その瞳を見てしまったら、もう我慢が出来なくて。
それ以上の言葉を、すべて奪うかのごとく口づけた。
部屋の中。
彼女の入れたコーヒーを飲みながら、やっと落ち着いた。
相変わらず部屋の隅に重ねられたテニス雑誌。
の想いの一端が垣間見えて嬉しい。
「いつ日本に?」
今日だ。」
「え?こんなとこにいていいの?ご両親とか・・・待ってるでしょう?」
「お前は待っていなかったのか?」
「そんなこと・・・」
躊躇うように視線を落とすが、焦燥感を募らせる。
「お前にも待っていて欲しい。こんな俺だが・・・信じてくれないか?」
一瞬瞳を見開いて、次には眩しそうに目を細めて・・・涙をこぼす。
そんな、お前が愛しい。
また抱き寄せて。会えなかった日々を埋めるように口づける。
口づけの合間に。彼女がそっと囁いた。
「甘いわ。」
「お前を待つ間に、送ってきたバレンタイチョコを食べた。」
「そうなの?」
「2週間遅れの・・・バレンタインデーキスだ。」
ふふ。と、彼女が幸せそうに笑った。
甘く、熱い。
口づけを交わそう。
距離も時間も、すべてを越えていけるように。
「バレンタインデーキス♪〜手塚編〜」
2005.01.29
砂を吐いてもいいですか?これは付き合いはじめですね。
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