無口な恋人 〜駆け引き〜
あたたかなコーヒーの湯気が立ち上る朝。
陽射しが射し込むリビングで。彼は新聞を広げている。
彼にしてはのんびりと、くつろいでいるようだ。
半年ぶりに顔を見て。生の声を聞き。肌に触れた。
これって、本当に恋人なのかしら?
ひょっとしたら。アメリカには、ちゃんと恋人がいて。私は、日本にいる愛人だったりして。
そんなことを思っては。胸が痛む。
一人の人間を信じ続けるのって難しい。
けれど。一度、愛してしまった人を諦めるのも難しくて。
ずるずると、関係は続いていく。
囚われてしまった心。
魅せられてしまった瞳。
すべて。手塚国光という人に、奪われてしまった。
「。同窓会・・・行くのか?」
突然、彼が口を開いた。そんな会話をしていた時でもないし。急な、問いかけに慌てる。
本当に。いつも、唐突なんだから。
「うん。そのつもりよ?乾君から、電話もらったし。」
「乾?乾と連絡をとっているのか?」
途端に不機嫌そうな顔をする人。
「たまによ。メールがほとんどなんだけど。」
「・・・メールまでしているのか?」
「眉間に皺が寄ってる。」
ふざけて、彼の眉間に皺を伸ばすように指を当てたら。
すぐに手首を掴まれて、ソファーに座る彼の膝に座らされてしまった。
そのまま体をぎゅっと抱きしめられる。
「ちょっ・・・と。」
「乾は駄目だ。昔、お前のことが好きだった。」
「え?なに?そんなこと、初めて聞いた・・・。」
「とにかく。俺以外の男と付き合うことは許さない。」
「付き合うなんて・・・。ただのメル友。それに、乾君には可愛い彼女がいるのよ?」
「それでもだ。」
溜息が出る。
それでも。私の肩に顔を埋めて抱きしめてくる人が・・・愛しい。
あなたは、我儘。
この半年の間に。あなたは何通のメールをくれた?電話は?
そういうの。苦手だって知ってる。
でも、日本に残ってる私が、どんなに不安な日々を過ごしているか。
どんなに寂しい夜を過ごしているのか。少しくらい考えてくれてもいいでしょう?
なのに。
子供みたいな、やきもちを焼いて。独占欲をあらわにして。
そうして、私を喜ばせるの。
黒髪に、そっと指を通して。目を閉じる。
「知らないの?私・・・あなた以外は見えてないのに?」
心のうちを告げれば。あげた視線とぶつかる。
レンズの奥の瞳が。ほんの少し、意地悪げに笑っていて。
あ・・・はめられた。と。
「同窓会、俺も行こう。」
「同窓会より前に、アメリカに戻るんじゃなかったの?」
「2.3日、伸ばす。」
「同窓会のために?」
「違う。・・・お前のために。」
近づいてくる唇を待ちながら。
心の中で思う。
ああ。この人からは逃げられない。
恋の駆け引きは。
この無口な恋人に、主導権を握られているのだから。
「無口な恋人〜駆け引き〜」
2004.12.20
テニプリ連載TOPへ戻る