無口な恋人 〜誕生日〜
今日は私の誕生日。
もうこの歳になったら誕生日なんて・・・そんなにも嬉しいものじゃない。
またひとつ歳を重ねて、逃げ場がなくなっていくような感じ。
そんな誕生日でも。
もしも、愛する人が祝ってくれるのなら・・・最高に幸せな誕生日になるんだろう。
生まれてきてくれてありがとう。出会えたことに感謝して誕生日を祝う。
なのに・・・溜息。
今日の私はひとりぼっち。
狭い部屋で見てもいないテレビを相手に、小さなホールケーキにろうそくを立てている。
友達は誘ってくれた。
誕生日なんだから、ご飯食べに行かない?カラオケ行こうか?
でも、全部断わった。何故?皆に聞かれた。
だって・・・あの人から電話がかかってくるかもしれないから。
時計の針はもう8時をまわっている。私の誕生日は4時間しか残っていない。
一向にならない電話に、また溜息がでる。
忙しい彼のことだから・・・かけたくてもかけられないのかも。
日々に紛れて私の誕生日なんか・・・忘れてるのかも。
ううん・・・もっと悲しいのは。私には誕生日を祝ってやるほどの価値がないのかも。
どんどん後ろ向きになっていく思考。
その時。電話が鳴った。
ソファーから飛び上がって電話の前に走る。急に騒ぎ出す心臓。
一度深呼吸をして受話器を取った。
「もしもし?」
出来るだけ冷静を装って。
『?お誕生日おめでとう。』
「おかあさん?」
『どう?元気にしてる?』
母の声に落胆している自分がいた。
それでも心配はかけたくないから、精一杯明るい声を出して対応する。
『あなた、誕生日に一緒にいてくれる人もいないの?』
「大きなお世話です。今日は残業で疲れてたから誘いは断わったのよ。」
『ねえ、誰かいい人いないの?イトコのかやちゃんは赤ちゃんが生まれたって。』
「へぇ、結婚したの秋じゃなかった?早いね。」
『早いねじゃないわよ、かやちゃんとは二つしか違わないでしょ?』
「分かった。もう切るわよ?友達から電話がかかってくる約束なの。」
『もう。今月中に一回は帰ってきなさいよ。お父さんも待ってるから。』
「はいはい。じゃ、切るね。おやすみ。」
延々と続く母の小言。でも、この間にも彼が電話をかけてきてくれてるかもしれないの。
そう思うと気が焦って、ついつい冷たく電話を切ってしまった。
ああ・・・もう。余計に気分が落ち込んできたじゃない。
適齢期なんて死語だと思っていたけれど親世代には通用しないらしい。
ヤケになって冷えたビールを一気に飲んだ。
そのままソファにクッションを抱えて転がる。
あなたは今頃どうしているでしょう?
あなたの心の中に、私の居場所はありますか?
たまに帰国して、ふらっとやってきて。恋人のように振舞って。
でも、さらっと帰っていく。
去年は電話をくれたのに。その前の年も。一日前だったけれど、ちゃんと電話をくれた。
短い電話だった。それでも、私の誕生日を覚えていてくれたことが嬉しくて幸せだった。
でもね。こうやって毎年電話を待っている私。本当は凄く寂しくて辛いの。
今年はかかってこないかも知れない・・・そんな不安に胸が押しつぶされそうなの。
離れているから・・・あなたの心が分からなくて。
こんなにも気になるなら電話をすればいいのだけど。
こっちから『誕生日なの・・・』なんてかける勇気もない。
もしも『そうだったか?』なんて言われたらショックだし。
迷惑そうにされたりしたら・・・立ち直れない。
もう・・・ツライ。
こんな待つだけの恋・・・やめてしまいたい。
なのに。なぜ?あなたじゃないと駄目なのかな?
どうして・・・こんなにもあなたが恋しいんだろう?
「手塚くんの・・・バカ」
つぶやいて目を閉じた。アルコールはそう強くない私に睡魔が襲ってくる。
もういいや。こんな辛い時間を過ごすくらいなら・・・眠って日にちを跨いでしまえ。
心の中で思いながら眠りの沼に落ちていった。
ゆらゆらと小船にでも乗っている感じ。
優しく髪を撫でられて。子供の頃、母にされた優しい仕草を思い出した。
気持ちいい。ああ・・・子供の頃の夢を見てるんだ。
ぼんやり思いながら頬に触れてくる手に擦り寄った。
その手は温かくて大きくて・・・硬い。
ん・・・?
徐々に意識が浮上してくる。
頬に添えられた手が顎をたどって耳元に。耳元を掠めて、また優しく髪を撫でる。
うっすらと目を開けると部屋の明かりの中に浮かぶ顔。
「目が覚めたか?」
私は呆然としていた。これは夢なんだろうか?それとも?
「手塚君?」
「なんだ・・・まだ寝ぼけてるのか?」
少しだけ口元を緩めながら覗き込んでくる人。それはずっと私が電話を待っていた人。
「なんで・・・こんなとこにいるの?」
間抜けな質問かもしれない。でも・・とても信じられなかったから。
彼は僅かに瞳を大きくした後、不機嫌そうに眼鏡をあげた。
とにかく起きようと体を浮かせたら、その肩を押されてソファに逆戻り。
言葉を発しようとしたら唇がふさがれた。
強引なのは相変わらず。これは夢じゃないんだと・・・彼が本当にいるんだと。
身を持って確認した。
手塚君の首に手をまわしてキスに応える。
眼鏡が当たってもやめずにキスをした。
嬉しい・・・帰ってきてくれたんだ
そう思ったら涙が出てきて。
やっと開放された時、目じりからこぼれた涙を手塚君が拭って困った顔をした。
泣くな。と、一言。
とても優しい音色の声。その声だけで、寂しかった私の気持ちを分かってくれたのだと知った。
お前の誕生日だから帰って来たんだ。
成田についたあとケーキが買いたくて・・・探したんだが丸いやつがなくてな。
ケーキならあったのに。
そうだな。
電話してくれれば良かったのに。
驚かせたかったのが半分。電話する時間も惜しいほど・・・はやくお前に会いたかった。
・・・・・・。
やっとケーキを手に入れて来てみれば、お前は寝ている。
だって・・・。
寂しかったか?
・・・うん。
そうか。すまない。
・・・うん。
広い腕の中に抱きしめられながら紅茶を飲んでいる。
甘えているのか、甘やかされているのか。
彼はどこにでも唇を寄せてくるからくすぐったい。
二つ並んだホールケーキ。二人でどうやって始末しようか?
笑いながロウソクを吹き消したのは、ついさっき。
「もうすぐ日が変わるな。肝心なことを言うのを忘れている。」
「え?」
「誕生日おめでとう。来年も祝うと・・・約束する。」
彼から貰った誕生日プレゼントは甘いケーキと甘いキス。
でもね、一番のプレゼントは・・・・あなたが祝ってくれたこと。
翌朝。目覚めたベッドの枕元。
置かれていたのは小さな包み。
開けば、そこには・・・パールのピアス。
どんな顔で選んだんだろう?そう思うと笑いがこぼれる。
私が笑っているのも知らないで、彼が穏やかな顔で眠っている幸せ。
これも、あなたからの贈り物。
「無口な恋人 〜プレゼント〜」
2004.01.05
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