寝起きのあなた 〜菊丸編〜
ぐぅぐぅと。子供みたいに寝ている人。
顔を半分枕に埋めて、うつ伏せ状態で気持ち良さそう。
寝顔を見るのは初めてじゃないけれど、
こうやって夜をすごし朝を迎えるのは初めてだ。
誰にもナイショで、こっそりと小旅行に出たの。
お母さんにも嘘をついた。
英二クンの傍にいたくて、もっと近くなりたくて。
随分早くに目が覚めてしまった私。
ベッドから出てシャワーでも浴びたいのだけれど、動くと英二クンを起こしてしまいそうで、
しばらくはジッと寝顔を見つめて、ひとり頬を緩ませていた。
大きくてクルクルと表情の変わる瞳は閉じられている。
その瞳に私が映るのを思ったらも、やっぱり寝起きの姿なんか見せたくない。
ウン、と気合を入れて。
こっそりとベッドを抜け出して身づくろいをすることにした。
そーっと、体をベッドの端に移動させていく。
ダブルベッドは振動をそのまま伝えるだろうから、慎重に・・・慎重に。
やっと端まで寄って英二クンが寝ているのを確認してから、そっと体を起こした。
ギシッと、木の軋む音がして身を竦めたと同時に、後ろから肘をつかまれた。
「。どこ行くの?」
「あ・・・ごめん。」起こして、と続くはずの言葉。
振り向けば、英二クンの目は閉じたまま。
そのままの体勢で、手だけが私の肘を掴んでいる。
「英二クン?」
「・・・・・」
寝ぼけてる?肘を掴む英二クンの手を外そうと右手を添えたら。
「きゃっ」
英二クンの手が、素早く私の右手を掴んで引っ張った。
景色が反転する。軽く体が回転した感じに目眩がした。
ハッとして視線をあげれば。
目の前には、にっこりと微笑んだ英二クン。
英二クンの背景には天井とライトが見える。私の背中は、柔らかな布の感触。
しっかり両手首を英二クンに掴まれて。
彼の体の下に拘束されてしまったのだと、やっと理解した。
「寝てたんじゃなかったの?」
「待ってた。」
英二クンに見下ろされて恥ずかしくてたまらず、やっと口にした言葉に意外な返事が返ってくる。
「待ってたって、何を?」
「が、おはようのキスしてくれるの待ってたの。してくれたら起きようと思ってさ!
なんかあったじゃない?そういう御伽噺!」
「それって・・・白雪姫?
でもあれ、キスしたのは王子で。目覚めたのは、お姫さまだよ?反対じゃない?」
「気にしない、気にしない。」
・・・・・。
うーん。なんだか良く分からないけど。
こんな近くで英二クンに見下ろされているなんて、とにかくこの体勢は恥ずかしいから開放して欲しい。
「えっと、分かったから。あの・・離して」
「ヤダ」
「ヤダって、」
「俺を置き去りにしようとしたでしょ。
もし本気で寝てたら、目覚めて一番にの顔が見られなかったじゃんっ」
「そ、そんなこと。別に、置き去りになんて」
「置き去りだよっ。起きたら一番にの顔が見たいっ!抱きしめて、キスしたいっ!
だから旅行に来たんだよ?家じゃ、いくらなんでもそんなこと出来ないしさ。」
言いながら口を尖らせている彼、本気で拗ねているらしい。
私は困ってしまって、情けない顔で英二クンを見つめるしかない。
すると、ふっと英二クンの表情が柔らかくなった。
掴んでいた左手首を離し、柔らかく頬に触れてくる。
「早く大人になりたいよ。そしたら、と結婚して。毎日の寝起きの顔が見られる。」
「英二クン・・・」
「大好きだよ、。俺と・・・結婚してね。絶対。」
真剣な瞳で見下ろされて、彼が本気で口にしている言葉なのだと分かった。
まだ高校生の私たち。そんな約束が、本当のものになるのかなんて・・・誰にも分からない。
それでも、信じたい。私も英二クンが大好きだから。
「うん。・・・結婚する。絶対。」
「っ」
ぎゅうっと抱きしめられた。
もう恥ずかしさも何もない。心のうちは、英二クンへの想いだけでいっぱいになる。
大好き、と囁きあって。
懐かしい。・・・初めて寝起きのあなたと過ごした朝の思い出。
今は。
「英二!起きて!遅刻するって!」
「んにゃ〜あと5分」
「さっきも、そう言った!」
「じゃあ、あと3分」
子供のように枕を抱えてゴロゴロする英ニの布団を無理矢理に剥ぎ取る。
「寒っ! 酷いっ、!」
「酷くないっ、仕事に遅刻して困るのは英ニなのっ」
「う〜っ」
毎朝、これだ。勘弁して欲しい。
溜息をつきながら背を向けたら、急に後ろから腕を引っ張られた。
「きゃっ」
ベッドに尻餅をつけば、そこには待ち構えていた英ニの腕。
背中からしっかりと抱きしめられて、耳元で囁かれる言葉は。
「大好きだよ、俺の奥さん。だから、ねっ。あと、2分だけ寝かせて。」
チュッと頬にキスをして、そのまま私の体と一緒に寝ようとする人。
ああ、もうっ。
今日もバタバタと血相変えて出勤するだろう夫の姿を思い浮かべながら、つい・・・幸せに目を閉じる。
やっぱり今も。寝起きのあなたに、私は弱いの。
でもね、ひとつだけ。
『早く大人になりたいよ。そしたら、と結婚して。毎日の寝起きの顔が見られる。』
あなたは起きるのが遅いから、私の寝起き顔なんて見てないでしょう?
「寝起きのあなた 〜英ニ編〜」
2006.06.13
こんなに可愛いだんな様だったら、シアワセ/////(by沙羅)
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