お見舞い 〜忍足編〜










。大丈夫か?この忍足侑士が来たからには、もう心配ないからなっ」



ニコっと、笑った侑士が覗き込んでくる。何をもって心配ないと言い切るのか、この男?



「忍足侑士君。部活は?」


「ああ。大丈夫やん。早退してきたから。」


「早退?」


「具合悪いですぅ・・・言うて。やないと、跡部に捕まったら帰れんからなぁ。
 アイツ、ああ見えて部活に打ち込んでる熱血少年なん。熱いでぇ。」


「あんたも、その熱血少年率いる氷帝学園テニス部のレギュラーでしょうがっっっ」


「確かに。けど、可愛いの彼氏でもある。
 彼女が風邪で苦しんでんのに、テニスなんか出来んやろ?」



跡部が聞いていたら、間違いなくラケットで殴ったであろう。
代わりに私が殴っておいた。



「いいから。早く部活に行って!」


「ええーっ?今から行ってもなぁ。学校早退して部活にでてたらヒンシュクやで?
 にしても、殴ることないやろ?」


「誰も気づかないって。」


「気づくわっ。なぁ、それより。の看病させてぇな。添い寝してやろか?」


「結構です。」



シッシッと追い払う仕草をしてやる。頭が痛いのに。さらに酷くなってきた。



「どれどれ。熱を測ろうな。」



人の話など聞いてない。さっさとベッドに乗りあがってきて、顔を近づけてくる。
コイツ。額で熱を測ろうなんて、気持ち悪いことをっっっ



「やだっ。」


「イヤよ、イヤよも、好きのうち♪言うてな。」



などと口調は軽いが、力は強い。人の両手をがっちり拘束して、強引に額で熱を測る。



「うわっ、熱高いなぁ。しんどいやろ?」



しんどい女の上に馬乗りになって、額を引っ付けている奴のほうが信じられないっ
ここに親が入ってきたら、間違いなく勘違いされて・・・出入り禁止にされるだろう。バカっ



「分かったでしょ?熱も高いし、つらいの。侑士の相手できる元気ないから。帰って。」



冷たく言ったら。押さえ込まれてた手が開放された。
ノロノロ・・・と侑士がベッドから降りる。
と、そのままずるずるとベッドの脇に座り込んで、うな垂れた。



「侑士?」



呼んでも返事がない。ちょっとキツク言い過ぎたか・・・と体を起こした。眩暈がする。
それでも侑士の方へ体をずらして覗き込んだ。



「やっぱりな。」



唐突に侑士がつぶやく。



「何?」


「やっぱり、は俺のことなんか好きやないんや。迷惑なんやな。」


「はぁ?」



今度は何を言い出したのか。



「俺が『好きや。付き合うてくれッ。』言うた時、返事するまでに7秒くらい間があったもんな。」


「そうだっけ?」 7秒・・・数えてたの?


「ホンマは跡部が好きやったんやろ?俺は身代わりやもんな。」


「はあああ?ゲホゲホッ」 



あまりの言葉に咳き込んだ。どっから、そんな想像が?



「ええよ。別れよ。好きでもないのに、身代わりや同情で付き合われたくないし。」


「侑士?」



ゆっくりと侑士が顔を上げて私を見た。息を呑む。あまりに真剣な瞳だったから。



本気?



いつもいつも。ウザイくらい『好きや』『大好き』『お前だけ』といわれ続けてきた。
侑士がとても人気があることぐらい知ってるけど。
あまりに一途だから。浮気なんか心配したこともない。


だから。結構冷たくあしらってきた。どんなに邪険にしても侑士は笑ってついて来たし。
怒ったり、拗ねたフリはしても、本気ではなかったから。



「別れよ。。」



侑士が、もう一度いった。私の頭は真っ白になる。
勝手に体が動いた。ベッドから飛び降りて、侑士の腕を掴んだ。出た言葉は。



「いや!絶対、別れないっ!好きだもんっ!侑士が大好きだもんっ!」



目の前で、侑士の瞳が大きく見開かれる。次には、嬉しそうに細められていく目。



一瞬で抱きしめられた。ぎゅうっと、音が出そうなぐらい抱きしめられる。



。俺も好き。大好きやっ。・・・」
「侑士・・・。」



ああ・・・よかった。彼を失わずにすんだ。



泣きたくなるような切なさに。胸がドキドキする。
それでも、自分を力いっぱい抱きしめてくる腕に身を預けて。
侑士の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。


と・・・侑士の体が微妙に震えている。はてな・・・と思えば。
侑士は笑っていた。というか、笑いを堪えていた。



「ちょっ・・・なに笑ってるの?」


「クッ。あはははははは。あかん。我慢できひん。、可愛いすぎっ。可愛い。好きや、お前。」


「な・・・なに?」


「俺が。ははっ。お前を手放すわけないやん。いやぁ、よかった。の可愛い告白が聞けて。
 ありがとう。風邪ひいてくれて。早退した甲斐があったわ。」



いいながらも、ずっと笑っている。可笑しくてたまらない、という感じだ。
もう・・・怒る気力もなくした。はめられたのだと。今さら気づいても後の祭りだ。



頭痛。悪寒。関節痛。気分も悪くなってきた。もう・・・寝よう。


侑士の腕をすり抜けて、ごそごそとベッドに戻る。



そういや跡部が言っていた。『忍足は氷帝一の曲者だ』と。あれは、テニスだけではなかったのだ。



「あっ、。布団に戻るんか?抱き心地が良かったのにぃ。」



知るかっ。



喉が渇いた。水だけ飲んで寝よう。もう、コイツはどうなっても知らない。
レギュラー落ちでもなんでもなればいい。


ベッドの脇においてあったミネラルウォーターに手を伸ばしたら、さっと横からさらわれた。



「お水、欲しいんなっ。任せとき。」


「まかせる?」



目の前で侑士がキャップを外し、水を口に含むのを見た。


あっ、ヤバイっっっと思ったときには遅かった。


押し倒されて、口移しで水を飲まされた。


もう・・・ダメだ。この曲者には、太刀打ちできないのだ。よく・・・分かった。










数日後。



「おい、。あんなバカでも、うちのレギュラーだ。
 仲がいいのは結構だが、風邪は金輪際うつすなよっ」


「それは、直接あのバカに言ってくれる?不可抗力なんだから。」


「ケッ。」



他校との練習試合目前に、風邪で寝込んだ侑士。
お見舞いに行きながら出るのは溜息。原因は分かってる。私の風邪がうつった。



それでも。どうせ・・・にやけた、だらしない顔で私を迎えるのだろう。


そして、また言うんだろう。



「好きや。。大好きや。」って。




















「お見舞い〜忍足編〜」 

2004.11.15




















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