「お見舞い 〜手塚編〜」
ウトウトして。ぼんやりと意識が浮上してきた。
ふわふわした頭の中。クスリと熱のせいだ。
それでも目が覚めた。天井をしばし見つめて。
目の焦点が合ってから、ゆっくりと体を起こした。
水・・・飲みたい。
「起きて、大丈夫か?」
ハッとして、顔を上げる。窓際に、夕日を背にして逆行の中に立っている人がいる。
誰?なんて、聞かなくてもわかってる。けど、何故?
「手塚くん?どうして・・・っていうか、いつから?」
「見舞いに来たのだが。良く眠っていたようだったから起こさなかった。
ここに来たのは、かれこれ・・・30分位前だろうか。」
「30分っ?」
びっくりした。30分も、ただここで・・・立っていたの?
やだ。私・・・寝言いったり、イビキかいたり・・・してなかったよね。
焦る、私。表情に出てたのか、手塚君がクスッと笑った。
「は静かに寝ていた。寝ながらも咳をしていたが・・・大丈夫か?」
言いながら手塚君が近付いてきて、そっと額に手を当てる。
「まだ、少し熱いな。」
「あっ・・・ダメよ。手塚君に風邪がうつったら大変。早く、帰って。」
大所帯をまとめるテニス部部長に風邪をひかせては大変だ。
なのに。手塚君が眉を寄せた。
「やっと、お前が起きたのに。すぐに帰れは、ないだろう?」
「だって・・・。うつしたら大変だから。」
嬉しいんだよ。本当は。でも、あなたは私だけのあなたじゃないから。
誰からも信頼され、必要とされている、あなただから。
「風邪など、うつりはしない。これでも鍛えてある。」
「そんなこと。」
「お前の顔が見たくて。お前が心配で来たのに。」
「手塚君」
「それでも、帰れと言うのか?」
首を横に振る以外、何が言える?
俯いた私の視界に、黒い制服が見えた。
ギシッと軋むベッドの音と一緒に。ふんわりと、抱きしめられた。
優しい抱きしめ方。力を抜いて、彼の制服に額をつけた。
「お前が寝ている間。ずっと・・・寝顔を見ていた。」
「・・・恥ずかしい。」
手塚君が笑った気配が伝わってくる。大きな手が髪を撫でてきた。
「可愛かった。」
「・・・もっと恥ずかしい。」
「お前の寝顔。俺以外の誰にも見せたくないと思った。」
「手塚くん?」
顔を上げたら、メガネの奥に真剣な瞳があった。
「お前はいつも俺に遠慮する。一歩下がったところで俺を見ている。それが・・・歯がゆい。
何故、俺の隣にいない?もっと、近くにいればいいのに。」
「だって・・・手塚君には、大事な物がたくさんあるもの。
あなたを必要としている人だって、たくさんいる。
手塚君に好きって・・・言ってもらえただけで幸せだよ。
それ以上、我儘いったら・・・もう傍にいられなくなっちゃう。」
「。」
名前を呼ばれた。いつも苗字で呼ぶ手塚君が、私の名前を呼んだ。胸が・・・熱くなる。
「俺もお前を必要としている。とても、大事に想っている。だから・・・怖がるな。俺は・・・」
俺は・・・お前を離しはしないから。
そう。怖かったの。あなたにとって、私はとても小さな存在でしかないと。
あなたは眩しいほどに輝いている人だから。私など、相応しくないと。
ずっと怖かった。いつか、あなたに必要ではないと宣告される日を恐れて。距離を置いていた。
あなたが好きだから。あなたを失いたくなかった・・・・。
たまには風邪で寝込むのもいいかもしれない。
あなたの本心が聞けるなら。
こんな素敵なお見舞いが来るのなら。
手塚君の腕の中。幸せな涙を零しながら、思った。
「お見舞い〜手塚編〜」
2004.11.15
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