『お慕いしております 〜跡部景吾編〜』 番外編 参










女の子は可愛いと言ったのは誰であったか。
相手は覚えていなくとも、何度となく聞かされた言葉だ。
その時は『そんなもんかねぇ』と半ば呆れたような気持ちで聞き流した景吾であったが、今や自ら言ってしまうのだ。



「お前は可愛いな。いいか?大きくなっても嫁になんか行くんじゃないぞ
 俺がお前にふさわしい婿を見つけてやるからな」



膝にのせた幼子に言いきかせる姿は、もうどこからどう見ても親馬鹿だ。
新年を迎えて一つ成長した姫は大きな瞳をくるくるさせて父親を見上げる。


幼いながらも整った容姿の姫は末が楽しみだ。
母親譲りの大きな瞳と長い睫毛、白い肌に映える唇はぷっくりとして愛らしい。
男子とはまた違った繊細さと可愛らしさが、景吾にはたまらなかった。



「ちちうえ様」
「何だ?」



姫が舌足らずに呼んでくるのに、上機嫌で答えた景吾。



「お勤め、いく?」
「行かねぇよ。せっかくだしな、何かして遊んでやろうか」



執務の途中で出てきたのだが、娘の望みなら時間は幾らでも割く覚悟の父だ。
だが姫はまだ揃わぬ黒髪を振って大真面目に言った。



「ううん。お勤め、だいじ。ははうえ様がいってた」
「いい教育だが、俺がいいって言ってるだから良いんだよ」


「でもでも、あそんでばっかりダメだから。ちちうえ様がさぼってたら、ちゅういするの」



哀しいかな、どんなに愛情を注いでも母親には勝てない。
子どもたちは優しい母が大好きなので、景吾の言葉よりも彼女の言いつけを守ろうとするのだ。



「仕方ねぇな、なら後でな。さっさと寝るなよ?」
「は〜い」



間延びした返事と一緒に手を上げる姿が愛らしい。
最愛の妻によく似た娘には敵わないと内心で溜息つきつつ腰を上げようとした時だ。



「ちちうえ様は、ははうえにぞっこん〜」
「はぁ?まてまて。どういう意味だ?んな言葉をどこの誰がお前に教えやがった」



面食らった景吾は抱き上げようとした姫の顔をのぞきこんで問いただす。
子供は純粋で、悪気など全く見せずに説明してくれるのだ。



「ゆーしが言ってた。ちちうえ様は、ははうえに言われると何でもするって
 それ、ぞっこんって言うんだって。だから、おしりの・・・えっと下なの〜」



ちちうえ様?
様子の変わった父親に姫は首をかしげて不思議がる。
景吾は抱えた娘を畳の上に降ろすと一つ大きく息を吸った。



「忍足!!いますぐ来いっ!!」



開け放った室に、景吾の怒鳴り声が届いてきた。
景吾が寵愛している北の方に淹れてもらった茶を飲み干した忍足はホッと息を吐く。



「なにやら殿の怒った声が・・・」
「何かまた気にいらんことでもあったんでしょう」


「侑士殿も大変ですねぇ」
「いやいや。もう慣れてますから」



二人の子を生したとは思えない麗しい北の方が気の毒そうに労ってくれる。
忍足は「では行きますか」と頭を下げると食えない笑みを浮かべた。




















2010年冬 拍手SS


















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