『お慕いしております〜跡部景吾編〜』 現代編










『来世?そんなもの信じちゃいないが』
『殿は夢がございませんね。ここは来世も必ずと答えるところですよ』



『それもそうだな。いいぜ、来世も必ずだ。ただし、今度は俺を嫌うなよ?』
『まぁ、殿。あんな昔のことをまだ恨んでいらしたのですか?』


『蛙に嫁いだほうがマシだと思ったとか言ってたぜ』
『そんなこともございましたね。ふふ。今度は一目惚れでもいたしましょうか』


『ああ。それがいいな』

























華やかな会場に色を添えるのは美しい女たち。
父親に連れられて次々と挨拶に来る女たちは似たり寄ったりで印象に残らない。
パーティーの主役とも呼べる景吾は不機嫌を隠しもせず、手にしたグラスを一気に飲みほした。



「疲れた。帰りてぇ」
「あかんて。とりあえず、候補ぐらいは選ばんと不味いやろ」


「だったら適当にお前が選んどけ」
「ええんやな。じゃあ、あれ」



秘書の忍足が視線で指すのは景吾が嫌いなタイプの女性ばかり。
なんといっても学生時代からの付き合いだ。
機転の利く忍足を自らの片腕として引き抜いたまでは良かったが、
遠慮がないうえに色々と知られているのが厄介なところだ。



「ありゃ半径数メートルは香水の匂いが酷くて近寄れないぜ?」


「じゃあ、あっちや。元が分からんくらい化粧してるから、素顔を知る醍醐味があるやろ」
「そんな醍醐味は必要ねぇよ。たくっ、つまらねぇ」


「たいそうな家に生まれてしもうた運命を恨むんやな」



まったくだと、景吾は特大の溜息をついた。


有力な家の娘を選ぶために開かれたパーティー。
結婚、結婚と急きたてられても無視をし続けてきた景吾だったが、
父親が体調を崩してからはそうも言っていられなくなった。
幸い父親は健康を取り戻したが、創業一族の後継を担う景吾にかかる期待は大きい。
あまりに周囲がうるさいので『会うだけ』と了承した途端、大掛かりなお見合いパーティーが開かれることになっていた。
家柄の良い娘たちを集め、数撃ちゃ当たるだろう的な思考でパーティーを開いた親には呆れた。



「一服してくる」



呟いて、胸のポケットを探りながら外に向かう景吾の背中を忍足は気の毒そうに見送った。





会場は美しく整えられた庭園に面していた。
外灯に照らされた緑は濃く、爽やかな草の匂いに安堵の息が漏れる。
慣れた手つきで一本の煙草を唇にした景吾は、近くに噴水があったことを思い出して足を向けた。


そこに、先客がいた。


名も知らぬ白い花を背景に、噴水の水に手を伸ばす華奢な影。
結い上げられた艶やかな黒髪が月光を映して輝く。


人の気配に気づいたのだろう。
ゆっくりと水面から顔を上げた人物と景吾の視線が合った。


景吾は目を見開いて相手の顔を見つめる。
火をつけようとくわえたままだった煙草が芝生の上に落ちた。



「お前は・・・?」



庭園の外灯に照らされた漆黒の瞳は星を集めたかのように輝き、まっすぐに景吾を見ていた。
透き通るような白い肌に、薄く色づく桜色の唇。
薄い体を包むのは庭園に咲く花よりも美しい振袖だ。
慌てるでもなく、凛として景吾を見据える立ち姿には気品があった。



こんな女、会場にいたか?
それとも、まったく関係ない一般客かよ



らしくなく逸る自分を景吾は感じていた。
瞬間で目を奪われた美しい人を自分のものにするのだと直感が訴えている。


もっと近づきたくて足を踏み出した時だ。
形の良い彼女の唇から、見目に似合った美しい声がこぼれた。



「ここ禁煙です。それと私はあなたが嫌いです」



生まれ変わっても、やはり嫌われていた景吾であった。




















お慕いしております〜跡部景吾編〜現代編

2012年夏の拍手より




















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