『お慕いしております』 番外編










「ちょっと聞いてますか?これからは力ではなく知力、頭ですよ
 それには情報を得ることが何より大事なんです。馬鹿みたいに刀を振り回す時代は終わったんですよ」
「そ、そっか。うん」



立て板に水を流すがごとく話し続ける観月の言葉に、主であるはずの赤澤は頷くばかり。
場所こそ当主の位置に座しているが、腰が引けて目も泳いでいる。



「分かっているなら行きますよ。今日は手塚の領地に行ってみましょう」
「だがなぁ。この前、跡部の城下で宍戸と鳳につまみ出されたばかりだろう?」


「あなたが行き先々で『おい、うまいぞ観月』と僕の名前を連呼しなければ見つからなかったんですよ」



畳を叩いて訴える観月に、あはははと赤澤は作り笑いで頭をかく。
跡部家の家臣たちに追っ払われた記憶も生々しく、段々と観月の目に剣呑な色が帯びてくる。



「物見遊山で行ってるわけでもないのに、あっちでこっちで名物だと聞いては買い求め
 海があれば着物を脱ぎ棄てて泳ごうとするし、みょうな生き物を拾ってくるし
 あなたに振り回されて僕がどれだけ苦労しているか分かってるんですか?」


「まぁまぁ、落ちつけよ。裕太、観月に新しい茶を出してやってくれ」
「お茶なんかじゃ誤魔化されませんよ」


「そう言うな。きっと気にいるからさ」



傍に控えていた不二は先日のこと観月のためだけに赤澤が買い求めた最高級の茶葉を淹れるべく腰をあげた。


近隣諸国から城の実権を握っているのは観月だと言われ、影の薄い城主の赤澤。
しかしながら個性的な観月や他の家臣たちを苦もなくまとめているのは赤澤に他ならない。


侮れない人だよなぁ・・・そう不二は思うのだった。





その頃、手塚の城では大石たち重臣が額を突き合わせていた。



「それは確かか?」
「間違いないと思うよ。手塚の想い人は跡部家の姫だ」



大石の呟きに不二は常と変らぬ穏やかな笑みを浮かべる。
ちなみに乾も同意見だよと付け加えられてしまったら大石も信じるしかない。
乾は緻密に物事を集めて見極める男だし、不二は勘も含めて人を見る目は鋭い。
この二人が揃って言うのだから間違いないだろう。
しかし、と大石は頭を抱える。



「なんでまたそんな高根の花を・・・」
「今まで女になど全く興味ないみたいな顔してたけど、実は大物食いだったんだねぇ」


「さすが殿っスねぇ。狙うところが違う」
「ね、ね?跡部家の姫って、そんなに美人なの?」



楽しげに笑う不二と感心する桃城、興味津津の菊丸に大石は溜息しか出ない。



「面白がっている場合じゃないぞ?悔しいが跡部家と手塚家では格が違う
 格上の家に見初められて姫を差し出すのならあるだろうが、跡部ほどの家が格下の者に姫を下さるものか」


「そう卑屈にならなくてもいいんじゃないの?跡部は殿を認めているし、実際に剣の実力は負けてない」


「だが」
「ま、なんとかするよ。殿の初恋だしね」



常識的な大石は悲観的に考えているのだが、不二は楽観的だ。
なにか策があるのだろうかと大石は問うてみる。



「なんとかって、どう」
「将を射るならまず駒を射よって言うだろ?ふふふ、忍足から攻めようかな」



答えた不二が唇に人差し指をあてて嬉しそうに考えている。
大石たちは思う。不二だけは敵にまわすまいと。





その頃、跡部の前には木手永四郎がいた。
上座にすわる跡部の鋭く刺すような視線にも、木手は委縮するわけでもなく平然と座している。



「で?なんの用だ」
「早乙女様から領地を貰い受け、新たな城主となりました御挨拶です」


「貰い受けねぇ・・ものは言いようだな」



家臣である木手が前城主の早乙女を倒し、新たな主となったことは跡部の耳にも届いている。
いけすかない男であった早乙女がどうなろうと知った事ではないが、次の狙いが自分に向かうとなれば話は別だ。
易々と攻められる気はないのだが、やっと諸国が落ち着いてきたところで再びの戦は避けたい。
愛しい妻に心配をかけたくないというのも正直なところだ。



「他のお家騒動に口をはさむ気はないが、火の粉が降りかかってくるとなれば容赦はしないぞ」



牽制とも言える跡部の言葉に、木手は唇の端だけで笑った。



「まだ大軍に立ち向かうだけの力はありませんよ。どうぞ、ご安心を」



跡部は片眉を上げ、掌で扇子を鳴らした。


立ち向かうだけの力がつけば分からないということか。
ちっ、油断ならねぇ嫌な野郎だ。


内心で舌打ちした跡部に微笑みかけ、木手は視線だけで後ろの者を促す。
木手と同様に隙のない所作で甲斐が跡部の前に贈り物を置いた。



「ささやかなものではありますが、お近づきのしるしに」





穏やかな陽射しが室をつつむ。
その中心にいる人は輝く瞳を大きくして手の中の物を見入っていた。



「綺麗・・・」



感嘆したような声色に跡部は表情を緩める。
くれた相手は食えない男だったが、妻が喜ぶのなら好しとしよう。



「星の砂だとよ。どこぞの離れた島にあるらしい」
「どこぞの離れた島?まぁ、どこでしょう。これを下さった方に話をお聞きしたいです」


「やめとけ、やめとけ。触れたら切れそうな奴だったからな」
「触れたら切れるのですか?星の砂は危なそうに見えませんけど」



きょとんとして手のひらの砂を見つめる妻に跡部は溜息をついた。


相変わらず話がかみ合っていないが、いつものことだ。
無垢な妻は珍しい砂を前に童のような笑みを浮かべる。



この笑顔だけは俺が守ってやらないとな。



跡部は脇息に頬杖をつきながら、妻の横顔を飽きるまで眺めていた。





















2011年バレンタイ 拍手SSより



















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