『おやすみ』 〜跡部編〜
「景ちゃん、これ。」
恥ずかしそうに差し出された紙袋の中を覗けば、想像通りの物が入っていて口元が緩む。
手に取れば柔らかな感触のソレ。
「ふーん、去年よりは上手くなったんじゃねぇか?」
「本当?」
言いながら手編みのマフラーを首に巻けば、が嬉しそうに両手を口元に寄せて喜んだ。
普段の俺は『手作り』なんてものは好きじゃない。
素人よりはプロの奴に作らせた物の方が出来がいいに決まってるし、
とかく手作りというと余計な気持ちが込められていて始末に悪い。
だが、コイツが俺に寄こす手作りは特別。
既成のものなど渡された日には反対に不機嫌になっちまう程、俺にとっては特別な女。
こんなこと口に出しては言ってやらないが、呆れるぐらい好きだってことだ。
「気に入った。ありがとよ。」
「うん!」
俺に気に入って貰えるかと緊張していたんだろう。
パッと花を咲かせたの笑顔が可愛らしい。
その大きな瞳が赤いのに気づけば愛しさが増した。
「お前、今日は時間あるのか?」
「別に予定はないけど、なんで?景ちゃんこそ忙しいんでしょ?」
「俺はお前が来るっていうから、やるべき事は済ませてきた。」
今頃は忍足が文句を並べながら俺の分まで働いていることだろう。
いつもいつも忙しいのは俺なんだ。
たまにはアノ要領のよさを俺のために発揮しても罰は当たらないだろうよ。
「お互いに予定がなけりゃ問題ない。来いよ、。」
ほけっとしているの手を引いて、寝室のドアを開けた。
きちんとベッドメイキングされたベッドカバーをはげば、途端にが俺の腕から逃れようとする。
「け、景ちゃん、待って!ダメよ、あの・・・」
顔を真っ赤にして今にも俺の腕を振り払わんばかりの様子に笑ってしまう。
人を野獣か何かと勘違いしているのか。
まぁ俺だってソノ気がないと言えば嘘にはなるが、今は別だ。
「バーカ。お前、なに考えてんだ。」
「え・・なにって・・・」
「お前、昨夜も寝てないんだろう?
ここ最近も欠伸ばっかりしてたしな。ずっと寝不足なんだろう?」
瞳を大きくしたが次にはバツが悪そうに目を伏せる。
不器用なお前がどんなに苦労して、時間をかけ作ったものかが分かるから嬉しいんだよ、俺は。
「だから寝かせてやるよ。今なら俺の添い寝付きだ。」
「景ちゃんの?そ、そんなの眠れるはずがないじゃない!か、帰るね。」
「帰すかよ。眠れないなら眠れるまで羊でも数えてやるさ。とにかく、横になれよ。」
「で、でも」
「本当は朝まで帰したくないのを我慢して夜には帰してやるんだ。
時間がない。つべこべ言わずに寝ろ!」
せいぜい二時間ほどしか時間はないだろう。
俺だってお前を充電したい。
躊躇うの相手をする時間がもったいないと実力行使することにした。
隙だらけのの前にかがむと、一気に膝裏に手をつっ込み抱き上げる。
ぎゃあと色気もへったくれもない声をあげたの体を有無を言わさずベッドに移動させた。
「景ちゃん!」
「マフラーは外すぞ。」
断りを入れてマフラーを外すと頭もとに折って置く。
ジャケットも脱ぐと逃げ道を塞ぐべく、さっさと俺はベッドに横たわった。
そして、うろたえるの手首を掴んで思いっきり引っぱれば、いとも簡単に軽い体が落ちてくる。
俺の胸に鼻を打ちつけ何事か言ってるようだが無視だ、無視。
さっさと背中に手をまわし抱きこめば、愛しい温もりが俺の腕に納まった。
「目と口を閉じろよ。」
「そんなこと、」
「閉じなきゃ、その口を俺が塞いでやる。」
身の危険を感じたのか、眉根を寄せたが素早く唇を隠した。
言うんじゃなかったと内心で舌打ちしつつ、キスをしたなら止められなかったかもと思い直して溜息をつく。
こんなに無防備にいられるとかえって無茶ができないってもんだ。
「子守唄、歌ってやろうか?」
「ううん・・・いい。笑っちゃうもの。」
やっと諦めたのか、俺の胸から顔を上げたが小さく笑う。
そんなの頭を優しく撫でながら俺は目を閉じた。
「景ちゃん」
「ん?」
目を閉じたままの声を聞く。
それはとても穏やかな音色。
「やっぱり何か喋って。」
「何を?」
「なんでもいいの。景ちゃんの声、・・・聞いていたい。」
まったくよ、俺を喜ばせるようなことばかり言いやがって。
さて、どうするか。
トントンと規則正しく華奢な背中を叩きながら考える。
子守唄を歌ってやるのは流石に恥ずかしい。
甘い言葉を囁いてやってもいいが、俺に歯止めがきかなく恐れがある。
仕方ない。
「羊が一匹、羊が二匹・・・」
クスクスとが笑っている。
僅かな震動が体に響いてきて、くすぐったいったらない。
「コラ、笑ってないで寝ろ。」
「はーい。」
「犬が三匹、猫が四匹、ネズミが五匹・・・」
「景ちゃん、もうっ」
じゃれながら過ごす時間。
そのうちに少しずつの笑い声が小さくなり、胸に響いていた震動が減っていく。
声を落としていけば、穏やかな寝息が聞こえてきた。
うっすらと目を開ければ幸せそうな恋人の寝顔。
「おやすみ、。」
柔らかな髪にキスを落とせば、途端に眠気が襲ってくる。
がいれば、それでいい。
俺は抗うことなく眠りに身を任せた。
おやすみ 〜跡部編〜
「ふたり番外編」
2007.06.02
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