『おやすみ』 〜乾編〜












研究室で生き倒れになっている恋人を救出して一時間。
彼女は拾ってきた子犬のようにガツガツとチャーハンを食べている。



「ああ、幸せです。こんなに美味しいチャーハンは食べたことがありませんっ」
「それは、どうも。」



単純に腹が減っているから、なんでもウマいと感じるのだろうが反論はしない。
いっそ気持ちいいほどの食べっぷりを見せる君を見ているのも悪くないから。



「ハナちゃん、ご飯粒。」



顔を上げた恋人の口元に引っ付いたご飯粒を指してから、思いついて唇を寄せる。
柔らかな肌と一緒に米粒にキスをしたら、初心な恋人は忍者並の素早さで飛び逃げた。


ホント、可愛いね。なんなら全部、たべてあげようか?


なんて思ってから、あまりにオヤジな台詞だと反省した。



お茶碗ぐらい洗いますからと言ってくれたのはいいけど、背中で何かが割れる音。
続けて「乾さん、すみません〜」と情けない声がするのにも慣れてしまった。


いいからお風呂に入りなよと勧めれば、そんなわけにはいきませんと正座して頭を横に振る。
それでも無理やり風呂にいかせれば、一時間以上にわたって出てこないうえに何やら歌い続けていた。


とにかく恋人は不器用で、突拍子もない。
でも本人は大真面目で、それが可笑しくもあり可愛いんだ。





「泊まっていきなよ。」



下心満載で誘えば、滅相もゴザイマセンと頭を下げて帰ろうとする君。
タダ飯とタダ風呂で帰ろうなんて図々しすぎるだろうと睨めば、ほとほと困った顔で頬を染めた。


可愛い可愛い君を抱いてしまおうと、急いでシャワーを浴びる。
濡れた髪を拭く時間さえ惜しんで、バスタオルを被って出てくれば・・・・



「やられた・・・」



君はテレビの前に寝転がり、既に夢の世界へと旅立っていた。
わざわざラグも敷いてないフローリングの上で寝なくてもと思うのだが、段ボールを敷いた床の上でも眠れる人間だ。
おまけに三日間は研究室に籠っていたから、ほとんど寝ていなかったのだろう。
胎児のように体を丸め、ぶかぶかのトレーナーに着られている君の寝顔は安らかだ。


俺は上半身裸のうえにバスタオルを被った情けない姿で溜息をつくしかない。



まぁ、いいか。



起きてくれたらいいなと期待して抱き上げたけど、無駄だった。
軽い体に『もう少し栄養のあるものを食べさせときゃ良かった』と思いつつ、ベッドへ運ぶ。



今日の君は俺と同じ香り。
それでも少し甘く感じてしまうのは、君に恋しているからだろうか。
思って、自分で照れてしまった。



彼女をベッドの奥に押し込み、暫し考えて自分も毛布の中に潜り込む。
髪を乾かさないと明日の朝は爆発するんだけどな。
それより上半身裸で寝てる俺が隣にいたら、目覚めたハナちゃんが卒倒するかもしれない。



ウン、それは楽しそうだ。



メガネは外して枕元に。
明かりを消して、モゾモゾと寝心地のいい場所を探す。
ベッドが狭くて窮屈だけど、君だから辛くない。



「乾・・さん」
「ん?」



腕枕をしてやろうとしたら、小さな声が聞こえた。
顔を近づけて覗き込んでみたけれど反応はなくて、君の寝言だったと知る。



どうしよう。胸の中に愛しいと思う気持ちが溢れてきて止まらない。



「大好きだよ、ハナちゃん。
 ね、目が覚めたら・・・プロポーズしてもいいかな?」



耳元に囁いて、額にキスをする。
ほんの少し湿ってる君の髪に鼻先を埋めて、目を閉じた。





「おやすみ」





そう遠くない未来、毎晩のように君を腕に抱いて言えますように。




















おやすみ 〜乾編〜 
嘘吐きな酔っ払い 番外編 

2007/09/30




















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