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『power』 〜跡部編〜










「お前は黙って俺の傍にいればいい。」



そう景ちゃんに言われて苦手なパーティーに顔を出した。
婚約はまだだけど、婚約者と同じ立場で出席する初めてのパーティー。
跡部グループに関連した会社のパーティーは、華やかで人が多いのに圧倒される。
幼い頃から同じような席に顔を出していた私でも、その豪華さに溜息が出た。


パーティーでは私たちの事を知る人から気の早いお祝いの言葉を貰ったりして、景ちゃんと二人で挨拶をした。
恥ずかしかったけど、本当に景ちゃんのお嫁さんになるんだと実感できて嬉しかった。



、少し向こうの狸たちに挨拶してくる。
 お前はここで待ってろ。あと、寄ってくる男は相手にするなよ。」



真面目な顔で景ちゃんに言い聞かされ、手にはソフトドリンクを持たされた。
景ちゃんが向うのは大企業の頭取や会長など威圧感を醸し出している集団。
その中に祖父や父が混ざって談笑しているのを横目に、連れて行かれなくて良かったと心底思う。
さりげない景ちゃんの気遣いに感謝しつつ、目立たないようホールの隅に移動した。



そこにはバルコニーに続く大きな窓があって庭が見える。
外は闇だけど、ライトアップされた庭園に白いバラが浮かび上がって美しかった。
同じ白のドレスを着た私もバラに重なるように映っている。


景ちゃんが私のために選んでくれたドレスだけど似合っているかしら?
私を見る人たちの目が気になって落ち着かない。
だって景ちゃんがあんまり素敵だから・・・子供っぽくて綺麗じゃない自分が不釣り合いに思えてしまう。
どこの誰と会っても堂々として自信に満ち溢れている人の隣に立つには、私はあまりにも平凡すぎる気がしてならなかった。



「跡部家の御子息と言えば、他に幾らでもメリットのある縁談があるだろうに。」
「まだ随分とお若いのに、何を早まって婚約を決められたのかしら。」



私の顔を知らないだろう人達が噂しているのだって聞いてしまった。
その通りだと思えば気分は沈み、今すぐ逃げ帰りたい気持ちになる。
でも最後まで居ないと景ちゃんに迷惑をかけてしまうと思い我慢した。



「景ちゃん、どこかな・・・」



ふと視線をホールに戻せば、景ちゃんは私の知らない綺麗な人と立ち話をしていた。
年上の女性だけど景ちゃんは見劣りもせず、お似合いにも見えるふたり。
別に親しげでもないし、私には景ちゃんが不機嫌なのも見て分かる。
なのに胸の奥から湧いてくるモヤモヤとした気持ちが抑えられなくて目をそらした。


景ちゃんを見ていられなくて伸ばした手は、バルコニーへ続く大きなガラスドア。
あっさりと開いたドアから外へ出れば、草花の生々しい香りが満ちていた。


私なんかより何倍も綺麗な人だった。
鮮やかな色のドレスが似合っていて、スタイルだって溜息が出るほど整っていた。
ちっとも女性らしく成長しない我が身を思うと情けなくなる。


景ちゃん・・・本当に私なんかでいいのかな?
私の家と縁を結んでも跡部の家は殆どメリットなんかない。
特別に綺麗なわけでも、何か高い能力があるわけでもない。
ただ小さな時から景ちゃんの近くにいたというだけの私なのに。



「お嬢さん、御気分でも悪いのですか?」



考えこんでいたら、目の前にグラスが差し出されていた。
隣を見上げると見たこともない若い男性がにこやかに立っている。


誰だったかしらと考える暇もなく私が手にしているソフトドリンクが取り上げられ、
シャンパンらしき琥珀色が入ったグラスを手に持たされた。


男性の近い距離に驚いて一歩下がれば、彼も一歩近づいてくる。



「あ・・あの、あなたは?」
「可愛いね、君。僕は・・」と、彼の自己紹介が始まる前に再び手が伸びてきて取り上げられたグラス。


スッと肩に回された温かな手に顔を上げれば、不機嫌を隠しもしない景ちゃんが男の人を睨んでいた。



「彼女に何か?」
「え?あ・・いや、気分が悪そうにしていたから様子をね。」


「それは御親切に、どうも。」
「いや、まあ。」



突然に現れた景ちゃんに私も驚いたけど、目の前の男の人も驚いて後ずさる。
そんな人に私から取り上げたグラスを突き返し、「コイツは未成年ですから」と言う景ちゃんの迫力は怖いほどだった。
お愛想笑いをしてバルコニーからホールへ戻る男の人の背を見送ったと同時に私を見下ろす景ちゃんの目が怖い。



「景ちゃん・・・」
、俺は寄ってくる男を相手にするなと言わなかったか?」


「相手も何も知らない人なの。」
「馬鹿、よけいに悪いんだよ。ふらふらと勝手に出て行くからだ。」


「ちょっと外の空気が吸いたくて・・あの・・」
「まったく。とにかく帰るぞ。」


「え?いいの?まだパーティーは終わってないよ?」
「もう務めは果たした。おら、行くぞ。」



特大の溜息をついて景ちゃんが私の手首をつかんで歩き出す。
騒がしいホール内を事務的に挨拶しながら、まっすぐ出口に向かって歩く景ちゃんの背中を私は追う。
コートを羽織る間もなく外へ出れば、やっと景ちゃんが私を振り返った。



「寒いだろ。ほら、コートを着ろよ。」



そう言うと私の手からコートを取り、肩に着せかけてくれる。
もたもたとボタンを留めていたら、景ちゃんの長い指が素早く残りのボタンを留めてくれた。
最後には優しい手つきで私の襟元を直し、その手でふんわりと髪をなでられる。
その仕草がくすぐったくて俯けば、景ちゃんのキスが額に落ちてきた。



「少し・・・歩いて帰るか?」


「いいの?」
「お前、歩いて帰るの好きだろ?」



ちょっと違うけど、嬉しいから頷く。
歩くのが好きなんじゃなくて、景ちゃんと一緒にいられる時間が長くなるから歩きたいだけなの。
もう怒ってないのか、いつもの笑顔を浮かべた景ちゃんに手を繋いでもらって歩き出した。



「本当に帰って良かったの?」
「ああ。長居しても、なんだかんだと煩わしいことを言われるだけだ。
 今回は婚約が決まったこともあったしな、興味本位に色々と聞かれて疲れた。」


「そう・・・」



また気分が暗くなる。
景ちゃん何を言われたのかなって、気になるけど怖くて聞けない。
ついつい爪先を見つめながら歩いていたら、横からコツンと頭を叩かれた。



「どうした?誰かに何か言われたか?」
「ううん、なんにも。」



慌てて笑顔を作ったけど、景ちゃんは眉根を寄せて私の顔を見てる。
お前、相変わらず嘘が下手だな・・・と呟くと足を止めて私の前に立った。
両手で私の頬を包むと、しっかりと視線を合わせてくる景ちゃんの瞳は蒼くて綺麗。
いいかと強く前置きして、景ちゃんは私の瞳を覗き込むようにして言ってくれた。



「いいか?お前は俺が望んで、俺が選んだ女だ。
 誰に引け目を感じる必要もない。
 周囲の言葉なんぞに惑わされるな。
 俺を信じて、俺だけを見てろ。」


「景ちゃん」



私は鼻の奥がツンとするのを感じながら微笑んだ。



「やっぱり俺様だね。」
「馬鹿。忍足だろ、お前にそんな言葉を教えるのは。」



そう言って、おでこを軽く弾かれる。


景ちゃんは、いつもそう。
私が欲しい時に欲しい言葉を必ずくれるの。
落ち込んでる時も、悲しい時も、景ちゃんだけが私を一瞬で元気にできる。



「ありがとう・・・景ちゃん。」
「つまんないことで悩んだりすんなよ。俺は、」



お前が笑ってるのが好きなんだ。


ウン!



私が半分泣きべそで笑えば、景ちゃんも困ったみたいな笑顔でクシャクシャって頭を撫でてくれた。
大好きな景ちゃんが隣に居てくれれば、もう大丈夫。



「私もね、いつも景ちゃんにパワーを与えられる存在になりたいな。」



そう願いを口にしたら、景ちゃんが瞳を細めた。



「もうなってるぜ」って。





















『power』 跡部編 

2006.05.28 

ふたり 番外編




















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