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『power』 〜観月編〜










観月クンと私は会えば口喧嘩の間柄。
だからといって仲が悪いわけではない。
赤澤君に言わせると『似た者同士だろ』ということで、女友達以上に相談できる相手でもあった。


たった一つの事柄だけは相談できないにしても、だが。



「今度の大会、どうしてもベスト8以上にならなくちゃ。」


「あなたの気持ちは分かりますけどね、故障者が出ている今の状況では難しいですよ。」
「分かってる。でも、どうしても・・・」



オーダーを前に自分に言い聞かせているような私。
手にした花柄のボールペンを額にあて、少し考える素振りをした観月クンが溜息をつく。



「手がないことはない。あなたが諦めないのなら、やれる事はあります。」
「本当?やるわ、私は何だって。」


「なら説明しましょう。まず初戦の西高ですが、」



私は観月クンの話を真剣に聞き、メモを取った。
男子テニス部と同様、女子テニス部も地方からの寄せ集めで構成されている。
それぞれが特待生として入学し、ある程度の成績をあげることが課せられ努力している。


私だってルドルフに通えるような裕福な家の子供ではない。
テニスがあったから、親元を離れ施設の整った此処でテニスが出来ている。
私だけじゃない、他のメンバーだって同じだ。



「ですが、このオーダーを組めば・・・あなたの負担が大きくなる。
 シングルスでも上位を目指しつつ、団体でも出ずっぱりでは体力が持つか。
 下手をしたら、あなたのシングルスに響きますよ?」


「それで団体が上位に食い込めるのなら。」



観月クンは私の顔を見ながら、冷静にアドバイスをくれる。



「成績で言えば、あなたはシングルスで充分にベスト8に入れる実力です。
 そちらに集中した方がいいんじゃないですか?学校側もそれを望んでいるでしょう。
 団体は故障者がいるのだから、今回は仕方ない。
 あなたの責任ではないし、部長だからといって特待から外されるわけでもない。」


「でも、」



私は首を横に振る。それでは駄目。



「団体にしか出られないメンバーの中から特待生を外される子が出るかもしれない。
 それは駄目なの、絶対に。」



共に頑張ってきた仲間。
これまでにだって先輩や友達・・・何人もが成績を残せずに学校を去っていった。
あんなのは絶対に嫌。


最後まで共に戦って卒業したいの。



私が常から仲間を失うことに過敏なのを知っている観月クンは「そう言うと思ってましたけどね」と小さく笑った。



先輩がいる間は、シングルスの試合のみに集中できた。
そのおかげで結果を残してきた私だけど、部長になって全員の事を考えたら道は一つしかなかった。


私は観月クンのアドバイスに添って、ほぼ全ての時間をテニスにつぎこむようになった。



体が辛い。
夜には体中が悲鳴をあげてギシギシいっていた。
精神的にもプレッシャーが大きかった。
弱音を吐く部員を励まし、自分が率先して声を出し明るく振舞う。


負けられない。とにかく頑張らなきゃ。
そればかりが私の中にあった。



今日も快晴。
お天気が良すぎるかも。少し曇ればいいな・・・と思う。
陽射しの眩しさに目がくらむ気がしながらもコートに立っていた。



「はい!じゃあ、次!試合形式でフォーメーションを試してみよう。」



実践練習が始まり、体の重さを感じながらもラケットを振り上げた。
その時、太陽が目に入ってクラッとした気がするのだが、よく憶えていない。


ただ誰かが私の名前を呼び、肩を揺すっていた。
そんな気がした。









目が覚めれば白い天井が半分だけオレンジ色に染まっていた。
綺麗だなとボンヤリと思えば、隣から静かな声がかけられた。



「やっと起きましたか。このまま朝まで眠り続けるんじゃないかと心配しましたよ。」
「観月クン?え・・私、」


「あ、まだ起きない方がいい!」



ハッとして起き上がろうとすれば、途端に眩暈がして額を押さえた。
素早く背中に添えられた手が宥めるように動き、体をベッドに戻してくれる。



「ゴメン、私・・倒れたんだね。」
「そうですよ。部長が倒れたってね、女子の一年生が呼びに来て驚きました。」


「まさか観月クンが運んでくれたの?」
「たまたま僕がいたところへ呼びに来たんですよ。仕方ないでしょう?」



ひえぇぇと顔が赤くなるのが分かって焦った。
なんて運の悪い。



「お、重いのによく運べたね。ご迷惑をおかけしました。」
「あなた、僕を馬鹿にしてるんですか?あなた一人ぐらい軽々ですよ。」


「嘘、観月クン非力そうなのに。」



場をつくろうように冗談めかして言ってみたけど、観月クンはニコリともせずに憮然としている。
何だか怒っているみたいだ。


部活中に私のせいで引っ張られてきたのだから機嫌も悪くなるか。
にしても、既に日が傾いてきているのに何故に観月クンが此処にいるんだろう。



「えっと・・本当にゴメンね。保健の先生は?もう大丈夫だから部活に戻るわ。」
「あなた、」



再び体を起こしながら言えば、観月クン眉間に深く皺が寄った。
更に不機嫌になった観月クンの瞳に西日が射して綺麗だ。
そう気づいたら急に恥ずかしくなって俯いた。



大丈夫、今度は眩暈しないし。



「観月クンも戻って。ホント、ごめん!次からは男子部に迷惑かけるなって言っとくから。」


「いい加減にしなさい!」



思いがけない観月クンの大声に体が跳ねた。
驚きのままに彼の顔を見たら、怒りと遣り切れなさが混ざったような複雑な顔をして私を見ている。



「何が『次からは』ですか!これから後も無理してはバタバタと倒れるつもりですか?
 いい加減にしなさい!あなたが倒れたと聞いて、僕がどんな思いをしたとおもってるんです?」


「観月クン・・・」


「あなたが他の部員の事を想う気持ちが分かるから手を貸しました。
 だけど、それによって自分を顧みずに無茶する姿を横で見てるしかなかった僕がどんな思いでいるかなんて考えもしない。
 いい加減こっちも我慢の限界を超えてるんです。聞いてますか?」


「は、はい」


「この際だから言わせてもらいますけど、何でも自分で背負って頑張りぬこうなんて甘いんです。
 ひとりの力なんて微々たるものだ。そんな微々たる力で何もかも解決しようなんて思いあがりも甚だしいんです!」


「す・・すみません」



ベッドの脇で烈火のごとく怒り始めた観月クンに唖然としつつも頷くしかない。
でも観月クンの言葉の端々から私を心配してくれていただろうことが分かって胸が温かくなった。



「柱であるあなたが倒れたのでは本末転倒でしょう?
 それなのに無茶ばかりして!ちゃんと食べてるんですか?マッサージは毎晩してるんですか?
 ちょっと・・・何を笑ってるんです?僕は怒ってるんですよ!」


「ゴメンなさい」



ああ、いけない。
ついつい嬉しくて頬が勝手に緩んでしまうのよ。
観月クンが怒れば怒るほど、私のことを思って言ってくれているんだと嬉しくて・・・ついね。



だって私、あなたのことが好きなんだもの。



「観月クン、ありがとう。
 たくさんアドバイスしてくれた上に心配までしてもらって・・・本当に感謝してる。」



心からのお礼を言えば、開きかけた口を閉じた観月クンが特大の溜息をついた。
なんか脱力してる。


怒りが急速に鎮火したらしい観月クンは面倒くさそうに手を振った。



「分かったんなら、もう少し寝てなさい。部活が終わったら荷物を此処へ持ってくるよう頼んでありますから。」
「でも、」


「デモもカカシもありませんよ。寝てろと言ったら。寝ろ!
 僕の言うことが聞けないのか?」


「おやすみなさい!」



鎮火したと思った怒りが再燃して、私は慌てて布団にもぐった。
薄っぺらい毛布から目だけを出して観月クンの様子を探る。


そんな私の姿に観月クンがフッと笑った。
此処に来て初めて笑った顔を見たと嬉しくなった、その時。
観月クンは穏やかに笑った表情のままで静かに言った。



「これでも僕は神経が繊細で心配性なんです。
 あなたの頑張りやなところ、他人のことまで思いやるところは気にいってますけどね、倒れてまではして欲しくない。
 僕のことを思うなら、もうちょっと自分を大事にしてください。」



どうしよう・・鼻の奥がツンとする。
好きだと言われたわけでもないのに、胸がドキドキしてイッパイになってくる。



「あなたの力になりたい。
 僕はいつも・・そう思ってますから。」



ウン、ありがとう。
声にならずに、とうとう涙が目尻から零れた。



観月クンは黙ったまま人差し指で涙をすくう。
その微笑みがとても柔らかだったから、私は余計に涙が止まらなくなる。



大好きな人の言葉、存在。
それが何よりの力になると私は知った。




















テーマ『Power』観月編 

2007.05.24  

二年ほど前にリクで頂いたテーマのお題・・・大変お待たせいたしました!




















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