テーマ 『power』 〜真田編〜
久しぶりに高い熱が出た。
体が弱くて熱を出すのが日常茶飯事だった小学生時代。
『俺がテニスを教えてやろう。楽しいぞ。』
そう言って私の前に差し出された大きな手。
あれから徐々に体が丈夫になって、寝込むなんて本当に久しぶり。
虚弱な私にできるのかと親も心配したテニスだったけど、私の体も心も健康にしてくれた。
あーあ。今頃、みんなはコートに立っているんだろうな。
準レギュラーにもなれない私だけどテニスは大好き。
だから学校を休むことより何より、部活を休まなくちゃならないのが辛かった。
はやく熱が下がりますように。
幼い頃のように天の神様にお願いしつつ目を閉じた。
ピンポンという音で少し意識が浮上した。
けれど寝る前に飲んだ薬のせいなのか眠くて眠くて目が開けられない。
お母さんが出たらしく、何やらやけに明るい声がする。
何を話しているのかは分らないが、お母さんの高い声に交じってボソボソと低い声がした。
集金かな・・などと、半分は覚醒していない頭で思う。
そのままウトウトしていたら階段を上ってくる足音に続いて遠慮がちなノックがされた。
「は寝てるかもしれないわ。お薬飲んで寝かせたから。」
「そうですか。」
あ、この声。
聞きなれた声に頭が反応した。
起きなくちゃと無理矢理に意識を覚醒させようとする。
すると静かにドアが開き、「入るぞ」という声がハッキリ聞こえた。
うっすらとなんとか目を開ければ、カラシ色のジャージが至近距離にあった。
ひんやりとした大きくてゴツゴツした手が額に乗せられる。
「気持ち・・いい。」
「すまない、起こしたか?」
「ううん、大丈夫。弦一郎の手、冷たくて気持ちいい。」
「まだ熱があるからだろう。それにしても、お前が寝込んでいるのを見るの久しぶりだな。」
そっと冷たい手は離れていき、私は内心で残念に思う。
思わず布団の中の手を出せば、それに気づいた弦一郎がその手を握ってくれた。
「どうした?」
「手・・・」
「ん?」
「握ってて・・・」
「いいだろう。」
病気の時って心細くなる。
幼馴染の弦一郎は小さな時から手が大きかった。
手のひらを合わせたら、いつも私より関節一つ分は長かった指。
その手で額の熱を測っては、私の手を引いて家まで連れて帰ってくれた。
弦一郎は私の手を包んだままベッドの端に腰をおろし、肩の荷物を床に置く。
相変わらず多くを喋る人じゃない。
それでも傍にいるだけで安心できる存在感と温もりにホッとする。
「プリントを預かってきている。」
「うん。」
「何か食べたのか?」
「アイスクリーム。」
「それでは腹の足しにもならんだろう。」
その物言いに私が笑えば、弦一郎が体の力を抜いたのが分かった。
心配症なのは変わってないようだ。
「何か食べるか?おばさんに貰ってくるが。」
「いい、ここにいて?」
「わかった。」
甘えてるのは分かってる。
でも、こんな我儘を言えるのは弦一郎にだけ。
つらい時に傍にいてほしいのも弦一郎だけなの。
「ゴメン・・・我儘」
「かまわない。」
弦一郎は穏やかに微笑んで私の前髪を優しく撫でてくれた。
気持ちよくて目を閉じる。
それっきり言葉はなくて、外を走る車の音がよく聞こえた。
弦一郎の息遣いと温もりだけを感じながら、また眠りの世界に誘われていく。
どれぐらい時間がたったのだろう。
曖昧な感覚の中、『はやく元気になれよ』と弦一郎の声を聞いた。
その後に柔らかく何かが額に触れた気がする。
目覚めた時には部屋は暗くなっていて、机の小さなライトだけが点けられていた。
弦一郎?と居ないの知りながら呼んでみた。
熱は下がったらしく体が汗ばんでいる。
そして喉はカラカラで、呼んだ名前が掠れていた。
弦一郎が握ってくれていた手は布団の中に戻されていて、もう感触も残っていない。
寂しい・・・そう思った時、布団の上に何かが被せられているのに気がついた。
くらくらする頭で起き上がり、それを手にすれば勝手に微笑みが零れる。
それは立海のレギュラージャージ。
弦一郎の着ていたカラシ色のジャージが残されていた。
寂しさなど一瞬で吹き飛び、
温もりの残っている気がするジャージを抱きしめれば弦一郎の香りがした。
「大好き」
静かな部屋に呟いた自分の声に赤面しつつも嬉しくて、
弦一郎が置いていってくれたジャージに袖を通し、再び布団にもぐりこむ。
まるで弦一郎の腕の中。
途端に元気になれそうな力が湧いてきた気がしてクスクス笑いが止まらない。
今夜はジャージを抱きしめて寝よう。
そうすれば、きっと明日には熱も下がって元気になってる気がするもの。
いつも私に力をくれる、ただ一人の大事な人。
私は弦一郎に包まれて目を閉じた。
テーマ『Power』 真田編
2007.05.25
恋人には甘い真田もいいでしょう?
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