あなたにあげる 〜菊丸編〜
英二クンの24歳の誕生日。
高校生の時に付き合い始めて、それからずっとお祝いしている。
家族も多いし、お友達だって多い彼。
英二クンの誕生日をお祝いしたい人は沢山いる。
とてもじゃないけど、大切な誕生日の日を私一人で独占するなんて無理だ。
高校生の時は、テニスに打ち込んでた彼が私のために時間を割いてくれるだけで嬉しかった。
それが、たった30分でも・・・大好きな英二君を祝うことが出来る幸せな時間だった。
大学が別々になっちゃって。
私が先に社会に出た頃は、ちょっとギクシャクしたこともあった。
もう駄目なのかなって思ったことも、正直あった。
その度に泣いたり怒ったりを繰り返し、最後には英二クンの変わらない笑顔があって、今がある。
『もしもし??今年も、前日に泊まりにいく。いい?』
「もちろん、そのつもり。ね、何か欲しいものない?」
『えへへへ。今年はね、もう決めてあるんだ。』
「そうなの?珍しい。いつもギリギリまで迷うのにね。」
『まっ、ね。今年は、特別。』
「そうなの?で、何?」
『あのね、フライパン!大きめのヤツがいいな。もちろんフッ素加工したヤツを。』
「フライパン?」
思いもしない品物に素っ頓狂な声をあげてしまった。
電話の向こうで英二クンがクスクス笑いをしているのが聞こえる。
『必需品でしょ?毎日、使うしさ。あのね、が使いやすい・・・と思うのを選んできて。』
「うん・・・いいけど。本当に、そんなのでいいの?」
『ん。にひひひひ。いいから、いいから。』
なんだか物凄く嬉しそうな声。
色気も何もない誕生日プレゼントだけど、
やっぱり英二クンが一番欲しいものをあげたいから快く頷いた。
電話を切ってカレンダーを見る。
今年の11月28日は月曜日。
前日は、ちょうど日曜日になるから英二クンが泊まっていっても大丈夫そう。
ゆっくり誕生日前夜祭の準備も出来る。
大学に通い始めた頃から、二人で祝う誕生日は前日になった。
というか、前日から会って28日午前0時を共に祝う。
英二クンの誕生日、一番最初を私に祝わせてくれる。
そうすることで、当日は英二クンが家族と過ごしても、友達と騒いでも・・・一番は私のもの。
英二クンが私を特別に想ってくれてる気持ちが嬉しい。
私が一人暮らしを始めてからは、前日は必ず泊まっていくようになった。
27の夜はケーキを前に時計を見つめ、ワクワク顔の英二クンと28日を待つ。
ここ最近は、そんな幸せな誕生日を過ごさせてもらってる。
翌日には早速、会社帰りに店を回ってフライパン探し。
実家にいる英二クンだから、フライパンは大きい方がいいんだよね、きっと。
でも・・・どれくらいの大きさが必要なのか見当もつかない。
何度か見た事がある英二クンちのフライパンの大きさを思い出しながら、実際に手にとって考える。
私が使いやすい・・・と思うのを選んできてと言われた。
うーん、ちょっとプレッシャーを感じる。
何日もかけて。
あれでもない、これでもないと手にとって探し、英二クンの誕生日直前にやっと選ぶことが出来た。
手に持った時、一番、手にしっくりきたフライパンにした。
外国製だったから値がはったけれど、大事に使えば長く使えるって店員さんも言ってたし・・・
私的には満足した買い物。
そして、今日は27日。
学校の先生をしている英二クンは、休みもテニス部顧問の仕事がある。
夕方になればお腹をすかせてヘロヘロになって来るのは分かっているから、早めにディナーの準備を始めた。
今年はお休みだったから、昼間のうちにケーキなんか焼いてしまった。
見栄えは買ったものに敵わないけど、英二クンなら喜んでくれるだろう。
食卓に可愛いミニブーケも飾ったし、後は英二クンを待つばかり。
6時も過ぎた頃、英二クンはやってきた。
部屋に上がってきてテーブルを見ると「わおっ」と声をあげて目を大きくする。
そんな顔を見ると、私も嬉しくて笑顔になっちゃう。
すぐにでも食べたそうな英二クンをなだめてシャワーを浴びてもらった。
タンスから出してきた彼の部屋着。
それを洗濯機の上に置きながら、シャワーを浴びる英二クンの鼻歌を聞く。
いつもの部屋に、恋人がいるというだけで華やぐ雰囲気。
どうにも弾む心は抑えられなくて、今さらだけど英二クンが本当に好きなんだと思って・・・恥ずかしくなってしまった。
子供みたいな英二クンが濡れた髪で食卓につく。
早く、早くと急かされて、あっという間にディナーが始まった。
今日も英二クンが学校で起こった様々なことを話してくれる。
生徒達が可愛いんだなぁ・・・って、聞いてる私も心が温かくなる話ばかり。
時間は瞬く間に過ぎて、コーヒーを出した時には0時が近くなっていた。
「え〜、マジマジ?凄いよっ、。手作りなんて、俺・・・愛されてるよねっ」
手作りケーキに、思ったとおりの反応を示してくれる英二クンが可愛い。
ローソクを吹き消すのが大好きな英二クンのために、ちゃんと準備もしたんだよ?
「23歳、最後の1分。ね、。最後にキスしとこ?」
小さなテーブルを挟み、ケーキの上で軽くキス。
24歳、最初の1秒も・・・きっとキス。
やっぱりキスして、11月28日を迎えた。
「誕生日おめでとう!」
「さんきゅう!」
私の拍手に、英二クンがローソクの火を吹き消した。
今年も英二クンの誕生日を祝うことが出来て、とっても幸せ。
ケーキを切って、二人で食べる。
そろそろ、いいかな。と、誕生日プレゼントのフライパンを渡した。
わーい、と嬉しそうな声をあげ包みを開ける英二クンをちょっと緊張しながら見つめる。
出てきたフライパンを手にすると、チャーハンでも作るみたいに揺すってみる彼。
「どうかな?」
「ウン!いいよ。あ、はどうだった?ちゃんと、使いやすいの選んだ?」
「あ・・うん。私が、一番しっくりきたのが・・・それだったから。でも英二クンには、どうかなって。」
「俺も、いい感じ。でもさ、大事なのは、一番使う人だろ?だから、」
「一番使う人?ああ、英二クンのお母さん?」
「違うよ、。」
「私?」
それは、英二クンちに遊びに行ったときに使うってこと?
よく意味が分からなくて聞き返したら、英二クンの顔が少し強張ってる。
なに?と、問えば・・・英二クンが思いっきり深呼吸をした。
「それね。が使うの。あ・・・たまには、俺も使うけど。」
「待って、それって此処に置いておくってこと?」
「うんにゃ。俺の家に置いておく。」
「え?英二クンちに、私専用のフライパンを置くの?」
「そう、だけど。ちょっと、違う。」
「なに?意味が・・・」分からない。
ちょっと困った顔をした英二クンが鼻の頭をかいた。
今度は小さく溜息をついて「あ〜、緊張する」と呟く。
「言うよ、。」
「うん。」
「それね、俺たちが暮らす家で使うの。」
「俺たち?」
俺たちって?頭の中に単語が回る。あ、胸がドキドキしてきた。
「俺とが、暮らす家で。」
英二クンと私が・・・暮らす家。それは、
「つ、つまり・・・け、結婚してって、こと!」
最後は叫ぶように、ぎゅっと目をつぶって。
フライパンは、私のものになるらしい。
でも、英二クンは。
24歳の誕生日に、フライパン付きの私を手に入れた。
「あなたにあげる 〜菊丸編〜」
2005.11.28
はぴば、菊ちゃん☆
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