花をあげよう
「あ〜、また凛と裕ちゃんが遊んでる。」
「楽しそうさねぇ」
窓の外、この暑い中を男ふたりが肩を組み頭突きしながら歩いている。
本人達は喧嘩しているつもりなのだろうが、周囲にはじゃれて歩いているようにしか見えない二人だ。
私は家庭科で作っているパジャマを手に、半ばヤケクソ気味でミシンに向かっていた。
「あ、凛がコッチに気がついたさぁ。凛〜!」
友達が平古場クンを呼ぶ声に顔を上げれば、既に二人は家庭科室に向かってきていた。
私は慌てて視線を手元に戻し、また曲がってしまった縫い目に溜息を落とす。
「この暑い中、居残りかぁ?」
「平先生、容赦ないさ。」
「けど、お前ら喋ってばっかで何もしとらんさ。だけが苦しんでるみたいやけど?」
「は超がつくほどの不器用だからね。」
突然出た自分の名前に思わず視線を上げれば、窓枠に頬杖をついた平古場クンが私を見ていた。
「あらら、は超がつくほど不器用なんか?なんなら俺が手伝ってやろうか。」
「い、いいよ!」
「あい。見事にフラレテしもうたな、凛。」
「うるさいよ、裕次郎。」
「ね、ね、それよりさ、木手クンのカノジョのこと聞いてもいい?」
もうちょっとマシな断わり方はなかったのかと内心で落ち込む私をよそに、クラスメイトたちの話題は別へと移っていく。
甲斐君の明るい声と、短い言葉で淡々と面白いことを言う平古場クンの声。
私はミシンと格闘しながら聞き耳を立てている。
話に上手く入っていけばいいのだろうけど、
方言に慣れてない上に平古場クンがいては緊張して話せそうもない。
普段だってクラスメイトに混ざって平古場クンと話す時は、ほとんどを聞き役にまわっている私だ。
「じゃあな、俺らは部活があるからよ。
木手のことは自分らで聞け。俺らは命が惜しいからな。」
甲斐君が笑いを含みながら逃げている。
もう行ってしまうのかとガッカリしていたら、窓側から平古場クンの声がした。
「、チバリヨー」
平古場クンが軽く私に手を振って背を向ける。
東京から転校してきて半年、聞き取りだけは出来るようになってきた沖縄の言葉。
がんばれよって言葉だよね。
「あ、ありがとう!」
嬉しくって、つい自分が思うより大きな声で出た。
私のお礼に振り返った平古場クンは瞳を眩しそうに細めると「おぅ」と笑ってくれた。
平古場クンって、もてるんだろうなと思う。
特別なカノジョがいるって話は聞いたことがないけれど、何人かの子たちが平古場クンを好きなんだと噂で聞いた。
沖縄屈指の強豪テニス部レギュラーなうえに、あの目立つ容姿。
ちょっとぶっきら棒な物言いだけど、本当は優しい人なんだと思う。
転校してきたばかりで緊張している私に、初めて声をかけてくれたのが平古場クンだった。
「じゃあね、。また明日!」
「ウン。今日は本当にありがとう!」
結局は私の不器用さを見かねた友達が手伝ってくれてパジャマは出来上がった。
心からのお礼を言えば「は可愛いさぁ」とグシャグシャに頭を撫でられ、友達と別れる。
まだ青い空が広がる夏の午後、課題も仕上がり気分は上々だ。
私は少し遠回りして、美しい海岸を歩いて帰ることにした。
有名な海岸でもないのに写真集にでもなりそうな美しい浜辺。
とにかく沖縄は何もかもが色鮮やかで生命力にあふれた所だ。
ぶらぶらと熱い潮風に吹かれながら歩いていたら、遠くから歩いてくる人に気がついた。
平古場クンたちが着ているジャージに似た色だと思えば目が離せない。
近づくにつれ、その姿が自分の知っている人に見えてきて足が止まった。
向こうも私を窺うように歩いていたが、お互いの顔が認識できた頃には視線が逸らせなくなっていた。
「よぅ、また会えたな。」
「ウン。」
頭をかきながら、ぎこちなく笑顔を浮かべた平古場クンが近付いてきた。
なんという偶然かと胸がドキドキする。
上手に話が出来るかしらと不安にもなった。
「作ってたヤツ、できたか?」
「結局…手伝ってもらって何とか。」
「おお、ジョートージョートー。」
「平古場クン、部活は?」
「ん?あぁ、今日は早く終わったさ。」
「そうなんだ。」
会話が途切れても打ち寄せる波の音が沈黙を埋めてくれる。
でも平古場クンは海に視線を泳がせてるし、私には楽しい話題もない。
居心地の悪い雰囲気に居た堪れず、帰ろうと思った。
「あ・・あの、それじゃあ。」
「え?いや、待て!
あ・・っていうか、その・・・ちょっといいか?」
「ウン。」
まさか引き止められるとは思わなかったから驚いた。
じゃあと歩き出した平古場クンの後ろについて歩けば、轟音とともに飛行機が青空を横切っていった。
何となく二人で飛行機を見送って、そのまま視線を降ろせば目が合ってしまった。
「、花は好きか?」
唐突な平古場クンの質問。
「好きだけど・・・」
「そっか。なら、ちょっと待ってろ。」
言うなり平古場クンは走り出し、コンクリートの低い堤防近くに咲く赤い花を手で折った。
沖縄ではよく見る花、鮮やかなハイビスカスを手に平古場クンが戻ってくる。
それを私に差し出すと「ほら」と言うが、私は驚きのあまり手が出ない。
「嫌いだったか?」
「ううん。その・・・ありがとう。」
「お、おぅ。」
綺麗・・・と呟き、大事に手のひらで包む。
すると平古場クンは「もっと取ってやろうか?」と真剣な顔で訊いてきた。
「お前が欲しいだけ、いくらでも。」
「でも・・・」
「そのかわりさ、俺と付き合ってくれよ。」
「付き合う?どこに?」
なんだ、何か私に頼みたいことがあったのかと思い訊ねれば、
瞳を大きくした凛クンが次には酷く脱力したように溜息をついた。
「ヤマトンチュ(本土)の女って、みんなお前みたいに鈍いのか?
裕次郎がお前は特別だろって言うけど、勇気を振り絞った自分が虚しくなってきたさ。ああ、もうっ!」
苛立った声と同時に手首をつかまれ、さっき花を折った場所に連れて行かれる。
平古場クンはそこで私の手を放し、闇雲にハイビスカスの花を摘み始めた。
何やら怒らせてしまったのかと焦る私を振り返りっては、真っ赤な花を私の手に乗せていく。
「あ、あの・・ごめんなさい!」
「謝らなくていい、いいから俺の気持ちを察してくれ。」
「気持ち?」
「男が女に花を贈る意味さっ」
付き合うって・・・まさか!
思いあたった時には私の手に綺麗な花がたくさん咲いていた。
花々を抱くようにして震えている私に平古場クンが呟く。
「一目惚れなんて自分でも驚いてるさ。
本当はもっと早くに言いたかったんだけど、
ここに慣れようと頑張ってるお前には言いにくいだろ。
けどよ、なんか他の奴らも狙ってるみたいだし、もう俺も限界なんだわ。
だから・・・お、おい!
な、泣いてるのか?泣くほど俺が嫌なのか?」
平古場クンの慌てる顔が滲んで見えない。
私のことを鈍いというけれど、平古場クンも見当違いのコト言ってるんだから同じよ。
頭を横に振れば温かい涙が頬を滑っていったけど、笑顔も零れる。
「違う…嬉しくて。」
「え?あ・・嬉しいって。
な、なんだ、おどかさんけぇ。
ここまでしてフラれたかと思うたじゃないか。」
「ご、ごめんなさい。」
平古場クンに貰った花を抱えたまま頭を下げれば、弾みでポロポロと花が落ちてしまった。
彼がくれた大事な花、一つだって無駄にはしたくない。
「花が」
拾おうとしゃがみ込む。
そんな私の前へ同じように膝をついた凛クンの手が、そっと伸びてきて頬に触れた。
思わず身をすくめた私の耳元、大好きな平古場クンの声が囁かれる。
「お前が望むなら・・・ウチナ―(沖縄)中の花だって摘んでやるさぁ。」
真っ赤なハイビスカスが、また一つ
私たちの間にゆっくりと落ちていった。
『花をあげよう』
あまりにときめいてしまったので、スケジュール予定を変更してでも早くUPしたかった!ゴメン!かやちゃん! by沙羅
2007.06.21
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