やっかいな恋
幼馴染というものは本当に厄介なものだ。
小さい頃の失敗や思い出したくもない屈辱をしっかりと記憶している。
それをまた遠慮もなく口にして平気で笑っていられるのが憎らしい。
俺だって覚えてる。
俺は君と小さなビニールプールに浸かってたんだ。
当然、君の裸なんて日常的に見ていた。
・・・大きくなってからは見てないけど。
君の初恋が幼稚園に来ていた体操の先生だってのも知っている。
そのあと小学1年で片山に。アイツ、暴れん坊だったのに。
小学3年で三浦に。勉強の出来た優等生タイプだった。
小学5年で清水に。お笑い系の三枚目タイプだった。
この頃から、俺は笑っていられなくなった。
そろそろ本気で恋をするんじゃないか?
俺の手を離れて・・・誰かのものになるんじゃないか?
どんどん綺麗になっていく君を見ながら一人で焦っている。
「貞治!」
「、ノックぐらいしろよ。」
返事をするより前に自室のドアが開けられる。
おいおい。君に見せられないことをしていたらどうするんだい?
「ねっねっ、手塚君ってさ。甘い物好きかな?」
開口一番、手塚かい?最近の君は手塚のことばかり。
そのたびに俺の心がどんなに痛んでるかなんて気付きもしないんだろう?
「・・・・知らないね。ちなみに俺はビターでお願いするよ。」
「貞治の好みは聞いてない。」
「酷いな。」
パソコンのディスプレーを見つめながらの会話。
「なんかね。手塚君って甘い物キライそうでしょ?」
「まあね。手塚が菓子を貪り食っているのは見たことがないな。」
「貞治っ、真面目に聞いてるのよ?お願いっ、こっそりと聞いてみてよ?」
マウスを握っていた手が止まった。
くるっと椅子を反転させてを見上げる。
残酷なまでに鈍感、無神経、無邪気。この幼馴染をずっと想い続けている俺はどうなんだ?
自分の感情は押し殺して努めて冷静に答えることにした。
他の誰かに恋してる君に僕の気持ちが悟られたら・・・もう傍にさえいられなくなってしまうからね。
それでも心の中はイライラを極めているんだ。
少しぐらいの意地悪はさせてもらうよ?
「こっそりと、どう聞くんだい?
『俺の幼馴染が手塚に甘い物が好きかどうか聞いてくれって言ってるんだけど教えてくれるかい?』って?」
「貞治っ」
「手塚は今忙しい。俺も忙しい。、お前も忙しいはずだろ?
期末試験が追試でも・・・もう教えてやらないよ?バレンタインデーなんてことは後回しだ。」
「それとこれとは別でしょ。」
「そうかい?とにかく、気が向いたら聞いておく。」
「気が向いたら・・って。そんなのアテにならないじゃない。お礼に貞治にもチョコあげるから。」
そう言って、俺の前で両手を合わせた。
俺へのチョコは手塚のついで?
なんか、さすがの俺も腹が立つ。
椅子を元に戻して、またディスプレイに視線を戻した。
映し出されている数字なんか頭には入っていないけれど、今は君の顔なんか見ていられる気分じゃない。
「の義理チョコなんか欲しくないね。俺にだって本命のチョコをくれる女の子ぐらいいるよ。」
「なに・・・なによっそれ!」
「なにって。ついでにくれるようなチョコなら願い下げということだ。」
「酷いっ!貞治の馬鹿っ!大嫌いっ!」
「?」
あまりの言葉に振り返ると、怒って背を向けたが部屋を飛び出していくのが目に入った。
考えるよりも先に体が彼女の後を追った。
階段を駆け下りていく。俺も駆け下りる。
玄関でスニーカーを履くのに手間取った彼女がドアノブに手をかけたところで捕まえた。
細い手首を掴んで引っ張る。
「ちょっと、待てよ。」
「ヤダッ!離してっ!」
「そんなに怒ることはないだろう?
もとはと言えばが俺を怒らせるようなことを言うから・・・?」
無理矢理振り向かせたは下を向いたまま頭を激しく横に振る。
様子がおかしいと、すぐに気づいた。
「ね、泣いてるのか?」
「泣いてない!離してよっ!貞治のバカっ!」
「じゃあ、顔上げて。俺に顔を見せて。」
「イヤッ!」
激しく俺の手から逃れようとするから、片手は手首を掴んだまま、
もう片方の手で顎を押さえて顔を覗き込む。
瞳から涙をこぼしていると、バッチリ目が合った。
「泣いてるじゃないか。」
「貞治が泣かした。」
はぁ・・・と溜息が出る。
俺だってツライ。それでも、こう言ってやるしかないなだろ?
「悪かった。手塚の好みを聞けばいいんだろう?泣くほど手塚が好きだとは知らなかったよ。」
「違う・・・」
くしゃっとの顔が歪む。
へ?違う?俺の希望的幻聴か?
「手塚君を好きなのは・・・由佳ちゃんだもん。私が好きなのは、」
待てよ。由佳ちゃん?ああ、あのガタイのいいの友達か?
記憶をたどって、別の方向に考えていたが。
まてよ。の好きなヤツって?
俺としたことが・・・気づかなかった。
「誰だ?」
自分の情報収集力が及ばなかったことが悔しくて、つい問い詰めるような口調で聞いてしまった。
は肩をすくませて、怯えたような瞳で俺を見上げる。
怖がらせたいわけじゃない。
ああ、どうしてこう。のことは冷静になれないんだ。
なんて、やっかいな恋なんだ。
「貞治・・・」
「いや、すまない。言いたくなければ言わなくていいんだ。」
「だから、貞治。」
「ん、なんだい?」
「貞治だって。」
「俺が?どうかした?」
さっきまで泣きそうだったの目が、段々とキツクなってきた。
な・・なんだ?みょうに怒りモードがはいってきているような。
あまりに恐ろしくて、掴んでいた手首を離したら。
反対に、素早く俺の腕がつかまれた。
思わず、一歩後ろに下がる。
「貞治の鈍感、無神経!」
いや。それは、お前だろう。
喉まで出ている言葉は、の迫力に言葉とならない。
「私があげるチョコは義理なんかじゃないっ!」
「へ・・・へぇ」
「私は本命だからねっ」
「そ・・・そう」
「分かってる?貞治っ」
「う・・・うん。」
そこまで想ってる奴がいるのなら、仕方ない。
にしても、怖いな。そんなに睨み付けなくても。俺だって泣きたくなってくる。
「だからっ、貞治は他の人のチョコは受け取らないで!」
「・・・・・・・・・え?」
待てよ。今までの会話は・・・どういう意味だ?
唖然としている俺を見上げているの瞳が涙で揺れている。
耳まで赤くして、にらみつけている。
あ。なんてことだ!
俺は頭を抱えて、しゃがみこんだ。
しゃがんだ・・・というよりは、膝の力が勝手に抜けたのだけど。
「・・・分かりにくいよ。」
「分析が趣味じゃなかったの?だめじゃん!」
「辛らつだな。なんか・・・へこんだ。」
「だって・・・」
「けど、嬉しいよ。」
つかまれていた腕を反対に引っ張って、片方の手での体を引き寄せた。
きゃっ・・・という小さな叫び声を上げて、膝を突いたを素早く腕の中に閉じ込める。
「貞治!待って、ここ玄関だよ!」
「そうだね。でも、家族が今の時間に帰ってくる確率は99パーセントないから。」
「でも、でもっ」
「はいはい。おとなしくしてくれよ。しばらく感慨に浸りたいから。」
「もう・・・」
「の涙は俺のシャツで拭いてくれ。ただし、鼻水はつけるなよ。」
「バカ」
腕の中。
が小さく呟いて、俺の胸に額を引っ付ける。
あーあ。やっぱり、やっかいだ。
こんなに好きなんだ。
こんなに幸せな気持ちなんだ。
ちっとも見えてなかったの気持ち。まっ、お互い様だけど。
やっかいな恋だよ。
「やっかいな恋」
2005.04.28
さくらんぼ・・・みたいに並んでいたい。
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