成長痛
「ねぇ、貞治。」
「んー。もう少し。」
「さっきも、もう少しって言った。」
「さっきって・・・5分ぐらいしか、たってないだろう。」
「7分40秒たってる。」
「・・・・まだ。あと一枚分のデータ入力が残ってる。」
「信じられない!待てないっっっ!」
はバリバリと煎餅を食べながら、俺の後ろで雑誌を読んでいたはずだが。
もう読み終わって退屈なのか?
色気も何もない。甘い雰囲気など欠片も見当たらない。
とにかくはゲームの相手が欲しくて俺を待っている。
対戦して負けては癇癪を起こすのに、しつこく俺に挑んでくるのだから始末が悪い。
「待てないって、俺の都合も聞かずにソフトを持って乗り込んできたのは・・・」
文句のひとつでも言ってやろうと椅子を回せば、後ろにいるはずのがいない。
どこに?と、視線を向ければ。
なんとは俺の布団にもぐり込み、両肘をついて雑誌を読んでいる。
「フツウさ、可愛い彼女が遊びにきたら、何をおいても相手しようと思うでしょ?」
「・・・フツウさ、年頃の彼氏の部屋に来て、ベッドに潜り込むか?」
「だって、つまんないし。なんか寒いし。いいじゃない。減るもんじゃあるまいし。」
「布団は減りゃしないけど・・・」 理性が磨り減る。
まったく。
幼馴染から彼氏と彼女と名前は変えても、まだまだ抜けない子供の頃からの関係。
こんなに無防備に振舞われては、手だって出せないだろう?
「ああっ、もう。とにかく黙っててくれ。これが終わったら相手すればいいんだろう?」
「あ、なんかっ嫌な言い方!貞治の馬鹿っ」
無視して背中を向けた俺の頭に、後ろから枕がぶつけられた。
「っ!」
「馬鹿!貞治なんて、大嫌いっ!もう、別れるっ!」
出た。天下の宝刀。これが出てしまうと、俺はに全力で立ち向かうしかなくなるんだ。
は俺の布団から飛び起きて、例の如く部屋を飛び出して行こうとする。
で。またまた俺も、いつもの如く慌てて追いかけての腕を掴む・・・と、いく筈だった。
「痛っ!」
椅子から急に立ち上がって足を踏み出した時、膝に激痛が走った。
思わず膝を突いて蹲る。
「貞治!?ちょっと、大丈夫?どうしたの?ね、怪我してたの?」
出て行こうとしていたが戻ってきて、俺の顔を覗き込む。
が俺の隣に膝をついたのが見えた。
今だっ。
俺はの腕を掴んで抱き寄せた。
めったに触れられない俺。を抱きしめる時は、いつもこのパターンだ。
「ヤダっ、貞治っ、騙したのね!酷いっ!」
「あ、痛。ちょっと、顔を殴るなよ。メガネが、ずれたじゃないか。」
「騙すからよッ、心配したのに!」
「騙してないよ。成長痛らしい。時々、膝が痛むんだ。」
「成長痛?貞治、まだ大きくなるつもり?」
「いや、そういうつもりはないけど。個人の意思では、どうにもならないから。
それより、メガネを直して欲しいんだけど。」
の抵抗が治まった。
メガネは半分落ちかかって、視界悪すぎ。
俺の腕の中に、かろうじて留まっているがメガネに手をかける。
見えやすいよう直してくれるのかと思えば、メガネはさっさと抜き取られて床に置かれてしまった。
「あ、おい。床に置くなよ。踏んだら壊れる。それに、メガネがないと見えないんだ。」
「見えなくていいの。」
「なんで?っ」
「見えなくていいの、貞治。」
の声が近い。そして、の声色が・・・いつもと違う。
頬に柔らかな手が添えられて、体が無意識に緊張した。
ピントの合わないの顔が、徐々にハッキリしてくる。
ああ・・・近いな。
そんなことを思いながら、俺は自然と目を閉じていた。
柔らかな感触と吐息。
ヤバイな。目眩が・・・する。
触れるだけで離れていこうとする彼女の後頭部に手をまわし、離れた唇をもう一度引き寄せた。
まぁそれから後は、それなりに。俺も聖人君子じゃないし。
「酷いな。ビンタすることは、ないだろう?仕掛けてきたのはだぞ?」
「だって・・・しつこいんだもんっ」
「しつこいって・・・傷つくな。あんな状況で、じっとされるがままの男なんているわけないだろう?」
「普段は、なんにもしてこないくせに。」
小さく呟くようなの声。けれど、俺は聞き逃さなかった。
ピンときた。なんだ、そういうことか。
「が望むなら・・・俺は何だってしてあげるよ。抱きしめるのだって、キスだって。
なんなら、それ以上だって。全然、問題ない。」
「もっ、問題あるっ。」
「何の問題が?じゃあ、は何を望んでるんだい?」
頬がヒリヒリする。母親に見咎められたら、なんて説明しようか。
人にビンタを食らわせたくせに、はちゃっかり俺の腕の中に納まって甘えてる。
もう、扱いづらい猫を可愛がってる気分だよ。
「もっと・・・傍にいて欲しい。」
「うーん。ま、部活のないときは傍にいるよ。」
「他の人たちみたいに・・・手を繋いだり。」
「うん。」
「抱き合ったり。」
「うん、いいね。」
「・・・キスしたい。」
「同感だよ。」
「でもっ、貞治は何もしないじゃない。時々、抱きしめてくれるけど。
それも、めったにないし。私たち幼馴染だから?そんな気になれないのかなって」
がぎゅっと俺のシャツを握ってる。
女の子も、そんなことで不安になったりするのか。
俺と・・・同じなんだ。
俺はを抱く腕の力を強くした。
可愛くて、愛しくて。抱きしめずには、いられない。
「。俺はが好きだよ。
俺だって、の傍にいたいし、抱きしめたいし、キスだってしたい。
できたら、のすべてが欲しい・・・って思ってる。」
俺の言葉に、の体がビクっと跳ねた。
安心させるように、そっと背中を撫でてやる。
「けど、急がないよ。ゆっくり進んで行こう。」
「うん。・・・貞治の骨と一緒だね。」
「俺の骨?なんだよ。いいムードなのに。」
「だって、成長途中なんだもの。時には痛くても・・・ちゃんと伸びる。」
「なんか例えに無理があるよ、。」
そうかなぁ?と、が腕の中で笑った。
まぁ、いいか。何でも。
とにかくが望んでいることも分かったし。
これからは好きなだけ触れて、抱きしめて、キスもしよう。
ただ、やりすぎると殴られるから。
そこらへんの見極めが難しい。大きな課題だ。
「あ、貞治!」
「なに?」
「忘れてたっ、戦おう!今度こそ、貞治をノックアウトしちゃうんだからっ!」
ガバッと俺の胸から身を起こしたが、力強く拳を振り上げた。
いやいや。
もうすでに、ノックアウトされてるんだけど。
あーあ。いそいそとゲームの準備をはじめてる。
さっきまで腕の中にあった温もりは、途端に敵へと変化するのかい?
まったくもう、成長してるんだか、してないんだか。
「ねぇ、。」
「なに?」
「は、成長痛・・・ないのか?」
「ない。身長なんて、中3で止まっちゃった!」
「・・・あっ、そう。」
俺は嬉々としたに無理矢理コントローラーを握らされ。
密かに溜息をついた。
2005.05.30
「やっかいな恋 続編」
成長痛 分かりにくい例えでスミマセン
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