ずっと傍にいて 〜乾編〜
今日は貞治の誕生日。
この一ヶ月、悩みに悩んだ誕生日プレゼントを手に頭を抱えていた。
こんなんで良かったのかな?
手にした紙袋の中にはボールペンが入っている。
つまり、貞治へのプレゼントはボールペン。
情報収集が趣味の彼には必需品でしょ?
それにフツーのボールペンじゃないの。優れもの。
まずは首からかけるヒモがついてるし、赤と青のボールペンに加えてシャーペンもついてるの。
色も青学カラーの空色だし。ねぇ、なかなかのセンスだと思うの。
だけど・・・やっぱり、どこまでいってもボールペンでしかない事は確かだ。安かったし。
もっともっと貞治がビックリするような、狂喜乱舞するようなプレゼントをあげたかったんだけど・・・挫折した。
幼馴染から、カレシとカノジョになって初めての誕生日。
なのに・・ボールペンはあんまりかな?
なんか実用的過ぎて愛がないっていうか、ロマンがないよね?
悩んでいるうちに貞治の家についてしまった。
いつもは部活で暗くなるまで帰らない彼だけど、今日は運良く土曜日。
午後からミッチリ部活をして、夕方には帰ってくると言っていた。
ピンポーンと貞治んちのインターフォンを押すと、すぐにバタバタと音がしてロックの外される音がした。
「はい、いらっしゃい。」
「お誕生日おめでとう、って。何でいきなり、風呂上りなの?」
「え?ああ、部活の後だからね、ひと風呂。」
貞治ときたらジーパンに上半身は裸で首にタオルをかけている。
濡れた髪からはポタポタと雫が垂れている状態だ。
「ちょっと、ちゃんと拭かないと風邪引くわよ?」
お説教しながらも彼の体から目を逸らした。
小学生の頃は背だけが高くて貧相な体をした彼だった。
いつのまに、そんな男っぽい体になっていたのか。
妙に気恥ずかしくて、勝手に赤くなる頬を隠すように貞治より先にリビングに向かおうとしたら肘を引かれた。
「上。俺の部屋で待ってて?何か飲み物を持っていくから。」
「うん、いいけど。それより、シャツも着なさいよ!風邪ひくんだからっ」
「ハイハイ」
「ハイは一回!」
肩をすくめた彼がリビングに入っていくのを見送って貞治の部屋に上がった。
見慣れた部屋。嗅ぎなれた貞治の匂い。
なんだろう。
でも、今日は胸がドキドキするの。
どうにも落ち着かずベッドに座ってみたり立ってみたり、部屋の中を歩いてみたりする。
しばらくすると階段を上がってくる音がして、片手にお盆を持った貞治が入ってきた。
ちゃんと白いTシャツを着て、いつも立ってる髪は寝てしまっているけど水分ぐらいは拭いてきたようだ。
「今日は時間・・・大丈夫?」
「うん。貞治の誕生日祝いしてくるって、お母さんに言ってきたから。」
「あっそう。信用があると、かえって辛いものだな。」
「なに?」
「いや。こっちの話。ハイ、オレンジジュース。」
「これ、何か他のもの入ってない?」
「失礼なヤツだな。純粋なオレンジジュースだよ。」
いつもの調子でリズムよく話していたら調子が戻ってきた。
大人になった貞治の体に気づいてドギマギしちゃったけど、大丈夫みたい。
「ハイ、お誕生日プレゼント。」
貞治の手に渡しながら、長い言い訳を開始した。
いかに、それが必需品であり優れものであるかの解説。
プレゼントは値段ではないと、一応そこまで言っておく。
ああ、なるほどね。とか、気のぬけた返事をしながら包みを開いた貞治が
ボールペンの紐を持って目の前にぶら下げて見せる。
「どう?」
「どうって、ボールペンだね。使えそうだな、と思ってる。ありがとう、。」
「なんか嬉しそうじゃない!」
「そんなことないよ。部活の時に首からぶら下げて、手塚に自慢してやろうかな・・・とか考えてるけど。」
「なら、もっと心から嬉しそうにしてよ!」
「充分嬉しいけど。どう言えばいいんだ?」
「こう・・・なんていうか、嬉しそうに笑うとか。目を潤ませるとか。もっと、分かりやすく体で喜びを表現して!」
私が身振り手振りを加えて説明すると、貞治は真顔で口元を押さえ思案していた。
いや、そこまで考えなくてもいいんだけど。
「仕方ないな・・・の要望だから。」
「へ?」
貞治は小さく呟いて、膝立ちで私の前に近寄ってきた。
何が起こるのかと貞治を見上げる私を風呂上りの石鹸の香りが包む。
肩をつかまれ、頭の後ろに伸びてきた手。
あっと、咄嗟に目を閉じていた。
柔らかく温かな唇の感触に胸が震えるのを感じる。
思わず貞治のシャツをギュッと掴めば、その手首を押さえられて床に倒された。
離れていく温もりに目をあければ、天井を背景にした貞治が片手でメガネを外そうとしていた。
「ちょ、ちょっと待って。な、なにを、」
「いや。メガネはキスするのに邪魔だから除けとこうかなと思って。」
「そ、それはいいけど。あの、これは、」
どう考えても押し倒されてる状況に頭はパニックだ。
貞治の下から抜け出そうと体を起こせば、またチュッとキスが落ちてきた。
「なっ!お、落ち着いて。ね、貞治、」
「俺は充分落ち着いてるよ。慌ててるのは、。」
確かに落ち着き払った声で、そっと私の額に唇を寄せてくる。
くすぐったくて気持ちいいけど、かなりヤバイ気がするのは私だけ?
「そっ、そうだけど。待って、」
「悪いけど待てない。」
「待てないって、」
「俺の誕生日だから。ずっと、傍にいて欲しい。」
「貞・・治?」
「ボールペン以上に、が欲しいんだ。欲しくて欲しくて・・・たまらない。」
そう言って瞳を細めた貞治は、とても優しい手つきで私の頬を撫でた。
それは、そう。
とても大切そうに、慈しむような仕草で。
優しく優しく、額に鼻に頬に顎に。そして唇にキスをくれた。
なんでこんなことになったんだろ。
どうしよう、ちょっと怖い。
でも、私の首元に顔を埋めてくる貞治がとても嬉しそうで幸せそうだから。
いいよ、ずっと傍にいる。
「私と同様にボールペンも傍に置いて大事にしてね?」
もうどうしようもない恥ずかしさに耐えながら告げれば貞治が笑った。
「ああ。一生、大事にするよ。」って。
ボールペンって一生使えるもの?
心の中で思ったけれど、そんな思考は直ぐに奪われてしまった。
ねぇ、ずっと傍にいて?
了解。約束する。
貞治の誕生日に誓った約束。
「ずっと傍にいて 乾編」
2006.06.03
『やっかいな恋』続編 いい目を見た乾クン。おめでと。
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