!」
「乾クン」


「ゴメン!ちょっと調べたいことがあるんだ。だから、今日は・・・」
「分かった。先に帰っとく。」


「夜、必ず電話するから!」



私の前で大きな体を猫背にして両手を合わせる姿に思わず微笑み返す。
そんな私の表情を見て、ホッと肩の力を抜くと伸びてくる手。


大きな手がクシャクシャっと私の頭を撫でて離れていった。


遠ざかる乾クンの背中を見送りながら手を振っていたら、後ろから声をかけられた。



「やっぱ、の趣味が分んない。」
「ちょっ、見てたの?」



同じテニス部の亜由美がラケット片手に立っていた。



「見てたの?って。ここ、女子の部室前よ?用事があって来たらバカップルがいたってだけ。
 にしてもさぁ。乾の何処がいいわけ?
 こだわりが強そうな髪形といい、牛乳瓶の底みたいな分厚いレンズに黒の四角フレームはないでしょう?
 性格的にも、ちょっと変人ぽいしさ。なんか、オタク・・・って感じ?」



酷い言われようだ。確かに、ちょっとコダワリ気質はあると思うけど・・・。



さ、実はモテルんだよ?何も乾じゃなくても、」
「いいの。私は、乾クンがいいんだもん!」



キッパリ言ったら、さすがの彼女も黙り込んだ。



『恋は盲目。私は手塚クンだなぁ』なんて、笑いながら私の肩を叩く。



からかったり、乾クンをこき下ろしたりはするけれど、本当はいつも私の応援をしてくれていた。
そんな彼女にも言えてない。





実は・・・メガネを外した乾クンは、めちゃくちゃ素敵なんだってこと。










          メガネを外して/メガネ続編










「メガネがくもって見えないなぁ」



つぶやきと同時に乾クンがメガネを外した。
そこはラーメン屋のカウンター。


『ここのラーメンが美味しいらしい』という情報をもとに、私を誘ってくれた。


食べ始めて数分で、乾クンがメガネを外す。
ラーメンの湯気でレンズが白くなっていた。



突然現れた切れ長の瞳に私の手は止まり、ついついジッと見つめてしまう。
無造作にレンズを拭いた乾クンがメガネをかけて、不意に私の方を見た。



「なに?」
「なっな、なんでもないっ」



慌ててラーメンに目を移してみるが、どうにも落ち着かずに箸をすすめた。
もうラーメンが美味しいのか美味しくないのかも分らなくなってしまった。



ラーメンを食べての帰り道。
なんだか髪の毛がラーメンくさい気がして乾クンに近づけない。
まぁ、乾クンも同じなんだろうけど。



「ね、。」
「な、なに?」


「やっぱり・・・ラーメン屋は、まずかった?」
「え?そんなことない。美味しかったよ!」


「あ〜、そうじゃなくて。女の子を誘って連れて行くところじゃなかったか?っていうこと。
 実は桃城に『ラーメン屋でデートっスか?なんか熟年カップルみたいっスね』と言われてしまったんだ。」



確かに。高校生カップルなど一組も居なかった。そういえば熟年の夫婦らしきカップルはいたような。



「でも、あの・・・美味しかったし。ああいう店って、女の子同士じゃ入れないから楽しかったよ?」


「そう?良かった。じゃあ、」



隣を歩く乾クンの手が、そっと私の右手を握った。
大きな手に包まれる私の手。嬉しくて、恥ずかしくて、私は顔があげられないの。



うーん、駄目だ。
乾クン、格好良すぎる!いつまでたっても慣れない。ドキドキが止まらないよ!
亜由美に言ったら笑われちゃいそうだけど、ホントのことなんだもの。





そんな私を知ってか知らずか、乾クンは私の前で簡単にメガネを外す。



ラーメンを食べた後、家に寄ってもらってパソコンの使い方を教えてもらった。
居間にある親のパソコンを使っていたからか、母親は乾クンが来てるのに買い物に行ってしまった。


私の部屋じゃないにしても二人きり。
またしてもドキドキしながら乾クンの声に耳を傾けていたら、
ディスプレイを見つめていた彼がメガネを外して眉間を抑える。



「なんか最近疲れやすいんだ。度が進んでるのかな。」
「そ、そうなんだ。」



こんな近くでメガネを外さないでぇ。心臓に悪いよ。



「乱視も入ってるからレンズが厚くなるんだ。コンタクトにすれば?と親にも勧められてるんだけどね。」
「コンタクト?」


「うん。そうすれば、ラーメン食べても、お風呂を洗っても、温泉にはいっても、くもらない。」



お風呂洗ってるんだ、なんて感想を抱いている場合じゃない。
乾クンがコンタクトなんかにしたら、私・・・どうすればいいの?



困惑がそのまま顔に出ていたらしい。
乾クンはメガネを外したままで、クスっと笑った。
また手が伸びてきて、クシャッと髪を撫でられる。



「安心して。との約束は覚えてる。メガネを外すのはの前だけ。」
「・・・いいの?」


「いいよ。メガネのおかげで、をドキドキさせることが出来てるみたいだしね」



乾クンの言葉にカッと頬が熱くなった。
いちいち私がトキメイテること、乾クンにはバレバレだったの?



「あ、ゴメン。意地悪じゃないんだ?なんかの反応が可愛いくて、ついつい理由をつけてはメガネを外してしまう。」
「は・・恥ずかしいよ、乾クン」


「恥ずかしい?なんで?可愛いよ。ね、の顔を見せて?近づかなきゃ見えないんだ。」
「まっ、待って。乾クン!落ち着いてっ!」


「落ち着くのはだと思うけど。」
「とにかくっ、まっ、きゃっ!」


、危ないっ」



ダイニングテーブルに並んで座った椅子から落ちそうになる私の腕を、素早く乾クンが掴んだ。
バランスを崩した体は引き寄せられて、気づけは乾クンの腕の中。



「ご、ゴメンナサイ!」とんでもない状況に焦って胸を押し返したら、がっしり両方から頭を固定された。



 キス。



心構えも何もなく、乾クンにキスされた。
一瞬なにが起こったのかも分からずに唇を受け止めた私に、そっと離れた乾クンが苦笑する。



、慣れないね。」


「う・・・・」



どうせ慣れませんよっ。いつまでたっても乾クンに翻弄されてばかりですよっ!
恨みがましく睨んでみても、乾クンは嬉しそうに笑うばかり。
笑いながら外したメガネをかける乾クン。
途端にいつものオタクっぽい彼になってしまった。



「ま、レンズがくもるのはいいんだけど。やっぱり、キスには邪魔だね。
 ね、気づいてる?キスする前にはメガネを外してるだろ?
 だから、俺がメガネを外したら・・・は心構えをすればいい。」


「そ、そうだったの?」
「やっぱり、気づいてなかったか。ま、それもらしいし、気に入ってる所だけどね。」


「なんか・・・悔しい!いつも私ばっかりドキドキしてて、乾クンは涼しい顔してて、」
「そうでもないけど。」



そんな笑いを含んだ顔で言われても、子供みたいに扱われてるみたいで悔しいよ。
第一。素顔の乾クンに弱いのを知ってて、わざとメガネを外して焦る私を観察してたなんて酷いじゃない!


『キスする前はメガネを外すから心構えを』なんて。


次からメガネを外した乾クン見ただけで、心臓が爆発しちゃうよ。



さっさとパソコンのディスプレイへと視線を戻した乾クンに、何か一矢報いる方法は?ぐるぐる考えて。





「乾クン」
「うん?」


「メガネ外して」
「ん?なんで?」


「慣れる練習するから」
「え??」



珍しく慌てる乾クンのメガネに手を伸ばして顔から抜き去った。
顔が赤くなってるの分ってる。でも、負けないもの。



真っ直ぐ、乾クンの瞳を見つめて言った。



「キスして!」



口が半開きの乾クン。瞬きも忘れたように私を見つめ返してくる。
こ、こんな恥ずかしい言葉を言ったんだもの。絶対負けないと、にらめっこ状態で私も瞳を逸らさない。



と、みるみる乾クンの耳が赤くなってきた。
乾クンの方が視線を逸らし、口元を抑えて横を向く。



「な、なんで、」なんで、乾クンが照れるのよっ



乾クンが頭をガックリと下げたまま、私の両肩に手を置いた。




「マイッタ、やられたよ・・・。」


「なに?」


「頼むから、人がいる前で『メガネを外して』だけは言わないでくれ。頼む、」


「乾クン?」


「ああ、もう。心臓が爆発しそうだよ。」




ということで。



乾クンが、コンタクトを買うことはなかった。





















メガネを外して/メガネ続編  

2005.09.22 

ゲロ甘で失礼 




















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