遠まわしの告白
部室の机に向かい合って座る。
乾君はノートパソコンを広げてデータ入力に余念がない。
私は来週提出する部費の予算案をワープロで打っている。
内容は、手塚君と大石君が作ってあるから。私は、手書きの書類を打ち込むだけだ。
ふたりが打つキーボードの音だけが部室に響く。
この部室。
今は、乾君と私のふたりっきり。
業者の行うコート整備の今日は部活がなかった。
手塚君に許可を得てワープロを使わせてもらおうと部室の鍵を開けたら。
後ろから伸びてきた暗い影。
振り返れば、乾君だった。
「も部室に用かい?奇遇だね。」
飄々と彼は言って。すっと・・・私の横をすり抜けて中に入ってしまった。
入り口で固まってる私のことなど気にも留めず。
「どうした?用事があるんだろ?入ったら?」
と、振り返って笑う。
頷いて。ワープロを引っ張り出してきたら。彼は、ノートパソコンを出してきた。
そして、今に至る。
ポツポツと合間に乾君が話しかけてくる。
「寒くないか?」とか。
「期限はいつなんだい?」とか。
当たり障りのないことを。
はじめは緊張していた私も。乾君が集中してデータ整理を始めたら。緊張が徐々に解けてきた。
そして。会話も途切れ。私も入力に集中する。
どれくらいたっただろう。
もう少し、というところで。久しぶりに乾君が口を開いた。
カチカチッと、マウスの音をさせながらの会話。
「ねぇ、。」
「なに?」
あと、3行で終わる。えっと・・・
「俺。の友達。やめてもいいかな?」
手が止まった。残り2行。
「なに?」
「だから。の友達をやめたいんだけど。」
突然の言葉に。一瞬、頭が真っ白になる。
友達をやめる・・・って?え?私のこと・・・嫌いってこと?
カチカチッ。また、乾君がマウスを操作する。
目は画面から離れない、彼。
ああ。と、思った。
うまく隠してたつもりでも。観察力の鋭い彼には、私の想いが分かっていたのだろう。
だから。迷惑だと・・・。遠まわしに言われているのだと思った。
友達でもいいと。マネージャーをしながら。仲間でいられるだけで嬉しかった。
けれど。どこかで期待もしてたの。乾君が、優しいから。柔らかく微笑むから。
本当は、誰にでも向けられる優しさ、笑顔なのに。
けれど。もう、友達でさえいたくないほど・・・私のことが迷惑ってことだよね。
「分かった。」
声が震えてしまう。
あと2行で出来上がるはずだった予算案を、急いでフロッピーにコピーして立ち上がる。
「?」
乾君が、顔を上げた。
私は顔を見られたくなくて背を向ける。
さっさとカバンに資料とフロッピーをねじ込むと。ワープロの電源を抜いた。
そのコンセントをつまんだ手に。
急に大きな手が重なったかと思えば・・・背中から抱きしめられた。
「っ!?乾君?」
「なにか・・・誤解しているみたいだから。言葉より、態度で表したほうが早そうだと思ってね。」
「ちょっ。なに?離してっ」
「嫌だ。」
「嫌・・って」
後ろを振り向きたくても。身長の高い彼に押さえ込まれては、身動きが出来ない。
耳元に乾君の息遣いを感じるだけで、体中の血液が顔に昇ってくるのを感じて焦る。
「友達をやめたいのは、こういうことをしたいからだよ。」
「え?」
「君を抱きしめたり・・・。それ以上のことも、可能ならしたいと思うから。友達をやめたいんだ。」
「それって?」
腕の力が緩んだ。
そのまま肩を掴まれて、乾君のほうに体を反転させられる。
ぼーっと見上げた乾君は、ニッコリと微笑んでいた。
「。顔・・・真っ赤だよ。分かりやすいな。」
「い・・・乾」
「好きだよ。ずっと・・・好きだった。だから。もう、友達はやめたい。いいかな?」
「・・・・。」
返事がうまく出来ないよ。涙がこぼれてきちゃって。
「あっ。ちょっと・・・?いや・・・ちょっと、泣くなよ?いや・・・あ・・・参ったな。?」
珍しい乾君の慌てた姿。オロオロして、私を覗き込む。
さっきまでの余裕はどこにいったのやら。
可笑しくて。でも、もう少し、嬉し涙を流そう。
少しぐらい困らせてもいいよね。
遠まわしな告白をして、私を悲しませたんだから。
もう少ししたら。私もちゃんと言うね。
あなたが・・・好きです。
「遠まわしの告白」
2004.11.10
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