鈍感で悪かったわね












友だちに次々とカレシができた。
私にも誰かいないかなぁって嘆いてたら、呆れたような目で私を見た友だちが言った。



って、鈍感だよね」と。








乾が教室の窓から秋空を見上げて溜息をついていた。
いつもは訳のわからない数字を羅列して薄笑いを浮かべている男が、
今日は何だか・・・やけに物憂げだ。



「なに?失恋でもしたの?」



からかい声で聞いてやると、
乾はチラリと私に視線だけを寄こし再び大きな溜息をついた。



「まだ失恋にさえ至っていない。それより前の段階だ」
「うわっ、本当に?乾でも人を好きになるんだ!?」



私は本気でびっくりしていた。
頭は良いけど変わり者の乾と恋愛がまったく結びつかない。


どいつもこいつも春なのか?
これは追及しなきゃと俄然やる気の出た私の瞳はキラキラと輝いていたと思う。
案の定、乾は心底嫌そうな顔をして三度目の溜息をついた。



「うそ、うそ。で、どんなコ?どこのクラス?ついでに名前も言っちゃいなさいよ」
「まったく同じことを君が教えてくれるなら言ってもいいけど?」



だるそうに頬杖ついたまま意地悪を言う乾。
タダではすまさないのが乾のイヤなとこ。



「じゃあ、名前はいいです。どんなコ?」



いいよ。外からジワジワと攻めていくもんね。
頭の中で各クラスの可愛いコを思い浮かべながらの質問だ。


乾は気のない様子ながらも渋々と口を開いた。



「一言でいうなら『超がつくほど鈍感なコ』だね」
「天然ってこと?」


「なんていうか、わざとなのかと疑いたくなるような鈍感さだよ」



あら、まぁ。鈍感と呼ばれるコは多いのね。
乾も苦労してるんだと同情の目で頷いてやった。



「そんな鈍感なコだけど乾に恋をさせる何かがあるわけね」
「まぁね」


「そこが聞きたい」



近所の知りたがりオバサンのようだが、知りたいものは知りたい。
身を乗り出すようにして続きを促せば、乾は四度目の溜息と同時に「後悔しても知らないぞ」と呟く。



「変わったコだよ。出会ったときから明るくて、人懐こくてね
 女子に敬遠されがちな俺にも平気で近づいてきて、ベラベラとくだらないことをしゃべり続ける」



なるほどね。
ツンツン頭のうえに怪しいメガネ、おまけに見上げるほど背の高い乾は近寄りがたい。
言動も自分の世界に入ってて、ちょっと変だし・・・
これでテニスが上手くなければ『変人』だけで終わってるタイプだ。


それにしても乾と親しくできる女のコっていたんだ。
知らなかったな。



「まるで男友達とでも付き合っているような気楽さなんだが
 時々すごく可愛いことをしてくれたりするもんだから、こっちは期待してしまうんだ」



そう言って、乾は肩をすくめるようにして笑った。
その笑顔が優しくて、見てる私のほうが照れてしまいそう。



「か・・可愛いことねぇ。なにが乾のツボなんだか、まったく予想ができないけど」


「そう?普通だよ。例えば」



嬉しそうに好きなコのことを思い出している乾を見ていたら、何故だろう。
段々と胸の奥が重苦しくなってくるような気がしてきた。
なんかもう、聞かなくていいかな。というか、聞きたくない気がする。



「あのさ、やっぱ・・・」


「授業中に俺が咳とかするだろ?
 すると休み時間にちょこちょこっと寄ってきてアメをくれたりするんだ
 それがまたのど飴とかじゃなくて、
 喉を直撃して更に咳を誘発するような激しく甘いキャラメル味のアメなんだけどね」



止めようとした私に気づかず、乾が話してくれる。
うまい話の切り上げ方がない私は仕方なく相槌をうつ。



「あ、あれ美味しいのよ。私ものど飴代わりに使ってるけど」



同じクラスのコなんだ。
きれいどころの彼女たちを思い浮かべて、やっぱり胸が痛くなる。



「部活してる時も、遠くから大きく手を振ってるコがいると思ったら・・・彼女だ
 時々は失敗したような焦げたクッキーとかも差しいれてくれたりする」


「まめなコなんだ」
「まぁね。去年は自分で編んだマフラーをしてたっけ」



偶然だ。私も去年はマフラーを編んだ。
初めてかぎ針でロングマフラーを編んだんだけど、私の体格には長すぎた。
おまけに制服に合うと思って選んだ色も悪かった。
長いマフラーを何重にも巻いていたら、友だちに『ネズミみたい』と言われてへこんだっけ。


乾の好きなコは何色を編んだんだろう。
きっと可愛かったんだろうな。
ああ・・・よけいに気分が沈んできた。



「小さな顔が埋もれるぐらい、ぐるぐるとマフラーを巻いてて可愛かったな
 俺が『ネズミ色』だと言ったら、ひどく不機嫌になって・・あれからしてこなくなった
 ずっと気になってたんだけど理由を教えてくれるかい?」


「へ?」



暫しの沈黙。
あ然とする私の答えを促すように微笑む乾。



乾によく話しかけるコ。
キャラメル味のアメをあげるコ。
部活中の乾に大きく手を振るコ。
失敗したようなクッキーを差し入れするコ。


去年はマフラーを編んで・・・・
さっきまで重苦しかった胸の鼓動が段々速くなるのを感じる。





『マフラー自分で編んだんだ?あったかそうだね、可愛いよ』


『本当?なんか友だちには散々でさ』


『そうかい?良く似合ってるよ、そのネズミ色』


『ネズミ?ひどい!乾の馬鹿!!』


『え?なんで?』





その時のやりとりを思い出し、それでいて今の状況を振り返る。
乾は誰の話をしていたんだけっけ?


たしか・・・超がつくほど鈍感な好きなコについて。



ハッとすれば、頬杖をついたままで眩しそうに瞳を細めた乾がいた。
少し照れたようにメガネを押し上げ、最後の溜息をつく。





「ほら。は超がつくほど鈍感だろう?」





理解したと同時に沸騰する私を見て、乾が楽しそうに笑った。




















鈍感で悪かったわね 

2009/11/10




















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