メガネ










です。失礼しまーす。」
「ああ。どうぞ。」



部室の中から聞こえてきた声。それは私の想い人の声。
ドキドキする鼓動を抑えながら平静を装って部室のドアを開けた。


がっ、瞬間。心臓が飛び跳ねた。



「乾くん?」
「ん?ああ。メガネか。さっきね、ネジが外れてしまって掛けられないんだ。帰りに眼鏡屋に寄るつもりなんだけど。」


「そ・・・そう。あ、手塚君は?」
「さっき生徒会の方に呼ばれていったから、ここは俺とで進めて。後で手塚が加わるよ。」


「・・・分かった。」



ど・・・どうしよう。手塚君がいなければ乾君と二人きりになってしまう。
おまけに乾君・・・メガネをしてない。


素顔・・・はじめて見たけど。


ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁって叫びたいぐらい格好いいじゃないっ


詐欺だよ。信じられない。
そんな綺麗な目を厚底レンズで隠してたなんて。


もう、駄目。まともに顔なんて見られない。
出来ることなら今すぐ部室から逃げ出したいよ。



「どうしたの?座って。」



普段通りの彼がパソコンを前にして、私に隣の椅子を進める。



げっ、隣に座るの?



私のためらいを感じ取ったのか「パソコンの画面を一緒に見てもらわないとね。」と彼が付け加えた。


仕方ない。彼の隣の椅子に腰を下ろし、手元の資料を広げる。
とにかく早く終わらせよう。じゃないと心臓に悪すぎる。


出来るだけ顔を見ないように。キーボードにタッチする彼の指と画面を見つめた。



あ・・・綺麗な指。長くて節があるのに。もの凄く綺麗。



また、ドキドキと騒ぎ出す鼓動に。ダメダメっしっかりしなきゃと自分を励ます。




「ねっ、。聞いてる?」
「え?」



耳元で彼の低い声を聞いて。ハッと我に返って振り向いたら目の前に乾君の顔。



「ぎゃっ」
「ちょっと・・・傷つくな。ぎゃっ、はないんじゃないか?」


「だって、乾君が近くて。あ・・・ごめん。」
「視力が弱いから、近づかないと君の表情も見えないんだよ。」



悲鳴をあげて飛び逃げた私に、彼は頭をかきながら苦笑する。
まいったな・・・と言いながら資料を鼻先に付きそうなほど引っ付けて読みはじめた。



その様子に、本当に見えないんだ・・・と納得して。
少々彼が近づいてきても耐えなくては。と、心に念じる。



来年度のコート分けと掃除当番を話し合う。
大会前や練習試合があると男女のコートを貸し借りしなくてはならない。
あと、コート周辺の掃除も分けなくては。
そのほか補充する備品も部長の名前で請求しなくてはならない。
それらを話し合い、表を作っていた。



「女子の方はそれでいいのかい?」
「うん。大丈夫。」



時々乾君の顔が近づいてきて息さえ満足に出来ないが、なんとか乗り切る。


彼が話しかけてくるたびに触れ合う肩。
睫毛・・・長いんだ。うわ・・・切れ長の目だな。


緊張は解けないけれど観察も出来るようになってきた。
見れば見るほど綺麗な顔だ。


もしも彼がメガネを外して登校するようになったら、たちまち手塚君や不二君に負けないくらいの人気者になるだろう。


やっぱり。私なんかの手が届く人じゃないよね。


ちょっとヘコミつつ。すべての作業をやり終えた。



「結局、手塚君は間に合わなかったね。」
「んー。珍しく気をきかせたのかな?」


「え?」



資料をファイルに入れていた手を止めて、顔を上げた。
終わったと・・・やっと開放されると気を抜いていた。


無防備にあげた視線の先には乾君の瞳があって。
あまりの近さに身を引こうとしたら、彼の大きな手が私の頭を包むように添えられた。



あっ・・・



咄嗟にぎゅっと閉じた目。


それと同時に。唇には柔らかなぬくもりと吐息を感じた。



なに?え・・・これって?



離れていったぬくもりと。頭に添えられた手。



ぎゅっと閉じたままの目。混乱して開けることができなかった。



なにが起こったの?彼は、何をした?
ぐるぐる考えている私の耳に、クスッと笑う気配がした。



。もう、終わったから。目を開けて。」



おそるおそる目を開けると・・・穏やかに笑っている乾君の顔があった。



「なに・・・したか、分かってる?」



・・・分かってる。でも、信じられないの。



黙り込んで俯く私の頬を彼の手が包む。熱い。驚くほど熱い手。



「君に・・・キスした。ずっと、したかったから。君が好きだから。」
「嘘っ」



あははは、やっぱり。



彼が困った顔で笑った。


気付いてないのは君だけさ。
みんな知ってる。俺が君を好きなこと。


そして、俺は知ってた。
君が俺を好きなこと。それは、俺だけじゃない。みんな気付いてる。


いい加減まどろっこしいから何とかしろって外野がうるさいんだ。


だから。鈍感な君にも理解しやすいように・・・行動で表すことにしたんだけど。
どう?分かってくれたかな。



「・・・分かった。」



小さな声で答えたら。乾君が頭を撫でてくれた。
ああ、でも。言っておかなくちゃ。


顔に熱が集まって。手も震えてて。心臓は壊れそうなほど駆けている。
それでも大事なことだから。



「乾君。好き・・・です。」



彼が席を立った。と、同時にぎゅうっと抱きしめられる。



「ありがとう。」



私は椅子に座ったままで。中腰のまま抱きしめてくる乾君の広い背中にそっと手を添えた。





あ・・・あとね。ひとつ・・・お願いがあるの。



なに?



メガネ・・・私の前以外では外さないで?



うん?



乾君、素顔が素敵だから。私にしか見せないで欲しいの。



・・・いいよ。了解。



ありがと。



あっ・・・俺からもひとつ。お願いがある。



なに?



そういう可愛いことは、俺以外には言わないでくれるかな?



・・・うん。了解。



ありがとう。





抱きしめあったまま、笑った。


部室に。


手塚君のうかがうような「入ってもいいか?」の声が響いてくるまで。





















メガネ 

2005.01.10 

乾クンの素顔に惚れてます。




















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