恋人の素顔
彼は三枚目の役どころだ。
いつも飄々として、わけの分からないことを呟いている。
妙に博識でいて、変なことにこだわる。
昔からひとつ間違えれば変人のような振る舞いをしていた。
標準よりかなり高い身長。広い肩幅。
スタイルはバツグンなのに・・・。
どう見ても時代遅れのメガネをかけて、何のこだわりなのか髪をつんつんに立てている。
真面目な顔で冗談なのか本気なのか分からない会話をし、一人でこっそりと笑っていたりする。
緻密で頭の回転が速いくせに、単純なところでつまづいたりして。
中学時代から・・・ちょっと変わった人だと言われていた。
それは大学に入っても変わることがない。
周囲から三枚目だと認識されている彼。
でもね、私は知ってる。
「。こっちへおいでよ。」
「駄目。今日中にレポートを書き上げときたいの。」
「提出は明後日だろ?そんなに急がなくてもいいじゃないか?」
「そうだけど・・・波に乗ってるときに仕上げとかないと後が大変だから。」
「俺が手伝うよ。だから、おいで。」
連絡なしで家にやってきて、夕飯を食べた上に入浴までして人のベッドに潜り込んでいる。
狭い1LDKの部屋。テーブルの後ろにはベッドがあるから気が散って嫌になる。
「うそ。明日はテニスの仲間と飲み会だって知ってるんだから。明日困るのは私なの。」
「人を嘘つきよばわりなんて酷いな・・・飲み会は夜。昼間は手伝うよ。」
「・・・・。」
「だから、おいで?がいないと眠れない。」
ちらっと後ろを振り向けば、ニッコリと微笑んでいる彼。
長くて綺麗な指で「おいで」と手招きする。
シングルのベッドは小さくて窮屈そうにしているのに、更に私のスペースをあけて待っている。
どうしようか?レポートと彼の腕に抱かれて眠る心地よさを天秤にかけて迷う私
ふ・・・と笑って。彼が眼鏡を外す。
途端に現れる切れ長の綺麗な目に胸が跳ねた。
もう、数え切れないほど見てきたのに。いつもドキドキしてしまう。
その目を見てしまったら・・・私に逃げ場はなくなってしまうの。
「おいで。抱いてあげるから。」
落ち着いた深い声が甘く私を誘ってくる。
私だけが知っているの。
本当の乾貞治は三枚目なんかじゃない。
根負けした私がベッドに滑り込んでいるのを余裕の顔で招き入れて。
柔らかく抱きしめてキスをしてくる。
こんなに甘くて。見惚れるほどに綺麗な彼。
それは、私だけが知っている恋人の素顔。
「恋人の素顔」
2005.01.05
あの声で囁かれたら・・・・。駄目だ。
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