すれ違いの片思い










重い・・・。


奥歯を食いしばりながら、テニスボールの入ったカゴを両手で持ち上げた。
ヨタヨタ・・・っと、してしまう足。


女の子の中でも小柄な自分が恨めしい。
毎日牛乳も飲んでるんだけど。
高校二年にもなったら、もう成長は望めそうもなかった。


そこに横から伸びてきた日焼けした手。
軽々とカゴを持ち上げてくれる。



「大丈夫か?俺が運んでやるよ。」
「赤澤君、あのっ・・・大丈夫だから。こ・・コートに行かないと。」


「ああ?ボールを運んだって、たいした時間はかからねぇし。」
「でも・・」



赤澤君の気持ちは嬉しい。でも、駄目なの。
こんなところを、あの人に見られたら・・・また叱られちゃう!
と、思った瞬間。



「赤澤!何をしているんです?みんな部長を待っているんですよ?
 そんなことはマネジャーの仕事です。 さっさとコートに入ってください。」


「だが・・・観月」


「行って下さい。」



さすがの赤澤君も口をつぐんだ。迫力ある観月君には、さすがの部長も逆らえない。
部員達は『観月の院政だ』と噂してるけど。ある意味、事実だと言えるだろう。



すまなそうにボールのカゴを地面に置いて、赤澤君がコートに走っていった。
その背中を見送ってから、今度は私に視線を向ける彼。



ああ・・・覚悟をしよう。



さんっ!あなたはマネージャーでしょう?部長を使ってどうするんですか?」
「す・・・すみません!」



とにかく頭を下げて、カゴを持ち上げようとした私の手に、
綺麗な手が伸びてきて片方の持ち手を掴む。



「み・・観月君?」
「僕が手伝いますよ。今は手が空いてます。」


「いやっ・・でもっ」
「赤澤は良くて、僕に手伝ってもらうのは嫌なんですか?」


「え?」
「・・・なんでもないです。ほら、さっさと運びますよ。」



観月君は、すっと視線をそらして歩き始めた。
慌てて追いかけるみたいに片方の持ち手を握って並ぶ。



カゴが軽い。
身長差があるせいかもしれないけれど、ほとんどの重さを観月君が持ってくれてる気がする。



こっそり見上げると、平然とした綺麗な横顔がある。



ああ・・・綺麗。男の人に使う言葉ではないんだろうけど、本当に整った顔だと思う。
テニスをしているのに、色も白いし・・・繊細な手をしている。
真っ黒で少し癖のある髪も、端正な顔に似合っている。



やっぱり、好きだな。



こうやって並んでいるだけでドキドキする。
カゴの持ち手を左右に分かれて持っている。
手を繋いでいるわけでもないのに、それだけで、ときめいてしまう私の心。



でも・・・ドジで、とろい私は。観月君に嫌われてる。
いつも叱られてばかりの私。
一日に注意される回数は、1年の不二君より多いと思う。



こうやって、また迷惑をかけて。
内心イライラしてるんだろうな・・・と思うと、切なかった。



さん。」
「はい。」


「同級生なんだから、そんなに硬くならなくてもいいんですよ。」
「でも、観月君も丁寧だし。」


「僕のはクセです。気にしないで下さい。」
「はあ・・・。」


「ところで、一度あなたにキチンと言っておきたかったんですけどね。」
「はいっ」



緊張した返事をして顔を上げれば、困ったような目をして、クス・・・っと笑った彼がいた。



「あなたが女子の標準よりも小さくて、力がないことぐらい分かってます。
 それなのに、あなたは自分の能力以上のことをこなそうとする。
 僕はね、危なっかしくて見ていられないんです。」



       観月君? 



「ボールが重いのなら、そこらにいる1年生にでも運ばせればいいでしょう?
 無理をして転んだり、腰を痛めたらどうするんです?」


「でも・・・マネージャーの仕事だし。」


「マネジャーの仕事なら、他にもやっているでしょう?
 あなたは良く気がつく。
 男の僕達じゃまわらないところまで、心配りしてくれていることぐらい分かってますよ。
 それで充分なんです。あなたは出来ることを、しっかりやってくれればいいんです。」



驚いた。そんな目で、彼が私を見てくれてるなんて思ってもいなかった。
驚いたのと同時に、嬉しかった。


こんな私でも、観月君はいいと言ってくれている。認めてくれている。



あんまり嬉しくて。勝手に涙が出てきた。
慌てて片手で滲んでくる涙を拭ったら。
観月くんの焦った声が聞こえた。



「なっ・・・なんですかっ。ちょっ・・・なんで泣くんだっ」
「あ・・、ゴメンナサイ。なんか、嬉しくて。」


「嬉しい?」
「私、ずっと観月君に嫌われてると思ってて。だから・・・」


「僕が?あなたを嫌ってる?・・・なんでそうなるんだ。」



観月くんがカゴを地面に置いた。
自然と私もカゴを地面におろすことになり、持ち手から手を離す。
カゴを間に挟んで、部室近くの通路で向かい合う私達。



観月くんは顎に手をやって、何か考える仕草をする。
ふう・・と一つ溜息をつき、ゆっくりと視線をあげると私を捉えた。



綺麗な瞳。



思わず見惚れる私に一言。



「嫌ってるわけないでしょう?僕は、ずっとあなたばかり見ているんですから。」
「私を・・・見てる?」


「ずっと見てるから。あなたが無理をしてると注意したくなる。
 あなたが誰か他の奴と親しそうにしていると腹も立つ。」



それは?観月君は何を言っているの?まって・・・意味を・・・



「ぼーっとしてますけど。僕の言っている意味、分かってますか?」
「観月君・・・ひょっとして・・・私を?」



おそるおそる訊ねてみれば。
苦笑した彼が私の目を見て、重々しく頷いてみせた。



また泣いてしまった私の頭を撫でて。


彼が囁く。



あなた。動きも鈍いですけど・・・人の感情にも鈍いんですね。
僕の気持ちなんて・・・もうとっくに、ばれちゃってると思ってましたよ?


でも、僕もあなたのことは言えないかもしれませんね。
あなたが僕のことを目で追っているのは知ってましたけど。
まさか僕に嫌われてると思っていたなんて・・・想像もしてませんでしたよ?


まだまだ、あなたの事が分かってなかったんですね。


まあ、いいです。これからは、遠慮なしに。
もっともっと、あなたの事を知ればいいんですから。



眩しいほどの日差しの中。
手が届かないと思っていた人が笑った。



見たことがないくらい、優しい笑顔で。



そっと、私を包んでくれました。




















「すれちがいの片想い」  

2005.02.13  

初観月。いかがでしょう?



















テニプリ短編TOPへ戻る