『相変わらずなふたり』











「お前たち、相変わらずだな」



空港のロビーで待ち合わせた赤澤が開口一番で言った。
海好きが高じて沖縄に移住した赤澤と会うのは、かれこれ半年ぶりだ。
私と観月は視線を合わせ、お互いが軽く肩をすくめる。



「相変わらずなのは赤澤の肌の黒さと白い歯だよね」
「相変わらず着眼点が変ですね、あなたは」



私の呟きに、相変わらず嫌味っぽく観月が反応した。



買ったばかりの中古の軽自動車には若葉マークが輝く。
何が問題なのか助手席は空席で、狭いだろう後部座席に男ふたりが並んでいる図だ。



「向こうには慣れたんですか?」
「まあな。沖縄はいいぞ。観月も遊びに来いよ」


「近いうちに・・、ここは一時停止ですよ!」
「停止したよ」



赤澤と話し込んでいた観月が突然に後ろから声をあげる。
ちゃんとブレーキ踏んだもんねと無視してハンドルをきれば、いつものごとく小言が続く。



「ブレーキを踏むのが一時停止じゃない。完全に止まるのが大事なんだって、何度言えば分かるんです?」


「止まってたでしょ」
「止まってません」


「話してて見てなかったでしょうよ」
「しっかり見てましたよ。いつも三秒は数えて止まりなさいと言ってるでしょう」


「観月、警察官になれば良かったね。銀行員も細かい性格にピッタリだけど」



私たちの言い合いを黙って聞いていた赤澤。
生温かい目で私たちを見ると、「うん。帰ってきたって気がするぞ」と笑った。


それから後もウィンカーを出すのが遅いとか、右折の仕方が悪いとか文句を言われ続けての運転。
マンションの駐車場に着いた時には喧嘩になっていた。



「まぁまぁ、観月。無事に着いたんだからいいじゃないか」
「この大雑把な人間が車を走らせてるんですよ?いくら注意しても足りませんよ」


「知識だけで免許持ってない観月に言われたくないよ」
「免許は持ってても標識もうろ覚えの人に言われたくないです」



赤澤の荷物を車のトランクから出しつつ言い合い。
手土産らしい沖縄の文字が入った菓子袋を観月に渡され、三人でエレベーターに乗り込む。
エレベーターのドアが開いた時には、笑うしかない赤澤と視線を合わさない私たちがいた。


数メートルの廊下を歩けば、緑色のドアにたどりつく。
横には表札があって、そこに書かれている名前は『観月』だ。
三日前に私がマジックで書いて入れた名前だが、どうも右上がりなのが気になると観月は気にいらないらしい。


観月が鍵をあけて、ドアを開く。
真新しい家の匂いには私もまだ慣れていないが、観月は我が物顔だ。
私が「どうぞ」と赤澤を促せば、今さら遠慮がちに頭を下げた。



「新婚家庭にいいのか?悪いな」



私と観月は顔を見合わせ、また肩をすくめる。



「新婚になるのは明後日ですから」
「そうそう。それに今日、明日中に別れるかもしれないし」



また物騒なことを・・と赤澤が引きつっているが、観月は気にもしないで靴を脱いでいる。
そして赤澤の荷物を手に振り返ると、癖のある笑みを浮かべて言った。



「別れる別れるって言うわりには、僕一筋ですから可愛いもんです」
「ちょっと待って、それは観月でしょ?」


「僕は別れるなんて言ったことないですよ」
「そこじゃなくて僕一筋ってとこ。私がゾッコンみたいな誤解を招くこと言わないでよ」


「誤解ねぇ。まぁ、僕が君一筋なのは否定しませんけどね」
「ね、赤澤なら知ってるよね?観月のほうが口説いてきて、そのままズルズルと」



玄関で言い合う私たちを前に靴を履いたままの赤澤が大きく溜息を吐いた。
そして、しみじみと一言。



「お前ら、幸せだよ」



私は観月以外を好きになったことがなくて、観月も私以外を好きになったことがない。
他人に話すと『奇跡みたいな話だ』って驚かれる。


君は運命の人だからと観月は笑うけど、この先でお互い以上に好きな人が出現したら・・どうするんだろう。
観月に言ったら唇の端をひん曲げて笑われた。



『そうならないよう僕だけを見てればいい。僕が君しか見ていないのと同じようにね』



そんなことを真顔で言うから反論する気力もなくした。



「観月、紅茶淹れて」
「はいはい」



味にうるさい男には自分でやらせるにかぎる。
楽しげに新居をみまわってる赤澤の背中に声をかける観月はご機嫌だ。



うん。赤澤、そうだね。
ずっと傍で私たちを見てきた親友が言うのだから間違いない。



私たちはとても幸せだ。




















『相変わらずなふたり』 

2011/05/29 

2011年夏の拍手のふたり



ご希望の拍手の続きです。




















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