あなたにあげる・・・ 〜観月サイド〜










この世に、一目惚れってあるんだな。



それが、彼女を見た僕の第一印象です。
いったい僕の脳内でどんな変化が起こったのか、非常に興味深いところなのですけど・・・
まずは彼女から目が離せない。
瞬きをするのも忘れて、ただ目の前の彼女を見つめていました。


綺麗な人でした。
容姿もですが、彼女の内から滲み出ている雰囲気が・・・とても綺麗だった。
言葉を交わしても、その印象が変わることはありませんでした。
波長があったんでしょうか、彼女を見たとき・・・何か体の中を衝撃が走ったんです。



僕は、すぐに彼女のことを調べ始めました。
彼女の名前は胸に書いてある。
暇を見つけては紅茶の店に通い、彼女がいつバイトにきているのか調査しました。
もうすでに知識として持っていることを訊ねてみたり、
わざわざ難しいことを質問して次までに答えを用意してもらったり。
僕をただの客ではなく印象付けてもらえるよう努力しました。



僕が店に入って行くと「ああ、」と彼女が見知った顔をしてくれるようになるまでに3ヶ月。
紅茶以外の話が出来るようになるのに2ヶ月。
彼女が帰る時間を狙って店に行き、外で会うようになるのに2ヶ月。



我ながら気長に、でも着実に進めてきた恋。



そして、高二の春休み。



『あなたのこと、特別に興味を持っていますよ。』
『特別に・・・興味って。どういう?』


『ああ、いえ。まあ、早く言えば。あなたの事を個人的に、感情的に知りたい。』
『ますます・・・分からないんだけど』


『ああっ、もう。理解力のない人ですね。僕は、あなたが好きなんですよ!
 ここまで言わせないと分からないんですか?』



今、思い出しても失敗です。
事前に考えていたセリフは全く役に立っていませんでした。
こんなにも自分は不器用な男だったのかと、後で思い返して自己嫌悪に陥った告白です。


それでも唖然としていた彼女が頬を染めて、僅かに頷いてくれたのが可愛らしくて。
消したいような生まれて初めての告白も、甘い思い出になってくれました。



でもね、僕は気付いていたんです。
彼女は僕に好感を持ってはいるけれど『好意』はまだ持っていないということに。
つまり『好ましい人だ』とは思っても『好き』ではないということです。


とにかく彼女の彼氏という位置はキープしました。
これから大切に、ゆっくりと。彼女を僕だけの人にしたいと・・・そう思っていたんです。





『ああ、さん。今日はミーティングが入ってるんです。ですから』


『今日は、後輩の特訓がしたいので』


『部長と相談したいことがあるんです。だから』


『急に神奈川まで情報収集に行くことになったので』



     『・・・会えません』





もうなん十回となく吐いたセリフ。





『そう、大変ね。分かった。じゃあ・・・』


「夜、電話します」





その電話さえ。気づけば深夜になっていて出来ない日々。



心の通い合った恋人ならば、どんなに遅くなっても電話が出来るでしょう。
我儘も言って、どんなに短い時間でも『会いたい』と呼び出すことができるでしょう。



テニスに割かれていく時間は3年生になって益々多くなっていき、
プライベートな時間など減る一方。
僕のフラストレーションも溜まる一方です。



ねぇ、さん。我儘を言ってくれませんか?


深夜でも電話して、と。10分でも会いたい、と。
あなたがそう言ってくれたなら、僕はどんな願いも叶えるだろうに。


僕を求めて欲しい。僕が・・・こんなにも君を求めているのと同じように。
あなたが欲しい。あなたの心が全部。僕のものになればいいのに。





離れた場所で君のことを想い続けている僕。
手のかかる後輩にまで『デートする暇もないですよね』と心配されてしまいました。
まったく。テニスに関しては疎いくせに、こういう事に関しては敏感に察する。
張るべきアンテナが間違ってますよ、と思いながらも。
可愛い後輩が案じてくれる彼女とのこと。



君が僕に会えなくて『寂しい』と思ってくれているのなら・・・嬉しいんですよ。



そして、問題の5月27日。僕の誕生日。



ずっとずっと待っていた電話。
僕は授業中でさえ電源を落とさずに、ただ一人からの連絡を待っていたんです。
数日前から・・・ずっと。


いつもいつも、僕からしかしない電話。
彼女からは、かかってこない電話。
この誕生日に、僕は自分自身と賭けをしたんです。
僕からは連絡しない。それで彼女がどう行動してくれるか・・・賭けたんです。



好きだと思ってくれるなら。僕を恋人だと思ってくれているなら・・・今日は会いにきて欲しい、と。



彼女が来てくれたなら、僕はきっと抱きしめて口づける。
もう遠慮はしない。全部全部、僕のあなたにする。



もし・・・来なければ。僕は。



どうでもいいような人間にばかり追い掛け回されて、どんどん不機嫌になっていく。
部室に逃げ込み部員達を早々に追い出したのに、
長い付き合いの赤澤は僕が口にしなくても察したように残っていました。



「観月、そんなに気になるんなら自分から電話してみろよ。」
「なんて?今日、僕の誕生日なんですけど覚えてくれてますか、って?
 そんな情けない事、できますか?」


「いや、そんなダイレクトに聞かなくても、他に聞きようがあるだろ?」
「黙っててください。ほら、部活のメニューはコレです。もう僕はコートには出ませんよ?煩わしいっ」


「観月・・・帰ってもいいぞ?会いに行って来い。」
「嫌です。待ちます。」


「頑固だよ、お前。離したくないくせに。」


「僕はね、赤澤。僕だけが彼女を好きで、その好きが・・・彼女の重荷になるのは嫌なんですよ。
 それでも好きだから、彼女が僕と同じ位置に立ってくれるのを待ってるんです。」


「あのなぁ。好きなんて気持ち、目に見えて量れるものでもないだろ?
 どっちがどれだけ好きだとか、そんなの分からないじゃないか。素直になったほうがいいぞ。」


「分かったようなことを・・・」



イライラと前髪を指に絡める僕を見ながら、赤澤が溜息混じりに呟きました。



「お前が・・・そんなに臆病になってるの、初めて見るな。」



ハッとして赤澤の顔を見たら、少し困ったように笑っていました。
ああ・・・やられた、と思う。僕の心を見通すとは。
赤澤を部長にして、彼のもとで動いてきた僕の目は間違いではなかったようです。



「参りましたね、僕の気持ちはお見通しですか。」
「それだけ、本気ってことだろ?」


「そうですよ。知ってて聞かないで下さい。嫌な気分になります。」
「離すなよ。お前が本気で恋するなんて、そうそうないだろうし。」


「最初で最後ぐらいに切羽詰ってるんです。臆病にもなりますよ。」


「・・・是非、お前にそこまで思わせる彼女に会いたいよ。」
「ふん。勿体無いから会わせません。」



赤澤はテーブルに肘を着いて顎を乗せ、呆れ顔で僕のそばにいる。
こういう気遣いをされると嬉しいようで困るんです。
で、更に不機嫌な顔で部室に籠もる事になってしまいました。


一応ポロシャツにだけは着替えたものの制服のズボンのまま。
腰には携帯が入れっぱなしになっていて、彼女からの着信を待っている。



そこへ後輩が抱えてきたのは・・・紅茶とカード





『 お誕生日おめでとう さようなら 』





この文字を見たとき、頭の中が沸騰してました。
完全な八つ当たり、分かっているけど後輩を怒鳴って飛び出した外。


彼女の姿を探して走って。
ただ、逃がしたくない。今、捕まえないと・・・彼女を失ってしまう。
その一心で、恋焦がれた彼女の姿を探して、探して、・・・そして見つけた。



もう、僕の想いのほうが強いとか。彼女が僕を好きかどうかなんて関係ない。
僕は彼女が好きだ。離したくない。



その強い想いだけで、バスのタラップに足をかけた彼女の腕を強引に引っ張って
後ろから抱きしめました。



捕まえた!



「すみません。彼女は乗りませんから。行って下さい。」



乱れた息で告げると、バスは行ってくれた。
これで彼女は逃げられない。そう、僕はあなたを離さないんだ。



「どうして・・・」


「どうして?それが聞きたいのは僕の方ですよ。紅茶は嬉しかったです。ありがとう。
 でも、あのカードは何です?誕生日なのに、趣味が悪すぎますよ。」


「お願い・・・離して」


「嫌です。離したら、あなたは『さようなら』するんでしょ?離せるわけないじゃないですか?」


「だって・・・」


「だって何です。言いたいことがあるのなら、この際です。はっきり、言いなさい。
 言わないと離しませんよ。誰が来ようが、何が来ようが、僕は平気ですからね。」



聞かせてください。あなたの気持ちを。
僕のもとに誕生日プレゼントを持ってきた理由。そして、涙のわけを僕は知りたいんです。



「観月君が、」
「僕が?何です?」  君が何を言っても離さない。


「テニスばっかり大切にして・・・私は必要ないみたいで・・・」
「・・・それで?」  そんなこと思っていたの?こんなにも必要としているのに。


「ちっとも会えなくて。会いたいのに・・・会えなくて。観月君は会えなくても平気で。」
「・・・それで?」  ねぇ、それは、


「好き・・・って言ってくれたのは観月君なのに。それなのに・・・好きなのは私の方で。」
「・・・そうなんですか?」  これは聞き間違じゃないですよね。


「私ばっかり観月君に会いたくて。観月君が好きで。好きで・・・会いたくて。
 でも、テニスには敵わなくて。嫉妬して・・・苦しくて・・・だからっ」



ああ、どうしよう。嬉しくて、どうにかなってしまいそうだ。



ポロポロと涙をこぼしながら、素直な気持ちを聞かせてくれる僕の恋人。



もう我慢できずに、彼女の体を了承も得ずに反転させて思い切り抱きしめました。
ずっとずっと、こうやって抱きしめたかった。
ねぇ、。僕の気持ちも・・・あなたになら素直に言えます。



「馬鹿ですね。は馬鹿です。おまけに、僕も馬鹿です。
 僕はね、自分が先にあなたを好きになったから・・・遠慮してたんですよ。
 まさか、あなたがそんなに僕のことを想ってくれてるとは思いもせずにね。
 時間をかけて、僕を好きになって欲しいと思ってました。完全に読み違えてましたね。
 僕としたことが・・・まだまだですね。」


「・・・遠慮って?」


「僕が想いのまま、欲望のままに振舞ったら。
 あなたに嫌われてしまいそうで、紳士ぶってたんです。
 分かりますか?それほどに僕は、あなたのことが好きなんですよ。
 テニスに嫉妬ですって?馬鹿馬鹿しい。それで『さようなら』ですか?あなた、馬鹿ですねぇ。」


「・・・酷い。馬鹿、馬鹿って。」



少し笑いを含んだ可愛い拗ねた声に誘われて、遠慮もなく額にキスをする。



「いいじゃないですか。馬鹿同士、お似合いですよ。」
「観月君!」


「おでこにキスしたくらいで慌てていては、これからが大変ですよ?」
「これから?」


「そう。もう、遠慮はしません。
 好きなだけ、を束縛して。全部、僕のものにしますから。覚悟してくださいね。」
「ちょっと・・・待って。」


「待つもんですか。テニスに敵わないなんて・・・二度と思えないようにしてあげます。」
「いや・・・ちょっと。もう、分かったから。観月く・・・」



続きの言葉など聞く余裕はありません。
想いのままに口づけて、そっと離した唇を溢れる愛しさをこめて指でなぞる。



「ねぇ、。観念して。僕にくださいよ。あなたの、すべてを。」



君の瞳に映る僕を見つめ、真摯な願いをあなたに告げる。
答えは・・・ひとつ。


知っていて聞きます。


その言葉が欲しい、我儘な僕だから。








随分と遅くなって寮に戻れば、可哀相な後輩が泣きそうな顔で待っていました。
実を言うと彼の存在など、すっかり頭から消えていた僕。



「おや、裕太君。筋トレをサボってますね。僕がいないと、すぐ手を抜く。」
「そんなことよりっ、あのっ、あ・・・会えたんですか?」


「紅茶。持ってきてくれたんですね、ありがとう。」
「観月さん、俺・・・知らなくて。あの、」



可愛い不二君。僕の心配をしてくれてたんですね、ありがとう。
いいでしょう、君には教えてあげます。僕の本気をね。



「観月さんっ」
「裕太君。これからは僕がいなくても、自分でシッカリとトレーニングしてくださいよ。
 そうじゃないと、僕が気になって出かけられません。」


「え・・?」
「これからは、ちょくちょく出かけますから。夜のトレーニングまでは見てられないと言ってるんです。」


「それは、観月さんっ」



「彼女は、しっかり捕まえました。二度と、離しはしませんよ。」



唖然とした間抜け面の不二君を残して、部屋に向かう。
彼女が選んでくれた紅茶を飲まなくてはね。



「じゃあ、今から筋トレしてくださいよ。おやすみなさい。」



彼は周囲に左右されないよう、少しメンタル面を強化しなくては。
思いながら階段を上がりきったところで、会いたくもない赤澤が立っていました。



「おかえり」
「どうも」


「首尾は上々か」



ニヤリと、笑った顔が憎らしい。
あなたにそんな顔をされると負けたみたいで、もの凄く悔しいんですよ。



「おかげさまで。好きなだけ抱いてきました。」
「えっ、」



ふん。言葉に詰まって立ち尽くす赤澤を残して
「疲れましたから、寝ます。おやすみなさい。」とドアをピシャリと閉めてやった。



明日から覚悟してなさい。
僕はね、恋もテニスも手は抜きませんよ。全力でいきます。


手に入れたは大切に。
今から掴む勝利は・・・大事な仲間達ときっと手に入れてみせる。



開いたままのカーテンを閉めようとして、柔らかく輝く月に手が止まりました。
さっきまで感じていたの温もり。
別れたばかりなのに・・・もう会いたいと思ってしまう。





     あなたに・・・あげる





囁いたの声が。



僕の心に、また響いている。




















          「あなたにあげる 〜観月サイド〜」 

          2005.07.24  リクに応えて




















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