ペテン師の恋












仁王の恋人はイマドキ珍しいほどの清楚で可愛らしい女性だ。


どこで引っかけてきたんだろうかとか、あまりに世間知らずだったであろう彼女が哀れだとか
果ては『ある意味、犯罪だ』だとまで陰口を叩かれた仁王。
そんな噂話など右から左の彼は、今日も飄々として別の女性を口説いていた。



「この広さなら将来的に結婚しても夫婦で住めますし、駅近で、セキュリティーは抜群
 貴女のように綺麗な人に、是非オススメしたい物件です」



整った顔に涼しい笑みを浮かべ、じっと女性の瞳を見つめる。
するとバリバリのキャリアウーマンらしい年上の女性が頬を赤らめた。



「今月もお前がトップだろうな。マンション売るより、ホストになった方がいいんじゃね?」



仁王は同僚の言葉に少し笑って、長い指に挟んだ煙草にライターで火をつけた。
そのままライターを手の中にもてあそびながら、気持ち良さそうに白い煙を青空に向かって吐く。



「確かにソッチのほうが楽に儲けそうじゃが、泣かせるのがどうもな」
「へぇ。騙した女に泣かれるのがイヤだってか?お前、そんなキャラか?」


「騙した女に泣かれるのは平気じゃ。騙せん女に泣かれるのが困るということ」
「騙せない女?」



意味が分からないという顔をした同僚を横目に、仁王は手のひらのライターを優しく撫でた。





遅くなってしまった。
既にメールはして『急がなくていいから』とは言われたものの、勝手に足が早くなる。
お詫びにと買ったケーキは彼女が気にいっている店のもの。


見慣れた扉の前で息を整えインターフォンを鳴らす。
すると直ぐに彼女の声がして、仁王は「俺じゃ」と応えた。



「おかえりなさい」と彼女は言う。



仁王には彼のアパートがあるのだが、ほとんど物置と化していた。



「悪い。遅うなった」
「そんな・・・遅くなっても平気だったのに」


「詫びじゃ」
「わぁ、嬉しい。ありがとう」



差し出したケーキの箱に、は両手を合わせて喜ぶ。
素直に礼を言い、仁王の少し後ろをパタパタと付いてくる。


居間に入れば、白いテーブルの上に彼女の手料理が並んでいた。
仁王は表情を緩め、ネクタイを無造作に緩めて上着を脱ぐ。
すると後ろのが自然な動作で上着を受け取った。



「もう一年か」
「付き合い始めて一年のお祝いなんて・・・なんだか恥ずかしいね」


「そうか?立派な記念日じゃろ?」



仁王の上着を胸に抱いたまま、はにかむ彼女が可愛らしい。
いつものように伸ばした手で、仁王は恋人の細い体を抱き寄せた。
おとなしく腕の中に身をゆだねてくれる様になった彼女が愛しくて、つい腕に力を込めたくなるが耐える。
怖がらせたり、壊したりはしたくない。


可愛くて、愛しくて、どこか滅茶苦茶にしてやりたいほど好きになってしまった女性だ。



生まれて初めての記念日だと、仁王はの髪に鼻先を埋めながら思う。
数える気もなくなるほどに多くの女と付き合ってきたが、一年ともった例がなかったからだ。


だから昨夜、華奢な身体をベッドの中で抱きしめながら『記念日を祝おう』と提案した。
付き合い始めた日を仁王が覚えていたことに驚いただったが、とても嬉しそうだった。
もともと記憶力が抜群に良い仁王だが、いまだかつて女と付き合い始めた日なんかを憶えていた記憶がない。


それがどうだろう。
と出会った季節、場所。
遠回りして、馬鹿馬鹿しい策を弄して失敗し、もう手に入れられないと絶望した先で
やっと彼女と心を通わせた夜のことは日時まで記憶に刻まれているのだから驚きだ。



仁王は自分の変化に笑みを零し、そっとの額にキスをした。
途端に彼女は頬を染めて照れたように俯いてしまうから、ついつい意地悪をしたくなる。



「もっと先まで知ってるくせに」



意識して艶を含んだ声を耳元に囁けば、彼女は更に顔を真っ赤にして身を縮こませてしまった。
思わず声をたてて笑ってしまった仁王は、に拗ねた瞳を向けられて肩をすくめる。



「ああ、ハイハイ。拗ねるな、拗ねるな。もう一つ、プレゼントがあるぞ」
「え?」



子供のような澄んだ目で、きょとんと自分を見上げてくる恋人。
こんなに綺麗な人を我が物にしようとする自分は、他の奴らがいうように罪かもしれないと思う。


しかし、それがどうした。
ペテン師と呼ばれた自分には相応しい恋だと開き直る。



「目を閉じて」



囁きに、素直に目を閉じてしまうが多少心配だ。
悪い虫がつく前に、一番の悪い虫が全てを奪ってしまおう。



片手をポケットにしのばせながら、甘い唇にキスをする。
指先に触れた冷たい感触は彼女の薬指にちょうど合うはずだ。





この先の吐息も時間も未来も全て、俺のもの。




















1111111ゲット記念 愛を込めて、みいさまへ  

2009.05.17




















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