君は僕のチアガール










「全員、集まったかな?じゃあ、今度の遠征について説明を始めます。」



総勢200人近くいる部員達。
その中からレギュラー、準レギュラーだけを集めて話を始める。
それでも三十人だから、一クラス分くらいの人数だ。
手元の資料を見ながら説明を始めたけれど、後ろの方に立つ準レギュラーたちの集中が続かない。



「あの、後ろの方もちゃんと聞いてくれるかな?」



ボソボソと続く私語に耐え切れず注意をしたけれど、一時しのぎにしかならない。
マイッタな・・・と思ったところで、隣に立つ副部長の日吉が一歩前に出た。



「オイッ、お前ら!説明が聞けないんならココから外すぞ!お前らが消えても代わりは山ほどいるんだ!」



日吉の一喝で、その場が瞬時に静かになった。
睨みをきかせながら下がった日吉に「ありがとう」と告げれば「早くしろよ」と返事が返ってきた。



「・・・以上です。何か質問はありませんか?なかったら、解散です。お疲れ様でした。」



何とか説明を終えて解散すれば皆がバラバラと散らばっていった。
そんな部員達の背中を見ながら、出るのは溜息ばかりだ。
日吉なんかは俺の事など見向きもせずに何処かへ行ってしまい、気づけば一人ぼっち。



宍戸先輩達がいた頃は良かったなと、シミジミ思う。
一ヶ月前までは、俺の立つ場所に跡部先輩が立っていた。
跡部先輩が一声発するだけで、全員がピタッと口を閉じて話を聞いていたっけ。


200人の部員全ての名前を覚えていた跡部部長。
それぞれの長所短所も的確に把握して頭の中に入れていた。
下っ端の部員までもが跡部部長を慕い、部長もまた底辺にまで目を配っていた。
まさしく200人の頂点に立って、全て纏めていたカリスマだったんだ。


なのに俺ときたら、たった30人のメンバーさえ纏められずに、この有様だ。
さっきのことからしても、部長は日吉の方が良かったんだと思う。


「迫力がない」「威厳がない」「丁寧すぎる」と半ば揶揄されるように言われてる俺と違って、
日吉は迫力も威厳もあって、言うべき事はビシッと言える。


どう考えても日吉のほうが部長に適していると思う。


前にも同じことを思って口にしたことがあった。
あの時はマネージャーである彼女が励ましてくれたんだ。



『なんで俺が部長なんだろう?』
『私は鳳クンが部長で正解だったと思ってるわよ?』


『・・・なんで?』
『あの跡部先輩の後だもの。誰だって部長は大変だと思う。
 でもね、鳳クンは誰より気遣いが出来るでしょう?そういうのって、今の新しいチームには大事だと思うの。
 それに真面目で努力家だし、後輩達へのお手本にもなるわ。
 鳳クンは絶対に良い部長になると思う。大丈夫よ!』


『そう・・かな?』
『そうよ!だって、跡部先輩をはじめ三年の先輩達が一致して鳳クンを部長に推したのよ?
 もっと自信を持って!じゃないと、宍戸先輩に叱られちゃうよ?』



ニコニコって、お日様みたいに微笑んだ君。
ずっと俺は彼女に片想いをしてきて、これ以上は好きになれないって思ってたほど好きだった。
でも想いには際限がないと知った瞬間、もっと彼女を好きになっていた。



だから自信喪失に襲われながらも頑張ってる。
まあ、時々は今みたいに落ち込むけど。



さんの仕事もすんだかな?
ちょと彼女の顔を見て元気を取り戻そう。


そう気を取り直し、コート整備をする一年生に声をかけてその場を離れた。





部室に向かっていたら、テニス部の倉庫の前に立つ彼女が見えた。
やった!と現金にも気持ちは上昇し、近づこうと足を踏み出したところで隣に誰か人がいる事に気がついた。


まさか?と目を凝らせば、やっぱり・・・そう。
俺の想い人と日吉が何やら向かい合って話をしていた。
声は僅かにしか聞こえないけれど何かを言い合っているようだ。
ここ最近こうやって二人が人のいないところで話しているのを見てしまう。


当然だけど、俺は気になって仕方ない。
もしかして実は二人が付き合ってるんじゃないだろうかとか、
さんは日吉のことを好きなのかもしれないなんて勘ぐっては心落ち着かない。


彼女に一度、さり気無く日吉のことをどう思うかと聞いてみたけれど、
『努力家なのは認めるけれど、口が悪すぎよ。』と笑って逃げられてしまった。



どうしよう、倉庫を避けて戻ろうか。
いや、なにも俺が逃げるようなこともないだろう。
二人の前を通って部室に戻る。逃げ隠れすることじゃない。



複雑な思いが頭の中を回っていた時、日吉が不機嫌そうに何か言い捨て彼女に背を向けた。
後ろから彼女が日吉の腕を掴む。
それを見て、俺の胸が嫌な音を立てた。


面倒くさそうに振り返る日吉に尚も彼女が何か言っているのだが、日吉は冷たい目で何かを言い返している。
そして、自分の腕を掴んでいる彼女の手を乱暴に振り払った。



馬鹿だと思う。
お節介だと思う。
俺って駄目だと思う。


それでも彼女に冷たくする日吉が許せずに、俺は走り出していた。



さん!どうしたの?」
「鳳クン」



振り払われた手を胸の前で重ねる彼女が困惑したような目で俺を見上げた。
日吉は何も言わずに視線を逸らす。
その雰囲気に、やっぱり二人の間には何かがあるんだなと確信した。



失恋なのかな。でも、彼女が傷つけられるのは許せない。



「日吉!大きなお世話かもしれないけど、彼女に冷たくするのはヤメろよ!」
がシツコイから鬱陶しいだけだ。」


「鬱陶しいって、お前・・」
「鳳クン、何でもないの。私が日吉君に色々としつこく言ったのは本当なのよ。ゴメンね、日吉君。」


「フン。ホント、嫌になる。」



カッとした。俺の大好きな彼女に対して、あんまりな言い草じゃないか。
それじゃなくても凹んでた俺は怒りが腹の底から湧いてくるのを感じた。



「そんな言い方はないだろう?さんに謝れよ。」
「い、いいって、鳳クン。本当に私、」



俺と日吉の間に立ち、俺を宥めようとする彼女が余計に悲しくて遣る瀬無い。
こんなに冷たくされても日吉を庇うの?
それほどに大切な人だってこと?



「謝る?なんで、俺が?」
さんがこんなにお前のこと思ってるのに、彼女を傷つけるようなことを言うからだろう?」


「え?待って鳳クン、それって」
「いいから、さんは黙ってて。」


「でも、」



腕を組んで立つ日吉が思いっきり大きな溜息をついて首をまわした。



「やってらんねぇ」
「だから、その言い方が彼女を」


「お前、何を勘違いしてるのか知らないけど。
 は俺に新部長様のフォローをしろって、あれこれとシツコク言ってくるんで鬱陶しいんだよ。
 お前も自分の女に心配かけないよう、もうちょっとシッカリしろよな。
 フン。バカバカしい、先に帰るから鍵を閉めとけよ。」



唖然とする俺を一瞥して日吉は今度こそ背を向けて歩いていった。
残るのは俺と彼女だけ。



「あ、あの、私、まだ仕事が残ってて、その・・・行くね。」
「待って、」



俺のもとから逃げ出そうとした彼女を引き止めた。


どうしよう、すごく嬉しいんだ。
君が俺を影から応援してくれようとしていたこと。
どうも日吉が好きなわけじゃないってこと。


彼女は立ち止まって、上目遣いに俺を見上げる。
心なし頬が赤くて、恥ずかしそうに噛んだ唇がとても可愛らしい。



「今の・・・日吉に俺のこと頼んでくれてたって、本当?」


「ゴメンナサイ。
 お節介だとは思ったんだけど・・・柔の鳳クンと剛の日吉君を合わせれば、いい感じになると思って。
 そのためにも日吉君には鳳クンをフォローしてもらいたいな・・・って、つい。」


「ありがとう。・・うれしいよ。」



ううん、と更に彼女が頬を染め、俺たちの間に沈黙が落ちる。
嫌な沈黙じゃない。
なんていうか、くすぐったいような。



「えっと、俺・・頑張るよ。君に心配をかけないよう、今よりもずっと。」
「ウン!あの、私も応援してる。私にできることがあったら、なんでも言ってね?」


「ありがとう。じゃあ・・・これからも応援し続けて欲しいんだ。」
「もちろん!」


「出来たら、俺だけを。」
「え?」


「駄目・・かな?」





君の応援があれば、きっと頑張れそうな気がするんだ。





ウン、きっとじゃない・・・絶対に。




















25万ヒット代打リク 『君は僕のチアガール』 

2006.08.15



『長太郎君で。彼の支えになるヒロインが「自分より上じゃないか 」と思っている男と話していることで、
 嫉妬深くない(・・と自分で思っている)はずの彼が嫉妬してしまい・・・』という、リクでした。



さんきゅ 沙悠美様




















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