Love letter 〜Girl's side〜
私たちの卒業式は雨だった。
並ぶ傘と花束が鮮やかで、ある意味・・・色彩のある卒業式。
私は傘に遮られ、最後にどうしても会いたい人と会えずにいた。
四月からは地元に戻ると人づてに聞いた。
『ああ、には言うてへんかった?俺、あっちの大学受けるんよ。どや?寂しくなるやろ?』と、
さりげなく確認しようとした私におどけて教えてくれたのは秋。
あれから私の心は凍ったまま。
彼への想いは封じ込めて凍らせてしまっていた。
ただの友達だもの。
私にとっては重大な事でも、彼にとったら何でもないことだったのだ。
「あ、。写真・・・一緒に撮ってもらえるかな?俺・・・好きだったんだよね。」
思いも寄らぬ人から声をかけられたりして、最後の日だから・・・と
勇気を振り絞る彼らに心を動かされる。
「ごめんね、でも・・・ありがとう。」
「そっか、うん。けど、写真はいいよね?」
「うん、」
私は、その人の思い出のためフレームに納まった。
あっちでもこっちでもフラッシュがたかれてる。
明日からは制服を着ない。学校にも行かない。もう・・・会えない。
だからこそ、勇気ある人は想いを大切な人に告げるんだ。
そう思うと胸がいっぱいになって、手を差し出してきた人の勇気に応えた。
私には伝えて拒まれると分かりきっている想いを伝える、
そんな勇気など・・・ないんだもの。
「!」
ざわめきに紛れて聞こえてきた声、それは私が会いたくて探していた人の声だった。
透明のビニール傘に抱えきれないほどの花束を抱えて、人ごみの間から私に向かってくる。
やっと目の前に来ると、少しずり落ちたメガネを花束を抱えた手の甲で器用にあげた。
「見えたで?なんや、モテモテやなぁ?告られてたやん。」
「忍足ほどじゃないでしょ?雨なのに荷物多くて大変そうね。」
彼は花束以外にも、女の子から貰ったのであろう可愛いプレゼント用の袋も手に提げていた。
「まったくや。あんな、に返したいものがあって部室に置いてあるんやけど、」
「返したいものって?あ、まさか・・・あの本?」
「そうそう、あの推理小説。」
「もう、いらないって。だいたい、あれ貸したの去年の夏だよ?
もう犯人だって分かってるし、忍足にあげるよ」
「ええって、もう持ってきてしもうたし。
お前、この雨の中・・・ハードカバー上下巻持ってきたんやで?
有難く受け取ってくれんと困る・・・というか、暴れる。」
じゃあ、捨てて。と、喉まで出かかっていた言葉は、
彼の部屋で半年を過ごした本を手にしたい・・・という欲求に負けてしまった。
渋々という表情を作った私に、彼はホッとした笑顔を浮かべて部室に向かう。
大きな彼の背中が雨に濡れているのを見ながら、私は今にも泣き出したくなるような切なさに
唇を噛んでいた。
部室の前で痛みに耐えながら、屋根から落ちてくる雨だれを見つめていた。
ついでに沢山の花束やらを置いてきた彼が、厚い本の入った袋を手に部室から出てくる。
どうやらすでに、中にはテニス部の面々が集まっているらしい。
賑やかな笑い声がドアの隙間から聞こえてきた。
「はい、これ。長い間、ありがとうな。」
「いーえ、どういたしまして。」
出来るだけ感情を込めずに、ぶっきらぼうに言ったのに。
「俺のことも・・・長い間、ありがとうな。」
とても穏やかに言われて、もう言葉が出なかった。
瞳の奥が熱く痛くなってきて、目一杯涙が零れるのを我慢する。
彼は困り顔のまま笑顔を浮かべ「元気でな?」と私の頭をぐりぐりっと乱暴に撫でた。
それは最初で最後。彼が私に触れた唯一の出来事。
私の心に残る、高校三年間最高の思い出になるのだろう。
だから私も微笑んだ。涙は零れたけれどニッコリ微笑んで、別れを告げる。
「今まで、ありがとう。忍足も・・・元気でね。」
テニス部の部室前で頬笑みあった。
それが・・・私たちの最後だった、はず。
手紙に気づいたのは、やっぱり雨の降る6月だった。
彼のもとから帰ってきた本を本棚に入れることが出来ず、
ずっと机の上に置きっぱなしにしてあった。
内容はもう頭の中にあるし、今さら読み直す気にもなれなかった。
ただ、彼のことを想う度に。そっと人差し指で本の表紙を撫でる・・・それを繰り返していた。
手紙を見つけたのは偶然。
朝、慌てて専門学校に通う準備をしていた私の肘が当たって、本が床に落ちてしまった。
ああ、っと拾い上げた本の間から・・・水色の紙が少しだけ見えた。
なんだろう?と紙を引っ張り出せば、それは一枚の便箋だった。
折ってもない・・・そのままの便箋。
薄いから違和感がなく、今の今まで本に挟んであるのに気がつかなかった。
私には覚えのない紙。彼がしおり代わりにでも使っていたのだろうか?
そんなことを思いながら裏を見て・・・驚いた。
そこには、彼の文字があったから。
へ
この手紙をが読んでるってことは、俺にとっては、思う壺・・・というか、
神様ありがとう!いうとこや。
、俺な。ずっと、お前に言いたいことがあった。
何度も言おうとして言えなかったこと、古めかしい方法やけど手紙にすることにした。
言葉はすぐに消えてしまうけど、文字やったら何度でも読み返えすことができるやろ?
それが狙い目いうか、に考えて欲しいんや・・・俺のこと。
まわりくどいことは省くな。言いたいことは、ただ一つ。
俺は、が好きや。ずっと、ずっと・・・好きやった。
東京を離れる今も・・・俺はお前が好きや。
もしも・・・もしも、お前も俺のことを好きやと思うてくれるなら、俺のもとに来て欲しい。
俺を追いかけて?捕まえて欲しいねん・・・な、。
待ってるから。
忍足侑士
正直、呆れた。
これは、なに?と、思った。
どう見てもラブレターじゃない?
そんな素振り、一度だって見せなかったのに。
ただ気軽に話せる女友達の位置に、ずっと私を置いていたのに。
好き?ずっと好きだった?なら、なんで面と向かって言ってくれなかったの?
こんな捨てるかもしれない本の間に、それも分かりにくく挟んで。
どうして、こんなにも大切な言葉を。届くかも分からない手紙にして残すの?
見知らぬ街を歩く。
ねずみ色の空からは、傘を差さなくてもいいような優しい雨が降り注ぐ。
長い距離だった。私は長い時間をかけて考え続けていた。
私に無かった勇気。
もしも、彼にも勇気がなかったら。
臆病なラブレター・・・に、私の気持ちが重なっていく。
古いマンションの階段を昇り、名前を確認してインターフォンを押そうとしたら
黒いビニールテープが張られてあった。
どうも故障中らしい。
仕方がないから、ドアをコンコンとノックした。
しん・・・とした部屋。私の鼓動の方が大きいみたいだ。
もう一度、今度は少し力を入れてドンドンと叩いてみた。
少しの間を置いてガタガタと中から騒がしい音がして、いきなりドアが中から開く。
「新聞の勧誘はお断りって、あ・・・・」
あ、の口をかたどったまま動かなかった忍足は瞬きも忘れているようだった。
何故だろう。
さっきまで息も吸いにくいほど緊張していたのに、
間抜け面の彼の顔を見たら酷く安心してしまった。
「あの、一言・・・言いたいことがあって。」
「お、おうっ。なんや?」
忍足の顔が、心なし引きつっている。
「普通・・・『捕まえて』って、女の子が言うセリフだよ?」
「あ〜、そうか、な?ちょっと、乙女すぎたか?」
「そうだよ。」
私が呆れたように言うと、忍足がドアを片手で開いたまま
自分の前髪をクシャッと掴んで笑いだした。
人を玄関に立たせたままで、彼は一人で笑い続ける。
私もどうしていいのかも分からず、玄関に立ちつくしたまま笑い続ける忍足を見つめていた。
ああ、あかん。嬉しすぎて笑いが止まらん。
そう小さく呟いて、まだしばらく笑っていが。
ふと顔をあげると唇にだけ笑顔を残し、とても真剣な瞳で私を見た。
「ええよ。今すぐ・・・俺が捕まえたるから」
言うなり腕をつかまれて引かれ、彼の胸に抱きしめられた。
引き込まれた玄関、背中でゆっくりと支えをなくしたドアが閉まっていく。
律儀にも買ってきた東京銘菓の紙袋も落ちてしまったが、彼はお構いなし。
手加減もなく力いっぱい抱きしめて・・・そして、震える声で呟いた。
「やっと、捕まえた。もう・・・離さへん。」
一枚のラブレターが、私の人生を変えたのよ。
この期に及んで恨みがましく言ってみた。
侑士はケラケラっと笑って。
俺の人生も、生涯一度のラブレターで決まったから、お互い様な。
そう言って、躊躇いもせずに書類に印鑑を押してしまう。
よっしゃ!忍足の誕生や!
子供のように喜ぶ侑士を横目に窓の外を見る。
今日の天気も雨。
ああ、そうだ。もう一度、侑士にラブレターを書いてもらおう。
頭に浮かんだアイデアに笑顔を零し、もう離れることのない彼の名前を呼んだ。
「ねぇ、侑士。もう一度、」
「Love letter」 〜Thank you for mutual link present to 空想倶楽部〜
2005.07.26
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