逆チョコ
なにやら唐突な気もするが、世間では『逆チョコ』なるものがあるらしい。
岳人と話していたら、呆れた目をした跡部に「かわいそうな奴」扱いされてしまった。
いやいや。たとえ製菓メーカーの戦略であっても逃す手はない。
貰うのを待つより、あげる。
何事も攻めの姿勢が大事やと思う。
「ということで、ハイ。俺の気持ちや」
綺麗にラッピングしたチョコレートを差し出したら、
もともと大きな彼女の瞳が輪をかけて大きくなっていた。
「なに、コレ」
相変わらずクールな。
不審物でも見るような目で差し出した包みから距離を取ろうとする。
「こらこら、逃げんなって。愛や、愛。俺の愛」
俺の言葉を聞いて、更に眉間のしわを深くしたが後ずさった。
今にも回れ右をして帰ってしまいそうな雰囲気だが、ここで逃がすはずもない。
素早く手を伸ばして彼女の手首を掴むと、必殺スマイル&腰砕け声で攻撃開始や。
「好きや。なぁ、俺の気持ちを受け取って・・て、痛っ」
ビクッと肩をすくめる仕草に気を良くして、耳元に唇を寄せたら殴られた。
おまけに「離せ、ヘンタイっ」の罵りつきや。
「ヘンタイって、恋人に言う言葉やないやろ?」
「だ、誰が恋人!?この年中発情男、女ったらし、嘘つき、詐欺師」
おいおい、それは言い過ぎや。
俺は頭痛を感じつつも手首だけは放さずに、彼女の鼻先にチョコを突きつける。
「受け取ってくれへんと、ココでアレやらコレやらしまくるで?」
「な、なにを・・・」
「そう。ここは校門の前や。ココでアピールしたら、もう害虫も寄ってこんやろなぁ」
半分は脅しで半分は本音だが、の瞳が苦渋に歪んだ。
暫しお互いが見つめ合い、諦めたような息を吐いたが俺の手からチョコの包みを奪い取る。
それは乱暴な仕草のようでいて、ふと見えた耳たぶが赤いことに気付かない俺じゃない。
「手、放して」
嫌そうに俺の手を振り払い、わざと大きな音を立てて包みをカバンに仕舞う。
俺よりも短いショートヘアに気の強そうな大きな瞳。
そんな彼女の照れる仕草が可愛らしくて堪らないのだから重症や。
言葉にしたら、きっとまた照れて怒りだすんやろうけど。
俺は満足げに微笑むと、あっさりと彼女から身を引いた。
まだ何かされんじゃないかと警戒している姿が猫のようで可愛さ爆発や。
だが、焦りは禁物。
自分で言うのもなんだが、いつもと違ってシツコクない俺に怪訝な顔をする。
「来月は三倍返しやからな。ヨロシク」
ウィンクつきで宣告すれば、シマッタと顔に書いた彼女の頬が赤く染まった。
その可愛い頭を軽く撫で、続いて襲ってきたパンチを避けて歩きだす。
もとが真面目なコや。
貰ったからには返さなくてはと考えるに違いない。
ホワイトデーまで毎日毎日、きっと俺のことばかりを考える。
ああ、楽しい。
鼻歌交じりで歩きだした俺の後頭部に、突然なにかが飛んできた。
振り返ると短いスカートを翻して走って逃げるの後姿。
見惚れるような脚線美をしっかり目に焼き付けた。
それから微妙に痛む後頭部をさすりつつ、
周囲を見渡して・・・俺は見つけた。
足元に転がるチロルチョコが一つ。
気の好さそうなホルスタインが嬉しげにハートを抱いているイラストが笑える。
笑えるけれど胸が温かくなるやろ。
手を伸ばして
素直じゃない彼女がくれたチョコを受け取る。
「三倍返し・・・何にしようかなぁ」
チョコにキスしてから胸のポケットに仕舞い、上からそっと手をあてた。
さぁ、これから来月まで、ずっと彼女のことを考えよう。
ま、今までも考えてきたけどな。
可愛い君は何を返したら喜んでくれるやろうか?
逆チョコ
2009/02/14
テニプリ短編TOPへ戻る