いただきました












これまでホワイトデーなんて面倒くさいだけの日やった。
貰うのは嬉しいもんやけど、返すのは面倒。
まぁ、男の勝手な言い分や。


跡部は毎年のようにデパートの外商を呼びつけ、配送まですべてを任せてしまう。
奴は問題外として・・・一般庶民の高校生は少ない予算の中から御返しを準備する。
少しでも安く、それでいて自分の名前を落とさん程度に見栄えのいいものを。
これがまた大変で、頭が痛い。


なんとか品物は揃えたとして、今度は一人ずつに配るんが、また一苦労や。
去年のジローはコンビニの袋満杯にアメを詰め込み、
自分にチョコをあげた覚えのあるコは勝手に取ってねと回っていた。
ジローだから許されたが、部室の前に『お返し』と段ボールを置いた宍戸はヒンシュクをかっていた。


俺はというと『ホワイトデーはサンタさん』をここ数年のスローガンにしている。
可愛い女のコたちにプレゼントを配るサンタさんや。
とっておきの笑顔と甘いセリフつきで女のコたちに幸せを配る。
慈善事業だと思えば気分も変わるというもので、俺なりに楽しんでやってきた。


が、今年は違う。
たった一人のために頭を悩ませ、悩みに悩んで・・・



「なぁ、なにがええと思う?」



前で部誌に目を通している跡部が、顔もあげずに『向こうへ行け』と手で払う仕草をする。



が笑顔で受け取るようなものが思い浮かばんで困ってるんやって」
「俺が知るかよ。ウザいから俺に話しかけるな」


「どうするかなぁ。むこうも何か用意してくれてるやろか。なぁ、跡部。どう思う?」
「うるさい!そんなに好きなら、さっさと押し倒して来いっ」



声と同時に大きな音をたてて部誌を閉じた跡部は、とんでもないことを言い捨てて荒々しく部室を出ていった。
そんな感じで誰に聞いても適切なアドバイスは貰えず、ただ日々が過ぎていく。



も考えてるかなぁ。



ついつい授業中も見つめてしまう美しい横顔。
俺の熱い視線を感じたのか、振り返ったに俺は小さく手を振ってアピールする。
すると唇の動きだけで『み・る・な』と言われてしまった。


恋人同士の秘密の会話にしては辛辣な言葉だが、それもいい。
俺は上機嫌で彼女に喜んでもらえそうな物を考えた。





そして、やってきましたホワイトデー。
今年はバレンタインもホワイトデーも土曜日。
土曜も授業のある私立で良かったと心から思う。
そうでもないと俺のお目当ての人物は、これ幸いと逃げてしまっていただろうから。


バレンタインデーほどではないが、落ち着かない学園内の雰囲気に気が逸る。
朝練が終わると速攻で教室に行き待ち構えてみたが、
は楽しそうに女友達と話していて俺のことなど見向きもしない。


放課後勝負なのかと気を取り直し、地獄のような半日の授業をこなす。
いつにも増して熱い視線を送ってみたが、今日に限っては振り向きもしない
ななめ後ろから見る限り、なにやらソレらしい包みや袋は見当たらない。



ホンマになんにもなかったら、どうしよ。



段々と不安になったきた。
俺は胸のポケットに入れた大事なものを、制服の上から撫でることで気を静めて過ごした。



とうとうきた放課後。
向こうが声をかけてこなかったら、俺から行く。
そう心に決めて、を逃さないよう急いで席を立つ。
だが彼女は立つこともせずに携帯を操作し始めた。


誰にメールしてるんやろ。
気にしながら近付いていくと後ろのポケットで俺の携帯が震え始めた。



まさかと思って確認すると、やっぱりの名前。
俺に背を向けたまま、じっと自分の椅子に座っているの後姿を見つめたままメールを開いた。



『私に期待しても無駄。それと、からかうのは止めて欲しい。』



愕然とした。
これは何やと顔をあげると、俯いている小さな背中があった。


俺を見ないのは何故。
直接言えないのは何故。


らしくない。だからこそ大事なサインに違いない。


俺は足を踏み出さずに携帯を打ち始めた。



『からかうはずがない。好きやって、何度も言うたやろ?なんで?』



手のひらに包んだ携帯が光り出すと、はゆっくりとした動きでそれを読みはじめた。
その後姿を見つめながら、彼女の言わんとしていることを全神経を使って考える。



「忍足、じゃあな」
「ん?ああ」



クラスメイト達が騒ぎながら出ていくのに俺たちは取り残されていく。
は帰り支度をした姿のまま、立ち上がる気配もない。



手の中の携帯が震えた。



『誰にでも言える好きは欲しくない』



ああ・・、と俺は口元を押さえた。



は俯き加減のまま携帯を見つめている。
俺からの返信を待つ、その気持ち。



そんなのも全部、俺のもの。



小さな悲鳴が上がった。
それはのものではなく、まだ僅かに残っているクラスメイトの声。
背中から抱きしめた彼女は身を震わせて声も出ない。
軽く腕がまわってしまう肩を抱きしめて、俺は耳元に囁いた。



「お前だけが好き。俺の好きは、お前だけの好きや」



それなら、欲しいんやろ?



消え入りそうな「馬鹿・・・」という呟きが落ちる。
俯いた頬に流れる涙も机に落ちた。


俺は背中からの髪に頬を寄せ、手にした温もりに目を閉じる。
もう、物などいらない。
この温もりこそが欲しい、一番のものやったから。





だが幸せは長く続かない。



「あの肘打ちは、あんまりやろ?」
「だって・・・人がいたし」



語尾が小さくなるの頬は染まって、あの教室でのことが余程恥ずかしかったようや。
しおらしく涙を零して俺の腕の中にいたのは、時間にして一分三十秒ほどやったか。
温もりに浸っている俺の手を振り払い、後ろに向かって繰り出された肘は俺の鳩尾を直撃した。



せっかく二人で歩いてるんやし、俺としては手ぐらい繋ぎたい。
それは既に三回ほど許可を求めたが、恥ずかしいからと拒否された。


教室で俺に抱きしめられたんやから、そりゃもう週明けには噂が広がってるに違いない。
なにを今さら・・・が正直なところやけど、そういう初々しいところも好きなんやから仕方ない。



「なぁ、ところでホワイトデーは?」
「忍足こそ」


「俺はちゃんと用意してある。ココにな」



制服の胸ポケットを叩くと、が表情を柔らかくした。
その笑顔が好きなんや。
いつもツンツンしてるのに、笑うとめちゃ可愛い。



ちょっと見惚れてたから油断した。
胸のポケットから出した小さな包みと一緒に、から貰ったチロルチョコが飛び出してしまった。
それを見とがめたは、チョコを拾うと眉を寄せる。



「食べなかったんだ」
「えっと、違うって。いや・・違わへんけど、違う」


「いいよ。私が食べるから」
「待てって」



目の前でがチョコの包みを剥ごうとするから慌てて止めた。
止めたのに、へそを曲げたは容赦なく包みを剥ぎ取り形の良い口に放り込んでしまった。



「なんちゅうことをしてくれたんや・・・
 お前に貰えたのが嬉しくて、ずっと大事にしてたのに」



の目が丸くなる。
お前が知らんだけ。お前の思う何十倍、何百倍も、俺はお前が好きやのに。


途端に目を泳がせた
その顔を見たら、抗いがたい欲求がわいてきた。



・・・返して貰うからな」



低く言うが早いか、目の前の肩を掴んで唇を寄せた。
今度は道のど真ん中。


見たい奴には、見せてやればええ。



「待っ、忍・・足」
「待ってたら溶けてしまうやろ?」



今度は殴られないよう、しっかり腕も掴んでおこうな。
はい。それでは、いただきます。





いただきました。




















いただきました 

2009/02/26

ホワイトデー




















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