同情も時がたてば立派な愛













このうえなく胡散臭い忍足だが、何故かモテる。
あの丸メガネには殆ど度がはいってないことや、ある時は流暢に標準語を喋ったりするんだから恐ろしい。
いつもヘラヘラと笑っているくせに、テニスコートに立った時の彼は別人のように研ぎ澄まされている。
あのギャップが女心をくすぐるのか・・・きっとそうに違いない。



〜」



独特なイントネーションに呼びとめられた。
その微妙に間延びした話し方が気になっているんだけど。



「なに?」



不機嫌を隠しもせず振り返ってみたが、そんなことで怯む忍足ではない。
相変わらずの笑みを浮かべ、ラケットで自分の肩を叩きながら隣に並んできた。


男テニと女テニのコートに行くには途中まで通路が一緒だ。
一本道では逃げ場もなく、左右に男女のコートが別れるまでは共に歩くしかない。



「今日は何の日やったっけ?」



唐突に忍足が訊いてきた。
なんだか意味ありげな表情だけれど気付かないフリで答える。



「倉庫の備品点検日」


「お前なぁ。違うやろ」
「第二日曜日だから、そうです。跡部に忘れないよう言っといてね」



樺地君がやるんだろうけど、念のため。
そう付け加えると、忍足はわざとらしい溜息をついて頭をかいた。



「三月十四日といえば、乙女がドキドキワクワクする日やないんか?」



私は足を止めた。
ちらりと忍足に視線を流し、呆れた様に溜息をお返ししてやる。
普段から訳もなくからんでくる忍足だから、尚更そっけなく相手をしない。



「まったくもって何もしないけど?」



力強く否定してやった。
なのに忍足はいっそう笑みを深め、私の前で長い人差し指を左右に振った。



「照れ屋さんやなぁ。絶対に待ってませんのフリか?」
「はい?」



意味が分からない。
首をかしげる私の頭を子どもみたいに撫でてこようとするから避けた。
なんだ、この男。どこかで頭でも打ったのだろうか。



「そういう態度がツンデレか。結構、萌えるもんやなぁ」



ひいた。
前々から変な男だと思っていたが、本当に変人だったらしい。



「今日は部活を休んで病院に行った方が良くない?」
「この病だけはどんな名医も治せへんってな」



益々意味が分からず困惑する私に、忍足がウィンクをして見せた。


きもい。
もう置いて行こうと決心し、お先にと足を踏み出した私の肩が掴まれた。
まだ何か言い足りないことがあったのかと嫌々振り返れば、鼻先に突きつけられたピンクの包み。
何所に隠し持っていたのか、小さな包みには銀色のリボンが揺れている。



「なに、これ」
「見ての通り。バレンタインデーのお返しや」


「わたし・・忍足にあげたっけ?」
「貰うたよ、ほら」



思い出すように語り始めたのは、遡ること一か月前の話。



『忍足。ハイ、チョコ。確かに渡したからね』
『え?ホンマに?あ〜、ありがとう』



それは部室の前で確かにあった出来事だった。
あの時の忍足は酷く驚いた顔をして私の差し出したチョコを受け取った。
そんな彼の腕には色とりどりの紙袋が既にぶら下がっていて、まぁ随分とモテるんだねと感心したことだ。



が、何かが行き違っている。



は俺のコト苦手やと思うてたから、驚いたけど嬉しかった
 前々からのことは気になってたし」


「ちょっと、待って」



うん?と照れたように小首をかしげる忍足は可愛らしく見えないこともない。
しかしそれは乙女の仕草ではないだろうか?いやいや、そんなことより重要なことは。



「渡したチョコ、あれは私からじゃないよ?手紙が入ってなかった?」


「へ?」
「うちの妹が忍足にって。ファンなんだって。高等部には行けないからって頼まれて」


「苗字しか書いてへんかった」



うわっ、それじゃあ誤解されても仕方ない。



「あ〜、ゴメンね?」



お愛想笑いで謝ってみたが、忍足は深刻な顔をして何事か考えている。
だが急に顔を上げると強引に私の手を掴み、掌にピンクの包みを握らせた。
更に包みを握らせた手をそのまま掴み直すと、私を引っ張って通路を戻り始める。



「お、忍足!?」



部室から歩いてきた後輩が私たちを見て目を丸くしている。
そりゃ忍足に手を引かれて焦る私を見たら驚くだろうし、後で何と噂されるか考えただけでも恐ろしい。



「ちょっと皆が見てるし」
「そのお返しは妹さんにやってくれ」


「そ、それはいいけど、手を離してよ」
「お前には俺を死にそうなほど恥ずかしい目にあわせた責任を取ってもらう」


「ええっ」



黒々とした長めの髪に文句を言ったが完全無視。
力で敵うはずもなく、騒げば騒ぐほど人目を集めて逆効果だ。



「忍足!!離してってば」


「こりゃ何の騒ぎだ?」
「跡部、いいところに」



部室が見えてきたところで、天の助けか跡部に鉢合わせした。
男子部最高権力者の登場に安堵したのも束の間。



「俺ら、付き合うことになったから。跡部は手ぇ出さんといてな」
「は?人の女に手なんか出すか。喧嘩なら他所でやれ。部活には遅れんなよ」



ひらひらと手を振って、跡部はコートに向かっていく。



「なんで、あんな嘘!付き合うなんて言ってないし」
「今、言うたやろ」


「忍足っ」


「好きなんや」



さすがに怒った私が声を荒げると、それ以上に大きな声がかぶさってきた。
掴まれていた手に忍足の力が強く加わる。



「俺が好きなんやから、お前も諦めて好きになってくれ」



諦めてって・・・・
あ然とする私の前には縋らんばかりの目をした忍足が立っていた。





人はソレを同情と呼ぶのだろうか。





毎年、この時期になると思い出にふけってしまう。
今も目の前には長めの黒髪に丸メガネをした男が立っている。



「どうや?サイズは合うてるか?」



自分の薬指にぴったりと納まったリングに溜息が出た。



「お客様、どういたしましょう?お包みしますか」
「ええかな。どうせ、しとくやろ?」



穏やかな目で訊いてくる男に渋々と頷けば、店員さんが微笑ましそうに頭を下げた。



同情も時がたてば立派な愛になるものね。



愛の誓いが刻み込まれたホワイトデーの贈り物を撫でながら、
ふとそんなことを考えたのは内緒だ。




















同情も時がたてば立派な愛  

2010/03/09

愛ある策士の忍足。あの手、この手で彼女を手に入れるの巻。




















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