Love letter 〜忍足サイド〜










物音ひとつしない静かな部屋で、
俺はペンを片手に頬杖をついてカーテンの隙間から覗く窓を見ている。
机の上には水色の便箋。
まだ、あの時の便箋が残っていたのが笑える。


まぁ、手紙なんて書く人間やないし。高校卒業前に書いた、一度だけの手紙。
ほろ苦い思い出に、今でも胸が甘く痛む。


一度、目を閉じて。そっと、後ろを振り返る。
は俺のスペースを空けて、ベッドの端っこで穏やかな寝息をたてていた。





  ねぇ、侑士。もう一度、ラブレターが欲しいわ。





可愛い・・・それでいて難題のお願いに言葉をなくした俺。
『お願い』と柔らかく微笑まれてしまうと、もう頷かないわけにはいかなかった。



あーあ、明日は届けを役所に持っていかならんのに。とか、言いたいこともあるが。
愛する人が望むなら・・・書かないわけにもいかないと机に向かって30分。
さて、何から書けばいいんやろ。










俺とは中学、高校の同級生。
クラスは中学で2.3年。高校でも1年は同じクラスやった。


は、明るくて可愛い子やったな。
目立つテニス部におったせいか、変にモテてた俺の周囲には女の子が集まってきたけど、
はいつもニコニコして、媚びたり、纏わりついたり、そんな感じは全く無かった。


は普通に俺を友達として見てるんやな、と。
恋愛感情抜きで話せる少ない女の子として気にいっていた。


はじめは、それがよかったんや。
なのにいつ頃からか、それが物足りない・・・と思うようになっていた。


決定的だったのは、同じクラスの奴が彼女に告った、という話を聞いた時。
思わず振り向いた俺の目に映ったのはクラスメイトと楽しそうに笑っている、


その笑顔を見て『あんな奴に渡してたまるか!』と思った。
あれ?待てよ。渡したくないって・・・俺は?


どぼ〜ん、と。恋の沼に落っこちた瞬間やったなぁ。結構、衝撃やった。





恋に落ちたはいいけれど自分から女の子を好きになったのは初めてで、
どうやって相手の気持を確かめたらいいのか、
どう想いを伝えればいいのかが分からなくて困った。


俺に次々と告って来る女の子たちが尊敬に値する・・・と本気で思った。



が好き。
友達じゃ、嫌。俺のこと、好きになって欲しい。
付き合いたい。俺だけのものにしたい。俺だけの・・・に。



日に日に募る想いとは裏腹に、ちっとも友達から進展しない関係。
というか、振られるのが怖くて友達のラインを超えられなかったのが正直な話。



三年の秋。
何かのついでみたいに『忍足は、地元に戻るって本当?』と聞かれたのには落ち込んだ。
本当は地元に戻ることを言いたくて、チャンスを窺っているうちに秋になってしまったんや。
ずっとずっと言いたくて。言って何の反応もなかったら望みはないと怖くて告げられなかった。
それをの方から聞かれて、
俺は心臓をバクバクさせながら
『ああ、には言うてへんかった?俺、あっちの大学受けるんよ。
 どや?寂しくなるやろ?』と、おどけてみせた。



あの時な、一瞬やったけど・・・は泣きそうな顔をした。
でも、それは本当に一瞬。
真実か、ただの希望が見せた幻か分からなくなるほどの変化だった。
せやから臆病な俺は真実を突き止めることが出来ずに、ずるずると卒業を迎えてしまった。





そう。あのラブレターを書いた卒業式の前夜も、
こうやって水色の便箋の前で何十分も考え込んでいた。


何を書こうか。何から書こうか。
何度も何度も、書いては捨て、書いては捨て。


大好きな、のことを想いながら書いていく文字。


に半年も借りっぱなしになっていた推理小説は、返すのを忘れていたわけじゃない。
大切で、愛しくて・・・返せなかっただけ。
の触れたものは、それがゴミみたいなメモ用紙一枚でも愛しくて大切だった。


本を返すときには想いを告げたい。
そう思っているうちに卒業式になってしまったのだから、自分の行動力のなさには笑ってしまう。
でも、あの頃はホンキで怖かった。に嫌われてしまうのが、何より怖かった。



そして、俺は卒業式当日の深夜、やっと最初で最後のラブレターを書き上げた。









この手紙をが読んでるってことは、俺にとっては、思う壺・・・というか、
神様ありがとう!いうとこや。
、俺な。ずっと、お前に言いたいことがあった。
何度も言おうとして言えなかったこと、古めかしい方法やけど手紙にすることにした。
言葉はすぐに消えてしまうけど、文字やったら何度でも読み返えすことができるやろ?
それが狙い目いうか、に考えて欲しいんや・・・俺のこと。
まわりくどいことは省くな。言いたいことは、ただ一つ。


俺は、が好きや。ずっと、ずっと・・・好きやった。
東京を離れる今も・・・俺はお前が好きや。


もしも・・・もしも、お前も俺のことを好きやと思うてくれるなら、
俺のもとに来て欲しい。
俺を追いかけて?捕まえて欲しいねん・・・な、
待ってるから。



忍足侑士










このラブレター。
が、いまだにオルゴールつきの宝石箱に保管しているのを知っている。
この前、俺が贈った婚約指輪を大事そうに仕舞っている彼女の背中越し、
あの水色の便箋が目に入ったから確かだ。


俺の視線に気づいて『私の宝物よ』と笑った、
とてもとても愛しくて、抱きしめずにはいられなかった。


こんな情けないラブレターが宝物って?
自分からは動かずに、に委ねて待つしか出来なかった俺。
俺は、地元に戻ると告げた時、が一瞬見せた表情に賭けたんや。


あとは他力本願、運にも賭けて。
借りた推理小説に分かりにくく手紙を挟んで、が探し出せるかに一つ。
読んだ後、俺の想いに応えてくれるかに、一つ。


偶然と必然。両方に想いを賭けて、卒業式にラブレターを隠した本を返した。





なぁ、分かるか?
に会えなくなって・・・本を返してから後の数ヶ月。
俺がどんな気持で、お前を待っていたか。


会いたくて、会いたくて。
卒業式の日、目一杯の勇気で触れた、の髪。
くしゃっと撫でただけの髪なのに、その感触が忘れられずに苦しんだ。


何故、目の前で『好きだ』と告げられなかったのかと後悔して、
何度も東京に向かう新幹線の時刻を調べた。
印刷された卒業アルバムのを眺めては溜息をつく毎日。


ええ加減、これじゃアカン!と決心して。
夏休みには、なにがあろうと上京して・・・と
萎えそうになる気持を奮い立たせていた矢先やった。



ああ、そうや。あの日も・・・卒業式みたいに雨がシトシト降ってた。
が俺を捕まえに来てくれた日。



ノックにドアを開いた俺の目に、お前の姿が映った時。
俺、マジ泣きそうやった。
不思議と、が断わりに来たとは思わずに、
ああ、捕まえにきてくれたんや!と喜んだ俺はオメデタイ奴やと思う。



嬉しかった。
お前が俺のプロポーズに頷いた時も嬉しかったけど・・・
でも、やっぱり一番うれしかったのは、あの日や。
をこの手に抱きしめた日。





『普通・・・捕まえてって、女の子が言うセリフだよ?』





玄関に立ち開口一番、呆れたような口調で、でも瞳に涙の膜を張りながら言うたよな。
だから俺もふざけて返したんや。
けどな、胸に満ちていく想いで・・・いっぱいいっぱいやったんやで?



『あ〜、そうか、な?ちょっと、乙女すぎたか?』   好きや、


『そうだよ。』   その声も、姿も。その・・・涙も、すべて。


 好きや。全部、全部、俺のもの。


 ああ、あかん。嬉しすぎて笑いが止まらん。
 胸がいっぱいで震える手。


 俺の賭け。最後は、俺の手で結果を抱きしめよう。


 そして、抱きしめたなら





     やっと、捕まえた。もう・・・離さへん










「ん・・・侑士?まだ・・・寝ないの?」



ゴソゴソと寝返りをうつ音がして、眠たそうな恋人の声がする。
思い出にトリップしていた自分を引き戻し、俺は後ろを振り向いた。


明日には妻になる恋人。
俺は、やっぱり嬉しくて笑いが止められない。



「なんや、眩しいか?」
「ううん、大丈夫。まだ・・・寝ないの?」



目を擦りながら、目覚まし時計を手にして顔を近づけているのが可愛らしい。
あれから何年たったと思う?こんなにも長い間、惚れてる俺。凄いと思わんか?


は笑うやろ?お互いさまって、言うやろうな。
それが、また嬉しいし幸せやねん。


俺もお前も・・・お互いをずっと想ってきたんやから。
それが・・・嬉しくて幸せやねん。



「もうすぐ、寝るから。もちょっと、待ってて?」
「早く・・・寝てね。寂しいから、」


「・・・速攻で寝る。」



参った。早く、の隣に滑り込まないと。



でもな、ラブレターに書く事は・・・昔を思い出してるうちに浮かんだで。
俺の素直な気持ち、書こうな。
やって、もう・・・失う怖さはないから。









 俺の


 
 好きや。

 あの頃から、いや、あの頃より、ずっとずっと、もっともっと・・・好きや。

 きっと、これから後も、まだまだ好きになるから。

 一生、お付き合いしてな。よろしく。


               
                   侑士










ささっと文字にすると、明日・・・いや、もう今日や、
今日、提出する婚姻届の間に便箋を挟んで机の上に置いた。


カーテンをしっかり閉めようとして窓を見ると、ポツポツと雨だれがついている。
やんでいたはずの雨は、深夜を過ぎて再び降り始めたらしい。


また・・・雨か、と口元を緩ませて、の待つベッドに潜り込んだ。
そっと額に口づけて髪を撫でたら、がボンヤリと目を開ける。



「侑士・・・も・・・寝る?」
「ん。寝るから、安心し。」


「うん・・・おやすみ」
「おやすみ、



そう告げたら、は安心したように微笑んで俺の胸に擦り寄って寝てしまった。



恥ずかしいラブレターやけど。
それでも、は微笑むだろう。
きっと、はにかんで。高校生の頃と同じ笑顔を見せるだろう。



腕の中で眠る、俺の幸せ。



忘れそうになる、あの頃のトキメキを。切なさを。想いを通じ合わせた喜びを。
こうも思い出させてくれるなら・・・・たまには便箋に向かうのもいいだろう。





な、



きっと、お前も思い出してくれるやろ?



そしたらな、今度。



俺にもラブレターをちょうだい。





同じ苗字になったなら、そうおねだりしてみよう。





















Love letter〜忍足サイド〜」  

2005.08.04




















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