窓越しの・・・・・









私の教室は北校舎の1階。窓からは中庭とオブジェが見える。
去年は南校舎の3階だったからテニスコートを遠くからでも見学することが出来た。
今は、それも叶わない。


文化祭の実行委員なんて、雑用が多い、責任は重い・・・でろくなことがない。
溜息をつきながら、ひとりの教室で資料をめくっていた。


コンコンコン。
窓ガラスを叩く音がして顔を上げれば・・・私の溜息を増やしている張本人が笑っていた。
氷帝テニス部のレギュラージャージを着た彼。
部活途中に様子を見に来た、というところだろう。


多分、私は不機嫌極まりない顔をしていたと思う。
それを隠すこともせず窓を開けた。



「なんの用?」
「あらら。怒ってんの?可愛い顔に眉間の皺は似合わへんよ?」


「誰がこんな顔をさせてるの?」
「えーっと、やっぱり・・・俺?」



迷わず頷いてやった。
忍足侑士。彼も我がクラスの文化祭実行委員だ。
各クラス男女1名ずついるのだから、当然わたしと彼はペアで仕事をしなくてはならない。



なのに。



『悪いっ、もうすぐ大事な試合があってな。どうしても練習を抜けられん。』
『ごめんっ。我儘な俺様跡部がな他校に行くからいうて・・・今日は俺が部長代理やねん。』
『いやっ。今日はな、岳人が新しい技を見せたい言うからなぁ。やっぱり、ペアやろ?』



毎日毎日、理由をつけてはテニスコートに向かう彼。
だから放課後の仕事は、すべて私にかかってくる。
テニスのペアも大事だろうけど・・・私だってペアなんだよ?


心の中で罵りつつ彼を見下ろした。
教室の中に立つ私と窓の外に立つ彼。
いつもは見上げている彼を僅かに見下ろしている。不思議な感じだ。



「やっぱり、大変か?」
「今は・・・まだいいけど。もっと文化祭に近くなったら一人でやれるか不安だよ。
 忍足君さ、忙しくて出来ないんだったら・・・誰かに代わってもらう?」



せっかく一緒になって嬉しかったけど。でも、忍足君の負担になっては。



「いやや。」



間髪いれずに返ってきた答えに驚いた。
さっきまで笑っていたのに真面目な瞳を見せるから、また驚く。


眼鏡を長い指で軽くあげると、ふっと表情を緩めた。



「せやって、俺。立候補したのに。今さら、忙しゅて出来ません・・・なんて格好悪いし。」
「格好がいいとか悪いとかの問題じゃないでしょ?」


「それに、が他の男と組むんは気にくわんしなぁ。」
「はぁ?なに、それ。」



何を言い出したんだ?このお調子者は。
期待させるようなことを軽々しく言わないで欲しい。



「いや。本気やで?お前が先に決まってたから。俺、立候補したんやもん。」
「冗談も休み休みにしてよ。もう、窓・・閉めるわよ。」



聞いていられなくてサッシに手をかけた。
その手に、自分のものとは違う手が重ねられた。


ハッとして視線を向ければ、笑顔の消えた忍足君が私を見上げている。



「ちょっと・・・冗談は」やめて。と続くはずだった言葉。


右手は彼の左手に重ねられたまま。
窓の向こうから伸びてきた彼の右手が私の後頭部を抑えたのは一瞬だった。


ぐっと力任せに頭を引き寄せられて。
目の前には忍足君の眼鏡がアップで迫っていて、思わず目を閉じた。


次に感じたのは、柔らかな感触。
唇に触れるだけで離れていったのは・・・なに?


頭を抑えていた手が離れていく。
なにが何やら分からないまま目を開けると、優しく微笑んでいる彼がいた。



「忍足君?」 



声が震えてるの・・・自分で分かった。



窓を閉めようとサッシを握ったままの手は、いまだ忍足君の左手に包まれていて。
動くことも出来ずに彼を見つめた。



「そ・・・そういうことやから。あー、ええっと。つ・・・続きは部活終了後いうことで。ここで待ってて?」
「続き?」


「あっ、へ?いや・・・もう分かったやろ?俺の気持ち。とにかく、そういうことやからっ。待っててなっ。じゃっ」



まわらない頭で突っ立っている私の右手を離すと、敬礼みたいな仕草を見せて背中を向ける。
そして、まるで逃げてくみたいに走り去っていった。


背を向けたときの彼。頬が赤かった。
あの忍足君が・・・赤面?信じられない。
でも、もっと信じられないのは。


そのままヘナヘナと座り込んでしまった。
そっと、自分の唇に触れる。



キスだった・・・よね?



窓越しに。私たちはキスしたんだよね?



そのまま床に座り込んで、文化祭の準備どころではなくなってしまった私。



しばらくして。
テニス部のレギュラージャージからブレザーに着替えた彼が息を切らせてやってきた。





いやいや。お待たせ。あれ?どうした?んなとこに座り込んで?


あ・・・ちょっと。そんな可愛い顔で赤くなられると・・・こっちまで照れてしまうんやけど。


ああ、可愛いなぁ。って・・・呼ぶな?は、めちゃ可愛い。


俺な。ずーっと、が気になってて。


あとな、窓越しのキス・・・ってロマンチックやろ?


映画で見てから、どうしてもやってみたかったんやけど。


今日の状況がドンピシャやったから。つい、キスしてしもうた。


あ?怒ってる?睨まれても可愛いだけやけど・・・まっええか。


あー順番ねぇ。は結構段取り踏むタイプか?


あははは。ごめん。ごめん。はいはい、すみません。先に手を出してしまいました。反省してます。


手が早い?失礼なっ。それは誤解。まぁ、ええわ。これからじっくり証明するから。





「とにかく。大事なことを言うとくな。」





へらへらと笑いながら説明していた彼が真顔になった。
私は息を詰めて。その大事な言葉を待つ。



、好きや。」





彼の憧れ・・・とかいう、窓越しのキスから始まった私たち。



今でも。


部活の途中に抜けてきては、彼を待つ私の唇を窓越しに盗んでいく。


それはそれは、嬉しそうに。





















「窓越しの・・・」  

2005.01.13




















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