くすぐったい
侑士は、長めの髪がお気に入り。
「やって・・・少々寝癖ついててもな、なんとなく格好つくし。
マメに切らんでもええから散髪代の節約にもなる。
それに、なんといっても俺に似合うとるやろ?な、。」
「単なる、ものぐさ?」
ぐっと、言葉につまる侑士を残して先に店を出る。
待ってぇな、と追いかけてくるのが情けない。
でも、侑士の長い髪。実は、私も結構気にいってる。
つまらないDVDに目元を拭っている侑士。
何がそんなに胸を打つのか?さっぱり分からない。
一昔前のメロドラマみたいな作りに辟易している私。
暇だから、侑士の髪で遊ぶ。
手ぐしで梳いて、ポニーテールにしてみたり。時には、三つ編みにしてみたり。
真っ黒いのに柔らかな髪。
もともと色素の薄い私の髪と比べると、つやつやの黒髪は羨ましい。
たいしてお手入れもしていないのに枝毛一つないのが憎らしくて。
つい、キュッと髪を引っ張ったら、さすがに怒った。
「痛っ。こら、痛いやろ?ちゃんと、映画を見てるか?」
「つまんない」
「つまらんやと?この、人でなしっ!こんな感動的な映画・・・涙が枯れるかと思うてるのにっ」
「涙なんか出ないし。っていうか、侑士・・・三つ編み似合うね。」
「コラッ、くすぐったいと思うてたら、んな悪戯しやがって。ちょっ、お仕置きやっ」
「やっ、帰るっ」
ソファから一瞬は立ち上がったけれど、タックル状態で抱きついてきた侑士に押し倒された。
「映画、終わってないよ」
「それより、の相手をせなあかんやろ?」
「いや、遠慮せず。映画見て。」
「いやいや、お前こそ。遠慮せんで、ええよ?」
「いやいやいや、遠慮する。」
「いやいやいやいや、気にせずに。」
嬉しそうな侑士が三つ編みをほどいて片手でメガネを外す。
どうも本気で泣いていたらしい。黒くて長い睫毛が濡れて束になっていた。
「睫毛長いね、腹立つ。」
「は、いっつも腹立ってるなぁ。体に悪いで?」
クスクス笑いの侑士が近づいてきた。
そのまま落とされるキスを受け止める。
映画はつけっ放し。
感動的とか言いながら、クライマックスを見ないでいいってことは・・・やっぱりツマラナイ映画なんでしょ?
ああ、くすぐったい。
侑士の髪がキスするたびに頬に首筋に触れてきて、くすぐったいの。
「ね、くすぐったいんだけど」 苦情を言ったら。
侑士はニッコリ微笑んで返してきた。
「な、やっぱり長めの髪って、ええやろ?」 と。
今度は、私が言葉につまってしまった。
期末試験中。
約束していた図書室に行ったら、人目につかない一番奥のテーブルで侑士が寝ていた。
試験期間中でも、こっそりテニスの練習をしていること知ってる。
『天才』と呼ばれている侑士だけど、ちゃんと努力をしている。
それを人の前で見せないだけ。
へらへらしてて頼りない侑士だけど、そんなところはチョットだけ『凄いな』って思ってる。
「侑士、」
「ねぇ、侑士」
少しだけ、肩をゆすってみたけれど爆睡中。
昨夜は遅くまで勉強していたのだろうか?
だから早く電話を切って!というのに、
「寂しい」だの「切ない」だの言い続け、挙句の果てに「好きって言うて」ときたから電源をオフにしてやった。
電話を切ったのが日付が変わる前だった。
メガネをしたまま、上手に顔をずらして眠っている侑士。
相変わらず黒くて長い睫毛が綺麗。
通った鼻筋に、厚くもなく薄くもない形のいい唇。
その唇が、どんなに柔らかいか知っている。
急に、キスしたくなった。
キョロキョロと周囲を確認する。誰もいない。
窓の外にも・・・人影ナシ。
侑士は静かな寝息をたてて睡眠中。
ほんの・・・少しだけ。
私は肩以上に伸びた髪を耳にかけてから、そっと侑士に唇を寄せた。
メガネに触れないよう、起こさないよう慎重に。
息を止めて、本当にちょっと・・・触れるだけのキスをひとつ。
離れてから、ホッと安堵の息をつく。
侑士を起こさずキスできて満足だ。
だが。
くくくく・・・・侑士の肩が震え始める。
隠そうとしても隠せない、口元の笑い。
シマッタ!と思っても、後の祭り。
「ぷっ、ああ・・・もうアカン。我慢できひんかった。」
「かっ、帰るっ」
「ちょっちょっちょっ、待ちっ」
素早く腕を掴まれた。
駄目だ、慣れない乙女な事をしてしまったから顔に熱が集まってくる。
「うわぁ、・・・可愛い!」
「うるさいっ、離してっ」
「なんでぇ。キスしてくれた仲やんか?」
「知らないっ、夢でも見たんじゃない?」
「いやいや、夢じゃないで?やって、くすぐったかったもん。」
「くすぐったい?」
思わず侑士の顔を見つめれば、ヘナヘナのだらけきった顔で答えた。
「の髪がホッペに触れて、くすぐったかった。なんや、めちゃドキドキしてしもうたぁ」
語尾を延ばすな。嬉しそうに両手でホッペを押さえるな。
それは、男子高生のする仕草じゃないっ!
「髪・・・切ってくる。」
「うわぁっ、あかんって!っ、」
侑士の手を振り払って歩き出す私の背中を、また慌てて追いかけてくる侑士。
追いついてきたと思ったら、後ろから抱きついてきて犬のように頬擦りを始める。
「や、やめてっ、て。ここ、学校だよっ」
「ええやん、頬擦りぐらい。さっき、その学校でキスしてくれたんは、誰?」
「私じゃない。幽霊だ、きっと。」
「いやいや、それはない。の唇は、ちゃんと覚えてる。」
あまりに恥ずかしい男、反論するのも恥ずかしくなってきた。
「、可愛い!」
擦り寄ってくる侑士の髪が、くすぐったい。
「もうっ、侑士!くすぐったい!」
「の髪も、くすぐったい!いやぁ、ラブラブやんなぁ」
ああっ、もうっ
へばりつく侑士を引きずるようにして帰る放課後。
それでも、侑士の髪は長いまま。
私の髪も、長いまま。
そして、今日も。
「侑士!くすぐったいから、離れてって!」
「、くすぐったい。ああ、幸せやなぁ。」
そうやって、一日が過ぎていく。
「くすぐったい 」
2005.09.29
かや、ストレスがたまっているのか?砂吐きしてくださいましたか?
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