嘘つき
「それで?」
「うわっ、怒ってるやろ?怖いから、なっ。俺は、君の笑顔を愛してる♪ってな?」
「あのねぇ・・・どうも愛されてる気がしないんだけど?」
「気のせいや!」
やけにキッパリと侑士が答えた。
気のせいねぇ?
自分でも片眉が上がっているのが分かる。
きっと見るからに納得していない顔をしてると思う。
侑士は冷や汗をダラダラ・・・みたいな感じでお愛想笑いをしている。
先週も『悪い!急なミーティングで・・・』
先々週も『ごめんなっ!岳人の新技を見てやらんと』
その前の週は『すまん!跡部の強制練習に付き合わされて』
次から次へと繰り出される言い訳。
はあ、と溜息が出た。
ここで私が拗ねたって。いや、大泣きしたって。
侑士はテニスを優先させるだろう。
結果が同じならば、わざわざ嫌われるようなことをすることもない。
どんなに大事にされてなくても・・・私から別れることなんてできないんだから。
「はいはい、分かりました。映画は誰か別の人と行きます。」
「あっ、待て!まさか、男とは行かんよな?」
「さぁ?予定の空いてる人によりますけどねぇ」
「ちゃん、男はアカンよ?映画館は暗くて危険がいっぱいやからなっ!」
・・・馬鹿じゃないの?
私が誰と何をしようと言うほど気にしてないでしょうに。
ありもしない独占欲があるような嘘をつく。
そんなあなたが大嫌いで・・・大好きなの。
彼女と呼ばれるには、あまりにも脆いつながり。
私は暇ができた時ようのキープなのかとまで思い始めている。
それは本気で恋をする私には認めたくない現実だから。
少しでも目をそらしたくて、私はいつも侑士の言う通りにしてしまうの。
「はいはい。狼さんとは行きません。
ほら、早く部活に行って。今日も遅いんでしょ?先に帰ってるから。」
「ああ、よかった。は可愛い羊やから気が気じゃない。
帰りも送ってやれんでゴメンな?」
「平気。じゃあね、」
ちっとも平気じゃないけれど、笑顔を作って席を立った。
あーあ。映画の前売り券・・・無駄になっちゃった。
服に合わせて買ったサンダル、いらなかったなぁ。
今年中にサンダルを履くチャンスってあるのかなぁ。
わたし・・・
いったい、あとどれくらい侑士の彼女でいられるのかなぁ。
目の奥が熱い。駄目、こんな所じゃ泣けない。
泣いてしまったら、きっと私は切り捨てられちゃう。
侑士に涙を見られないよう。
俯き加減で口元には笑みを浮かべたまま「部活、頑張ってね」と明るい声を出して背を向けた。
「!待てっ!」
こんな時に呼ばないでよ!
「なに?」
「こっち向いて?言い忘れたことがあるから。」
「ゴメン、急いでるの。下で友達が待ってるから。」
「・・・。こっち、向け。」
向けない。もう、涙が零れそうなの。
映画の券も、サンダルだって、とっても楽しみにしていた気持ちだって、全部無駄になってもいい。
侑士を失うよりはマシなの。
だから、お願い。
気づかないで。
「侑士〜!遅いぞっ、跡部にどやされるッ!」
目の前で教室のドアが開くのと同時に、
勢い良く入ってきた岳人クンが視界に飛び込んできてバッチリ私と目が合った。
「おっ、なんで泣いてんの?ケンカか?とうとう、侑士が泣かしたか。」
「っ!」
私は走り出していた。
本当は友達なんて待ってない。
侑士の部活が終わるのを待ってでも・・・一緒に帰りたかった。
いつ『待ってて?』と言ってくれるんだろうと期待して。
階段を駆け下りて、靴箱から靴を出そうとした手を後ろから掴まれた。
「こらっ、逃げるなって。!」
「なっ、何でもないっ」
「何でもなくないっ!こっち、向いてっ」
「ヤダっ!」
片手をつかまれたまま私は下を向いて、侑士から逃れようともがく。
そんな私の足元にポツポツと雫が落ちてセメントの色が変わっていた。
「っ!映画な、今週は駄目になったけど。来週は行けるからっ」
「もっ、いいって」
「夏の大きな大会が終わったら、もうちょっと時間とれるしっ、!聞けって!」
「いいのっ、テニスしてっ!侑士が一番したいことをすればいいのっ。」
「っ、もうっ。ちょっと乱暴にする、ゴメ・・」
「痛っ、やっ」
強く腕と肩をつかまれて痛みに顔をしかめた瞬間、ぐっと抱きしめられた。
「ゴメンな、ちょっと痛いやろうれど勘弁してな。今から言うて聞かすから。」
「聞かさなくていい。部活に遅刻する」
「ええよ。フェンスの周り10周なんか軽いもんや。それより、に泣かれる方が堪えるもん。」
「・・・嘘。」
「ほら、やっぱり俺を信じてない。
ええか?俺はお前が好き。テニスも好きやけど、お前が好き。
ついつい今はテニスを優先させてて・・・ホンマ悪いと思うてる。
いつか愛想つかされるんやないかとドキドキや。
それでも、好きやから・・・掴んだ手は離す気ない。」
嘘つき。そんな甘い言葉で、また私を騙すの?
「嘘やないで?な、俺の言葉を聞いて?信じて?
頭から嘘やと思われてたら・・・もう俺どうしょうもない。
あと少しやから。今しかテニスはできんから・・・な?
は、今だけじゃない。ずっと先があるから・・・寂しいやろうけど、もう少し我慢してて?」
優しく髪を撫でられて、耳元で言い聞かされる。
『嘘』かもしれない。
そう思うのに、騙されてもいい・・・と思ってしまう自分がいる。
きゅっと侑士のシャツを掴んだ。
「嘘つき」
「嘘やないって。嘘ついてたらハリセンボン飲むから。」
「よけいに嘘っぽい」
「ヒドッ!ええよ、信じられへんなら、それでもいい。
その度に抱きしめて、言い聞かそうな?何度でも・・・好きやって。」
そう言って、ひどく優しい仕草で髪をすいてキスを落とす。
ああ、何度でも。
疑う私を抱いて・・・そしてキスして?
そうすれば、きっと信じられるから。
「嘘つき」
2005.07.17
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