傍にいても、いいですか?










・・さんだ」



真田君が少し言葉に詰まりながら私を紹介してくれた。
それは立海の体育祭の日。


数日前に突然誘われたの。
『今週末の体育祭に来てみないか?実は・・・テニス部の連中が、お前を紹介しろと煩くてな。』と。


すごくビックリした。戸惑ったし、不安も感じた。
でも、やっぱり・・・嬉しかった。



「こんにちは。同じテニス部の幸村です。」
「俺、丸井ブンタ!こっちが、ジャッカル!こう見えて、日本語しゃべるから!」
「はじめまして、柳生です。」
「仁王じゃ、」
「柳だ。」



大きな人ばかり。
この人たちが全国区と呼ばれるテニス部のレギュラー陣。
私はドキドキしながら、一人一人に頭を下げた。



「へぇ、かわいいね。真田も、やる時はやるんだ。見直したよ。」



とても綺麗な顔をした幸村君が真田君の肘をつついて笑う。
真田君は咳払いをして「いらんことを言うな」と、よそを向く。
私も頬が熱くなるのを感じて俯いたら、途端に「カワイイ〜」と冷やかされて益々小さくなってしまった。



「コラッ、からかうな。が困っているだろう。」


って、まだ名前でも呼んじゃせんがか?初々しいのぅ。」
「仁王クン。誰もが自分と一緒だと思ってはいけませんよ。」



仁王君が「まいった、」と肩をすくめ、皆が笑う。
それに私も少し笑って、明るく温かいメンバーに緊張がほぐれた。


ほんの僅かな時間話しただけでも、真田君が身を置くテニス部の雰囲気がよく分かった。
見た目は個性的なメンバーだけど、それぞれが仲間を大切にしているんだろう。
真田君に『カノジョ』が出来たと聞いて、すぐに会いたいと言えるぐらいの仲のよさなんだもの。



「真田は無愛想で、ぶっきら棒で、堅くて。
 そりゃ付き合うのは苦労するだろうけど、本当はイイ奴だから、捨てないでやってくれ。」


「幸村。それでは、けなしているのか褒めているのか分からんだろう?
 さん、弦一郎は真面目で真っ直ぐな男だ。心配はいらない。」


「柳こそ、何の心配がいらないのか分からないじゃないか。」


「何もかもだ、」



幸村君と柳君が言い合っているのを溜息をつきつつ見ている真田君。
楽しそうなリラックスした表情は初めて見るもので、彼の友達に対する思いが伝わってきた。



「もういいだろう?俺たちは行くぞ。」
「またね、さん。今度、試合も見に来てやって?真田が張り切るだろうから!」
「幸村。もう、いいから・・・」



シッシッと幸村君に手を振ると、私の背に軽く手を添えて真田君が歩き出す。
私はもう一度、皆に頭を下げると真田君についていった。



「いい人ばかりね。」
「そうか?」



苦々しい顔をして真田君は私の隣に並ぶ。
いつもと違う体操服姿の彼が、人を掻き分け進む。
その姿は颯爽としていて、ついつい横を見上げずにはいられない。
擦れ違う生徒達も一様に真田君に視線を止める。そして、隣を歩く私にも。
数人の女の子たちが私たちを見て何事が囁きあっているのに気づいた。



あ、そうか。真田君は有名人だった。
途端に居心地が悪くなって顔が上げられなくなってしまった。


体育祭だから、他校の生徒達だって来ている。
私みたいに私服の女の子たちも沢山きてはいるけど、真田君と並んで歩いている私は目立つだろう。
どうしよう・・・。そう思うと、擦れ違う人擦れ違う人、皆が私を見ている気がしてきた。



?どうした?」
「あ・・・あの。私・・・帰ります。」


「ん?何か用事があったのか?無理をさせたか。」
「ち、違うの。あの・・・人に見られるし」



大きな木の下で真田君の足が止まった。
お昼の休憩も、もう残り僅からしい。他の生徒達は自分たちの応援席に移動を始めていた。
ジッと私を見下ろした真田君が眉根を寄せる。



「人に見られたら困るのか?」
「さ、真田君が・・・困ると思って。私・・・こんなんだし、」



初めて私服で彼に会う。
本当は、もっと綺麗にしたかった。
でも体育祭にお洒落していくのも可笑しいかしらと思って、
アレでもないコレでもないと部屋中を洋服にして考えた結果が・・・普通の格好だった。
せめて髪だけでもと、長い髪を少しまとめて可愛いピンで留めた。
お化粧など似合わないのは重々承知しているから、色付のリップだけを塗って。


家を出るときに鏡の前でチェックして『体育祭に行くんだもの、こんなものよね』と納得して出てきたけれど、
実際に学校へついて驚いた。


みんな、カワイイ。
同じ高校生なのに、綺麗にメイクしてお洒落な格好だった。


私たちを見ている人は、どう思うかしら。
考えただけで恥ずかしくなってしまうの。



「俺は全く困らないし、困る理由がない。第一、こんな・・・とは、どういう意味だ?」
「それは・・・あの、」



真田君の隣に立つには、あまりに相応しくないなんて自分の口から言うのはツライ。
言葉が出ない私の答えを真田君は黙って待っている。



『午後の部が始まる5分前です。生徒は各自の席に戻って準備してください。』



放送が入りハッとするけれど、真田君は私から目を逸らさずにいた。



「真田君、戻らなきゃ。」
「まだ、話の途中だ。」


「でも、」
「また何か、つまらぬことを考えているのか?」



瞳を大きくした私を見て、真田君は溜息をついて目を伏せた。
まったく・・・と小さく呟くと、私の肩に両手を乗せ覗き込むようにして視線を合わせてきた。
そして、突然の事に体を硬くした私に言い聞かせるよう・・・ひとつひとつ丁寧に言葉をくれた。



「俺は、お前と共にいるところを誰に見られても平気だ。
 テニス部の面々に引き合わせたのも、なら誰に会わせても大丈夫だと思ったからだ。
 俺は困るどころか・・・本当は皆にお前を見せびらかしたかったのかもしれん。 

 お前は何を考えていのるか分からないが、自分を卑下したりは絶対にするな。
 して欲しくないし、する必要もない。

 いいか?俺がお前を望んだのだ。」



ああ、真田君の顔が歪んできちゃう。
泣いちゃダメ。もう、彼は戻らなくちゃいけないんだもの。
人だって沢山歩いているのに。


でも・・・嬉しくて。胸が一杯で。



「泣くな。」



ポンと頭を優しく撫でられた。



ウン。ありがとう。
また一つ、宝石みたいな言葉を真田君から貰いました。


そのたび、私は強くなるの。
私でもいいんだって、勇気を貰うの。


真田君の傍にいてもいいって。





結局、体育祭は最後まで見た。
最後の対抗リレーでアンカーを走る真田君を見ることができて、本当に良かった。
私もつい大きな声で彼の名前を呼んで応援してしまったもの。



体育祭の後なのに更に部活をしていくという真田君とテニス部の部室近くで待ち合わせをした。
校門近くは帰っていく一般の人々で賑わっているけど、テニスコートの方には誰もいない。
いつもここで彼が練習しているんだと思えば、何もないコートも眩しく輝いて見えた。



!すまない、待たせたか?」
「ううん。」



体操服姿にスポーツバッグを肩にかけた真田君が走ってきた。
HRが終わって直ぐに来てくれたんだろう。



「そのまま家に帰るのか?」
「あ・・ううん。駅ビルによって本屋とCDショップに寄るつもりだけど・・・どうしたの?」


「一人でか?」
「うん、」



真田君は難しい顔をして腕を組む。
唐突な質問と反応に困っていると、口元に手をあてた真田君が思い切ったように言った。



「今日は止めておけ。明日・・・俺が付き合おう。」
「明日って、」


「明日の休み、部活は午後からだ。午前は付き合える。」
「そんな、部活の前に悪いわ。買い物なんて、一人で行けるし・・」


「一人で行けるのは分かっているが、俺が嫌なんだ。」
「嫌・・・って、」


「そんな姿でウロウロされるのは心配なんだ。」
「そんな姿?」



私は訳が分からなくて、真田君の顔を見つめる。
今日の私の格好に何の問題があるんだろうと、不安になってしまう。
そんな私の表情を見取ってか「イヤ・・違うんだ」と真田君が額を押さえ首を横に振った。


コホンと、咳払いをした真田君。



「可愛いから・・・」
「え?」


「そんな姿のお前を一人でウロウロさせるのが心配なんだ!だからだ。」



一気に言うと「ああ、もう」と、真田君が脱力していた。
私は笑ってしまった。
私が笑うと真田君は少し拗ねたみたいな顔をしたけれど、
最後は優しい笑顔を浮かべて「明日、10時に駅前だ。」と私の髪を撫でた。



後ろで「やるねぇ〜」と声がして、振り向けば幸村君と柳君が楽しそうな顔をして立っていた。



カッと赤くなった真田君。
でも、もっと私のほうが赤くなっていたと思う。





明日は初デート。
ドキドキしながら、いつもの電車に揺られて帰った。



ねぇ、わたし。
あなたの傍にいても、いいですか?
いつも心の中で訊いている。



その問いに真田君の全てが答えてくれるの。



いいよ、って。




















「傍にいても、いいですか?」 

2006.06.02 

ずっと傍にいて続編  nonnon様に捧げます




















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