Happy Halloween
立海の硬派といえば『真田弦一郎』。
そう呼ばれている事は知っている。別に嬉しくも悲しくもないが。
「これ、受け取ってください!」
「気持ちはありがたいが受け取れない。」
道場破りが如く次々と向かってくる女子たち。
何人断れば居なくなるのだろうと思うが、増えることはあっても減る気配がない。
幸村が隣で「ゴメンね」と俺の代わりに謝っているのを横目に歩き出す。
慌てず、騒がず、何事にも煩わされたくない。
気もない女子に笑顔を向けたり、悪いとも思っていないのに謝るなど俺にはできない話だ。
「もったいない奴だなぁ。さっきのコは学校でも有名な可愛いコだよ?」
「知らんな。話した覚えもない。」
幸村が肩をすくめるのを無視して部活に向かおうとした、その時。
下校する生徒達の流れに逆らって向かってくる生徒がいた。
「いた〜っ!弦ちゃん!」
「ゲンちゃん?」
ぴょんぴょんと跳ねて手を振る生徒が見え隠れする。
幸村の呟きを訊いて、考えるより先に体が動いた。
「幸村、先に行っててくれ。」
ファイルを幸村に押しつけると、目標を確保するべく人をかき分け一直線に向かう。
「すまない、どいてくれっ」
「通してくれ!」
あまりの慌てように周囲の人間が驚いているが、そんなもの構っていられない。
突進していく先、嬉しそうに手を振る脳天気さが腹立たしい。
「弦ちゃ・・」
呼びかけた口を乱暴に手で塞ぐと素早く体を反転。
後ろから羽交い絞めするように拘束して連行だ。
「んんーっ」
「黙らんかっ!とにかくついて来い!」
呻きながら暴れる体を抱えるようにして引きずっていく。
背中に皆の視線を感じる。だが、このままコイツを野放しにしたら大変だ。
人けのない体育倉庫の裏へ連れ込み、周囲を確認してから手を放した。
口が自由になった途端、機関銃のように喋りだす幼馴染の。
「酷いよ、弦ちゃん!窒息死するところだったじゃない!」
「なんでこんな所にいるんだ!?」
「へへへ。見て〜、立海の制服似合ってるでしょう?友達のお姉さんにお願いして借りたの。」
は、くるりとスカートの裾を広げて回って見せた。
思わず目頭を押さえて息を吐く。
とにかく気を取り直して訊いておこう。
「何のために立海の制服まで着て、ここに来たのかと訊いているんだ。」
「青学の制服じゃ目立つと思って。これでも気を利かせて立海の制服にしたのよ?
なのに弦ちゃんが大胆な行動に出るから、かえって目立ったじゃない。」
「誰のせいだ!で、何が目的で来たんだ?」
イライラとして問えば、は小さな手のひらを差し出して満面の笑みで言った。
「Trick or Treat?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
暫く考えた後、まさか・・・と思いあたり眉を寄せる。
「なんだそれは。」
「え〜、ハロウィン知らないの?」
「それは知っているが。人の学校まで乗り込んできて、何故それを言わねばならんのか訊いている。」
声が一オクターブ下がった気がしたが、はお構いなしだ。
きょとんとした後、楽しそうに笑った。
「どうせ弦ちゃんはお菓子なんか持ってないでしょう?だから、これが悪戯。
まさか立海の制服を着た私に会うとは思わなかったでしょう?
なんかさ、スパイにでもなった気分で楽しいよ〜。
ついでに弦ちゃんのスクールライフも見てみようかなって。」
「帰れ。」
「ええーっ」
「迷わず帰るように。」
肩を掴んで後ろを向かせると、無理矢理に背中を押す。
が首を捻って文句を言っているが無視だ。
「ま、待って」
「待つ気はない。寄り道はするな。」
「そうじゃなくて、」
言うなりは力づくで振り返り、俺の腕を掴んだ。
「お願い!少しだけ弦ちゃんと同じ学校の生徒でいさせて?」
「無理だ。我儘もいい加減に、」
「一度でいいの。弦ちゃんと同じ立海の生徒になりたい。」
「何故、そんなことを?」
必死に言い募るに問いかけた。
真っ直ぐに見下ろした瞳が揺れている。
そういえば、こんなに近くで顔を見るのは何週間ぶりだろう。
電話やメールで日々遣り取りしているから、久しぶりという気はなかった。
だが直接会って触れるのは、『久しぶり』という言葉が合うのかもしれない。
「弦ちゃんが見てる風景とか見たかったし。」
「もうすぐ文化祭があると言っただろう?その時に見ればいい。」
「そうなんだけど、そうじゃなくて。なんていうか、もっと近くでっていうか」
「言ってる意味がよく分らないが?」
段々との表情が困ってくる。
心なし耳が赤くなっているのも視界の隅に収めつつ、俺は小さく笑った。
いつも傍にいた幼馴染。
家の事情で中学から都内に引っ越してしまったとは離れてしまった。
会えなくなって初めて、お互いが存在の大きさに気付いた俺達。
不器用な俺と素直になれないお前が想いを通わせるのに、どれだけ時間を必要としたか。
「だから、好きな人と同じ学校の生徒になってみたいって」
半分怒ったみたいに言うの赤くなった顔が可愛いと思った。
我慢しきれず笑ってしまえば、更に頬を上気させて怒りだす。
違う。
からかってるわけでも、馬鹿にしているわけでもない。
何と言えばいいのか、胸がくすぐったい様な感じがして笑ってしまうんだ。
小さくて生意気だった幼馴染が、いつの間に・・・これほど愛しい存在になったのだろうと。
思えば思うほど可笑しくて、笑いながらも胸のうちは温かく満たされてくる。
これ以上は赤面できないだろうと思われるほど赤くなったが俺を睨んできた。
「そ、そんなに笑わなくても」
「分かった。部活があるから長くは付き合えんが、門までは送ってやろう。」
「それだけ?」
明らかに落胆したの頭を軽く撫でた。
確かに久しぶりの甘い匂いはの香り。
そうだ。俺も会いたかった。
「部活が終わるまでの二時間をどこかで待てるのなら家まで送ろう。」
「本当?!」
しおれていた花が咲いたような笑顔を見せるに俺も微笑んだ。
既に悪戯は決行された後だが、まぁいいだろう。
今日は遅くなると両方の親に頭を下げて、少しでも長く傍にいてやろう。
どこかで何か甘いものを買ってやるのもいい。
たくさん甘やかして、俺もを補給させて貰おう。
俺が手を差し出すとは不思議そうな顔をした。
「Trick or Treat?」
「お菓子なんているの?」
「くれないのなら悪戯しよう。」
差し出した手で、の手をとると歩き出す。
小さくて温かい手は俺の掌に納まってしまう。それも愛しい。
「い、いいの?人に見られるよ?」
「もういい。別に隠すことでもないし、ちょうど良かったかもしれん。」
「で、でも、」
突然の事に慌てる。
俺の悪戯は成功したらしい。
でも、でもを繰り返し、結局は俺の手を振り払ってしまうに笑った。
明日には学校中が俺の噂話で持ちきりになるなど思いもせずに。
Happy Halloween
2007/10/27
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