つまり・・・好きです。
睡眠不足が続いていた。
ピアノの発表会が近い。幼稚園のときから続けているピアノ。
音大を目指している私には、絶対に手が抜けない。
一日四時間はピアノの前に座る。
夜は楽典、国語、英語など受験科目を重点的に勉強した。
それに加えて、生徒会の引継ぎ。
会長の手塚君がどんなに大変か、そばで見て分かっている。
彼にこれ以上の負担を背負わせたくなかった。
副会長の私なら、手塚君に及ばなくても、ある程度のことはできる。
フロッピーを持ち帰り、深夜にパソコンに向かう日々が続いていた。
「、顔色が悪い気がするが?」
「え・・・そう?生徒会室は暗いから、そう見えるんじゃない?大丈夫。元気よ。」
「ならいいが。」
実を言うと、昨日も2時間しか寝ていなかった。
新しい生徒会の選挙が近くて。その準備もあったから。
体がつらい。けれど、もう一息。
引継ぎの資料は、もう殆ど出来た。
あとは、手塚君に目を通してもらって修正すればいいだけにしてある。
選挙さえ済めば。新しいメンバーが決まれば、もうお役御免だ。
体調が悪いのを、すぐに気づいてくれた。それだけでも、嬉しい。
少しでも、彼の役に立ちたくて。
彼が大好きなテニスに打ち込めるように。
それが、片想いの私に出来る、精一杯。
「とにかく、選挙の方は準備も進んでるし、大丈夫よ。手塚君は、スピーチの内容でも考えててよ。
司会は、金沢さんが担当する。私は、裏方。」
「すまない。いつも、ばかりに仕事をさせて。ピアノは、大丈夫なのか?発表会が近いんだろう?」
「え?なんで、そんなことを知ってるの?」
手塚君が、眼鏡を直して資料に視線を落とす。
「・・・いや。誰かが、話していた・・・と思う。」
「そう。うん、大丈夫よ。ちゃんと、練習してる。」
「そうか。上手くいくといいな。」
顔を上げた手塚君が、ほんの少し微笑んだ。
あ・・・嬉しい。その顔を見られただけで、頑張れるよ。
「うん!ありがとう!」
私は、嬉しさそのままに微笑む。
手塚君は、何故か少し途惑ったような顔をしてから。また、少し笑った。
選挙の当日は。目の回る忙しさだった。
ここ数日の睡眠時間は、2-3時間平均だった。
時々襲ってくる立ちくらみに、しゃがみこむ。
もう少し。
しっかりしなくちゃ。
自分に言い聞かせて、また走り回る。
無事に投票がすみ、各クラスから投票用紙が集められてくる。
それを選挙管理委員と共に開票していく。
手塚君は会長のデスクで作業をしながら見守っていた。
私たちは立会いのみ。
立ったまま開票作業を見ているうちに気分が悪くなってきた。
「。」
呼ばれて振り向くと、デスクから手塚君が呼んでいる。
気持ちの悪さに耐えながら、手塚君の隣に並んだ。
「何?」
「顔色が悪い。」
「大丈夫だよ。あ・・・」
手塚君が見ているのは、私が引き継ぎように作っていたデータだった。
フロッピーを入れっぱなしにしていた。
「これは、が作ったんだろう?」
「うん。でも、足りないところは手塚君に足してもらうつもりで」
「足りないところなど、ない。だが・・・」
「なに?」
手塚君が、突然立ち上がった。
「すまない。を保健室に連れて行く。」
「え・・・手塚君?」
開票作業が終了して、ほっとした雰囲気の生徒会室に、手塚君の声が響く。
みんな、驚いた顔で私たちを見ている。
私だって、びっくりした。
「さっ、行くぞ。」
「待って、手塚君。大丈夫だから。」
「駄目だ。行くぞ。」
「いや・・あの」
「行くんだ。」
いきなり腕を掴まれた。
そのまま引きずられるようにして廊下に出る。
「気分が悪いんだろう?朝から、具合が悪そうだった。」
「手塚君・・・。」
「あの完璧な引継ぎを見て、分かった。お前が、どんなに無理をしてきたか。気づかずに・・・すまない。」
「そんな、勝手に私がしたの。手塚君が謝ることじゃない。」
「・・・ピアノは来週だったはずだ。音大の受験勉強もあるんだろう?」
驚いた。
彼が、そこまで詳しく私のことを知っていると思わなかったから。
長い廊下で、手塚君が足を止めた。そして、私を見下ろす。
「何故、そんなに詳しいのか?と言う、顔だな。」
「誰に聞いたの?」
「いろいろな人に。のことだから。」
「私の?」
「そう、お前の。ストレートに青学の大学に上がらず、外部受験をすると聞いて・・・ショックだった。」
手塚君が眼鏡を上げる。
その綺麗な指と瞳をじっと見ていた。
彼の言葉を頭の中で反芻して。
とても都合よく取ってしまう自分に、ブレーキをかける。
「。何か言ってくれないか?」
「な・・・何かって?」
「さっきから・・・告白しているつもりなんだが。」
寝不足と体調不良と、まわらない頭。
「あの、告白って?」
一応、聞いてみた。
私の頭は、いいように解釈しそうになるから。
やはり・・・こんな言い方では駄目か。
手塚君が横を向いて、小さくつぶやく。コホン。ひとつ咳払い。
「俺は、自分の想いをに告白している。つまり・・・」
つまり・・・好きだということだ。
泣き出した私。
泣き止むまで、そっと背中をさすってくれた大きな手。
涙が乾いたら、そのまま保健室に連れて行かれて・・・ベッドに無理矢理寝かされた。
保健室の先生に睡眠時間を聞かれて。渋々と答えたら。
手塚君の眉間のしわが更に深くなって怖かった。
「もう、無理はするな。俺のことを思うなら、尚更だ。」
保健の先生が、ちょっと背を向けた隙に耳元で囁かれて。
赤くなりながら頷いた。
「あと、お前の気持ちを聞いていないが・・・」
覗き込む、レンズ越しの瞳が優しくて。また、泣けてきてしまう。
保健の先生に聞かれないように。
小さく、小さく答える。
手塚君が耳を寄せて。
答えを聞くと、今まで見たことがないくらい柔らかく微笑んだ。
つまり・・・好きです
「つまり・・・好きです」
2004.10.5
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