ずっと傍にいて 〜手塚編〜










10月7日は手塚君の誕生日。


カバンの中には悩みに悩みぬいて買ったプレゼントが出番を待っている。
不自然じゃなく渡す理由は考えた。



『おめでとう、手塚君。これは・・・いつもテニス部でお世話になってるお礼も兼ねてなの。』



男テニと女テニで世話になったもない気がするけど、同じ部長同士として『お世話になってる』は悪くない言い訳だと思った。
言い訳を決めてから探したプレゼントは小さなテニスラケットがついたストラップ。
高価なものじゃないし、他の誰かも買ってるかもしれない品物。


でも、ラケットの色を彼のものと同じ色にしたくて何軒も歩いて探し、やっと見つけた思い入れのあるストラップなの。
想いは伝わらなくても、せめてストラップが彼の携帯に揺れる事が出来るなら。
そんな夢みたいなことを思って買ってしまった。


おまけに、私の色のラケットがついたストラップもお揃いで買った事は内緒。
大事に机の引き出し奥深くに仕舞ってあるの。



今朝から頭の中で繰り返した台詞を胸に、手塚君に近づこうとチャンスを窺っていた。
でも彼の教室の前を通るだけで普段とは違う華やいだ雰囲気に圧倒される。
どの女のコも手に綺麗な包みを持ち、なんとか手塚君に渡そうとソワソワしているのが分かる。
それは私も同じ気持ちだから分かる。
緊張と不安、受け取ってくれるかな、喜んでくれるかなっていう期待。


私は制服のポケットに入った包みを布地の上から撫で、通りすがりのような顔をして足を進めるしか出来なかった。



まだ部活の前というチャンスがある。
男女の部室は大きな通路を挟んで向かい合ってるから、一度ぐらいは顔をあわせられるだろう。
そう自分を励まし、ドキドキしながらジャージのポケットにプレゼントを忍ばせた。
しかし部室を出て直ぐに、自分の考えが如何に甘かったかを痛感した。



ここにも彼を待つ女のコたち。
大石君が部室の前に出て『部活に支障が出るから・・・』と、すまなそうに頭を下げている。
すると女のコたちは次々と大石君に手塚君へのプレゼントを渡していった。


両手一杯にプレゼントを渡され困惑する彼の手から、一つ二つと小さな包みが落ちてしまう。
見かねた私が近づいて拾えば、『じゃあ、さん。お願い!』と他のコから次々に包みを渡されてしまった。



「いや、はいいよ。ホント、この上に乗せてくれ。」
「でも・・・もう持てないでしょう。手塚君は?」


「職員室に寄ってから来るって言ってたけど、ココにたどり着く前に捕まってるかもな。」
「そう・・。人気者って大変だね。」



眉をハの字にして遠慮する大石君に無理して明るく答えて見せる。
腕いっぱいになった女のコたちのプレゼントに、私の想いが潰されていくのを感じながら。



「あ、手塚!良かった、このプレゼントをどうにかしてくれ。」
「・・?」



私は背を向けていたから気づいてなかった。
後ろから手塚君が来たらしい。
笑えない顔を叱咤して何とか笑顔を作ると振り向いた。



「見ての通りだよ。が通りがかって、彼女まで巻き添えにしてしまったんだ。」


「ここまで全て断わっきたのだが・・・参ったな。」


「なんだ。だから、ここで俺たちに渡したって事か?それなら断われないからって?
 早く聞いておけば良かったな。どうしようか、手塚。」


「いや、一度断われば諦めるだろうと思っていた俺が甘かったようだ。
 名前があれば返すこともできるだろうが・・・」



私は笑顔を貼り付けたまま言葉が捜せずにいた。
返されるプレゼント。
それは、私のポケットに入っているストラップも同じなのだ。
彼には不要なもの。彼を想う気持ちも同じ・・・不要なもの。


もう渡せるはずがない。



「とにかく、このままじゃが部活にいけないよ。手塚、」



大石君に促され、手塚君が私の前に手を伸ばしてきた。
この腕にプレゼントを・・・という仕草。
私は落とさないよう気をつけながら、ぎこちなく手塚君の腕に女のコ達からのプレゼントを移す。
束になった紙袋を手渡す時、僅かに触れた彼の指先に泣きたいような気持ちになりながらも耐えた。



「迷惑をかけた、すまない。」



ううん、平気よ。
そう言いたかったのに、喉が張りついたみたいになって言葉が出ない。
手塚君の顔が見られなくて、胸のボタンに視線を落とし首を横に振るとコートに向かって走り出した。
口元だけに作った笑顔はそのまま、視界だけが歪んで滲んでいった。



練習中、暑くてもジャージは脱がなかった。
ポケットに入ったままの秘密を誰にも知られるわけにはいかなかった。



いつも通りに部活を終え、一緒に帰ろうという友達に『やる事が残っているから』と先に帰ってもらった。
今日はいつもみたいにお喋りしながら帰る自信がない。


一人になった部室でやっとジャージを脱いだ。
ポケットから包みを出し、カバンの奥に仕舞おうとして手が止まった。


持って帰って、どうする?
手塚君からプレゼントを返された人たちは、どうしたんだろう。
やっぱり捨てちゃうのかな?


捨てるって事は、想いを捨てるのと同じ事。
受け取ってもらえない想いは捨てるしかないの?



ぐずぐずとして時間だけが過ぎ、
溜息をついて、最後に部室の電気を消す頃には皆が帰って軽く一時間はたっていた。
捨てることも渡せることも出来ないプレゼントが私の手の中に残っている。
無造作に手提げカバンの浅いポケットにプレゼントを突っ込むと外に出た。





秋の風は乾いて気持ちがいい。
ヒンヤリとしたバス停のベンチに座って時計を確認すると、
さっき行ったばかりのバスは30分しないと来ない。


また溜息を落とし、ふと横を見れば大きなゴミ箱が目についた。



ジッとゴミ箱を見つめて、
思いきる様にカバンのポケットから手塚君のプレゼントを取り出した。
綺麗に結んでもらった水色のリボンを外し、お揃いの包装紙もひらいていく。
白の小さなメッセージカードには『手塚君へ』の文字。
大それた事は書けなくて『誕生日おめでとう』と『いつもありがとう』を心を込めて書いた。
そのカードから破って捨てようと力をこめたところで、横から声をかけられた。



?」 



この声!
瞬間で声の主が分かった私は、カードや包装紙を膝の上に急いでまとめる。
なのにストラップを収めた小さな箱が膝から滑り、アスファルトの上に落ちてしまった。
早く拾おうとベンチから手を伸ばせばリボンは落ちるし、包装紙がクシャクシャと音を立てる。



「俺が拾おう」
「手塚君!いいから、」



彼が手を伸ばした白い箱を横から奪うようにして取った。
なのに下を向いていたらしい箱は、蓋とストラップを残してしまう。
手塚君の長い指が残されたストラップを拾ってしまった。
なんてこと。


手塚君は拾ったストラップと箱の蓋を手にして、「ラケットか」と呟いた。
心臓がドキドキして泣き出しそうになりながら「ありがとう」と私が手を出せば


すんなりとストラップは私の手のひらに戻ってきた。


いうことを聞いてくれない震える指先で箱にストラップを戻していると、影が落ちてきた。
何かと思えば手塚君が体をかがめて、再び白い何かを拾う。



、これは・・・」



メッセージカードだった。


手塚君へと名前が書いてある。
ああ・・・もう駄目。
今すぐ言い訳が出来るほどの器用さがあれば、こんなにも悩んではいない。
とうの昔に彼にプレゼントを渡し、断わられても笑って誤魔化すことが出来ただろう。
目の奥が熱くなって、涙が零れてしまいそうになる。


手塚君は黙ったまま。
私は唇をかみ締めて俯くと、箱に収めたストラップと包装紙やりボンを一緒にして手提げカバンに突っ込もうとした。



「それは・・俺の物じゃないのか?」



手塚君の静かな声。だけど私は首を横に振る。



「ストラップについていたラケット・・・俺のラケットと同じ色だった。」



ふるふると再び首を横に振る。



「なぜ・・・俺にくれないんだ?」



渡せるはずがないでしょう?
首を横に振り強く手提げ袋を握り締めれば、涙が一粒、袋の上に落ちていった。



手塚君の動く気配に身を固くした。
何を言われるんだろう。私には気を遣って丁寧に断わってくれるんだろうか。
手塚君は、そういう人だ。


彼はベンチに座る私の前に片膝をつくと私を覗き込む。



「泣いて・・いるのか?」



首を横に振れば、また涙が落ちた。
ゴメンナサイ、手塚君。
泣けば、あなたが困るの分かってるのに止められない。
どうかこのまま、なにも言わずに置いていって欲しい。



「泣かなくていいから・・・さっきのストラップを出してくれ。」



また首を横に振ろうとしたら、ふんわりと頭を包み込まれた。
見開いた目の前には金色のボタンと黒しかない。
ポンポンと頭を撫でられて初めて、手塚君が胸に抱いてくれたのだと知った。



「て、手塚君、」



明らかに涙声の呼びかけに、泣かなくていいんだと手塚君が重ねて呟く。



「ずっと待っていたんだ。だから、欲しい。」
「でも・・・」


「部室の前でに他の子からのプレゼントを渡された時・・・俺のほうも泣きたいような気持ちだった。
 俺には何の感情もないのかと、な。だが諦めきれずに待っていたんだ。」



それは手塚君の精一杯の告白だった。
ただ、ふんわりと抱きしめたまま。
涙が止まらなくなった私の髪を不器用に何度も何度も撫でてくれた。



やっとバスがやって来た頃。
彼の携帯には私のストラップが揺れ、ディスプレイには登録しかけた私のアドレスと電話番号があった。



私が『お揃いで色違いのストラップを持ってるの』と打ち明けたら、
手塚君がメガネの奥の瞳を緩めて言った。



「よかった。探しに行こうかと内心で思っていたんだ。」



バスの一番後ろの座席に並び、お互いが目を見て微笑みあう。



お誕生日おめでとう、手塚君。


私・・・傍にいてもいい?ううん、傍にいたいの。


だから、あなたも。





ずっと傍にいて?




















「ずっと傍にいて 〜手塚編〜」  

2006.10.07  

おめでとさん




















テニプリ短編TOPへ戻る