ささやかな嫉妬
「少し焦げてるけど・・・これはこれで香ばしくて美味しいと思うけど?」
「そう・・・かな?でも見た目が悪いし。」
「見た目も大事だけど、問題は味だにゃぁ。」
ただいま私は両手に花。左右を不二君と菊丸君に挟まれて会話している。
ついさっき焼きあがったばかりのパウンドケーキ。家庭科の実習で作ったもの。
中が少し気になって・・・もう少しと追加した焼き時間が失敗だった。
盛り上がった部分が少し焦げてしまった。
自分で食べるのなら一向に構わないけど。
人に食べてもらおう・・・と思えば気がひける。
トボトボと教室に戻ってきてケーキを机に並べて溜息をついてたら、目ざとく菊丸君がやってきて味見を希望してきた。
後ろには、ちゃっかり不二君も付いてきて今に至る。
3つあるパウンドケーキのうち、ひとつを二つに割って二人が味見した。
「大丈夫。美味しいよ?意中の彼に渡してきたら?」
「でも・・・」
「でもさぁ、不二。アイツが甘いもの食べてるの見たことあるぅ?
食べるにしてもパウンドケーキというよりはヨウカン?ってかんじじゃんっ」
「・・・そうだよね。」
「エージ!そんなことないよ。ちゃんからのものなら絶対食べるよ。大丈夫。」
「甘いもの嫌いな上に・・・焦げてるんだよ?」
ついつい声が小さくなった。なんだか、更に落ち込んできちゃった。
付き合い始めたばかりの彼にプレゼントしたくて、実習後も食べずに我慢して持ち出してきた。
でも、やっぱり・・・失敗作だし。
確かに彼がパウンドケーキを食べている姿が想像できない。
彼なら畳の上に正坐して緑茶と羊羹を食べてそうだ。
「ほら。エージのせいで落ち込んじゃったじゃないか。」
「えっ・・・あ・・・いや。ゴメン!でもさ、ホントに美味しいよっ!もっと食べたいくらいっ。だから、ねっ」
二人が左右から覗き込んできては、優しい言葉をかけてくれる。
不二君は肩をポンポンと叩いてくれて。
菊丸君は頭を撫でてくれた。
と、その時。
「何をしている。」
大好きな人の声が頭上から聞こえてきた。
「噂をすれば何とか・・・だね?手塚。」
「で、お前たちは何をしているんだ?」
不二君が声をかけて、同時に菊丸君がさっと身を引いて離れた。
顔を上げれば、眉間に皺を寄せて恐ろしく不機嫌そうな彼が立っている。
「僕らは殿に献上するお菓子の毒味をしてたんだよ?ねっ、エージ?」
「そっ、そうそう。だから、んなに睨むなよなっ」
チラ・・・と手塚君の視線が焦げたパウンドケーキに落ちる。
ああ・・・恥ずかしい。こんな焦げたケーキを並べて。食べてもらえるはずがないもの。
慌てて包んであったハンカチにケーキを並べて仕舞おうとした。
その手に伸びてきたのは、手塚君の大きくて長い指。
そっとハンカチを持つ私の手に触れて止めてから、パウンドケーキを手にすると離れていく。
「あ・・・待って。それっ」
止める間もなく、パクリと手塚君が口に入れてしまった。
唖然と見上げる私を前に、黙々と口を動かしている彼。
表情ひとつ変えずにひとつを食べ終わると、残りのひとつも手にとって食べ始めた。
それはあっという間の出来事。
1分も立たないうちに、焦げたパウンドケーキは彼の胃袋に納まってしまった。
隣で不二君と菊丸君がクスクスと笑っている。
「良かったね、ちゃん。言ったとおりだろ?」
「うんうん、味は良かったもんにゃ」
彼らが私に話しかけると、すぐに鋭い視線が飛んでくる。
不二君は肩をすくめると「はいはい、お邪魔でした。」と席を立つ。
菊丸君は私の耳元に口を寄せて「手塚はヤキモチやきだにゃ。」と囁いていった。
二人が背中を向けてから、黙って空いた隣の席に座ってきた彼。
おそるおそる顔を見たら、相変わらず難しい顔をしていた。
「あ・・・あの、美味しくなかった・・・よね?ゴメンね。焦がしちゃったの。」
「いや。美味しかった。」
で・・・でも、そんな無表情で言われても。泣いちゃいそう。
「ううん。失敗しちゃったから・・・ごめんなさい。」
俯いて呟いたら、少しして大きなぬくもりが背中に添えられて撫でられた。
それが彼の手だと分かって。ビクッと身を震わせたら、すぐに離れていく手。
「いや。本当に美味しかった。すまない・・・誤解させたのなら謝ろう。」
「誤解?」
隣に座る手塚君は私を見ない。前を見たまま、神経質そうに眼鏡を上げた。
「俺より先に・・・奴らが食べたのが・・・気に入らなかった。」
「え・・・?」
「不二がお前の肩を叩いたのも。菊丸がお前の髪に触れたのも。気に入らなかった。」
「それって・・・」
菊丸君が囁いていった言葉を思い出した。
手塚はヤキモチやきだにゃ
「あの・・・」
どうしよう。嬉しい。
彼が私にヤキモチをやいてくれたなんて・・・・信じられないくらい嬉しい。
私・・・自惚れてもいいのかな?
考えたら頬が熱くなってきて恥ずかしくなった。
両手で頬を押さえて俯く。
こうすれば長い髪が顔を隠してくれるから、赤くなった顔を彼に見られなくてすむ。
なのに。その髪がひと房とられて耳にかけられた。
彼がしたその仕草が優しくて。くすぐったくて。恥ずかしくて。
更に顔を赤くして彼を見たら・・・ほんの少し口元を緩めた彼が囁いた。
「俺に嫉妬させないでくれないか?」
ただ頷くしかない私に。彼が言ったこと。
俺以外のやつに物をやるな。
俺以外のやつに触れさせるな。
は・・・俺のだから。
ささやかな嫉妬
2005.01.06
絶対、手塚は嫉妬深いと見ました。
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