サプライズ












とうとう、幼馴染の国光が渡米することになった。


天才テニスプレヤーの名を欲しいままにしてきた国光は、既に何度も渡米している。
留学した時には二年ほど帰国しなかったっけ。


国光は『天才』と呼ばれてきたけれど、本当は『努力と我慢の秀才』なのだと思う。
度重なる故障を何度も克服してきた。
その度に断たれそうになる夢を必死で手繰り寄せ、ここまできたのだ。


今度の渡米は、きっと長くなる。
国光はアメリカに住み、アメリカを拠点にプロとしての生活を始めるのだから。





「ねぇ、お茶とか海苔は入れた?」
「多分な」


「おばさんが入れたかな?」
「それぐらいは向こうでも売っている」


「そりゃそうだけど、こっちのが美味しそうじゃない?」
「そうか?」



持っていく本を選んでいる国光。
本棚に向かって立つ、その広い背中を見つめて溜息を飲み込んだ。


彼にとっては喜ばしいこと。
長い夢が叶い、万全の状態で渡米出来るんだ。


ただの幼馴染でしかない私は、笑って送り出さなきゃと思う。



、この選んだ本を詰めてくれ」
「ハイハイ。もう、人使いが荒いなぁ」



空の段ボールを手に国光の隣に移動し、差し出される本を詰めていく。
なんだか難しそうな名前の本ばかり。
とても読む気になれない厚さの本を受け取りながら、国光らしさに笑ってしまった。



「読みたい本があれば譲ろうか?」



何を勘違いしたいのか、私が本を欲しそうに見ていると思ったらしい。



「いらない。枕にするぐらいしか役に立ちそうにないし」
「来年は短大を卒業するんだろう?本ぐらいは読め」


「失礼な!本ぐらい読んでます。国光の趣味と合わないだけ」
「合わないと思っても読んでみると案外面白いものだ」


「なら私がお気に入りのベタ甘恋愛小説を貸してあげる」



床に膝をついた私が下から悪戯っぽく薦めてあげると、明らかに嫌そうな顔をした国光が首を横に振った。



「相変わらず趣味が合わないよね、私たち」
「性別の差だろう」


「いやいや。根本的な何かだと思うけど」



パラパラと手元の本をめくる国光が小さく笑う。
人前で滅多に笑顔を見せない彼だけど、家族や私の前では時々こうやって笑ってくれる。
それがどんなに嬉しくて、優越感を与えてくれるものだったか・・・今更ながら知る。



「これも」



次々と渡される本と国光の声。
もうすぐ彼の部屋は空っぽになってしまうだろう。
この声を聞くこともなくなってしまう。


永遠に会えないわけではないけれど、次に会える日も分からない。



急に鼻の奥がツンとしてきて、顔が上げられなくなった。
頭のあたりに差し出される本を黙って受け取り、詰めることに集中する。



こんな時、恋人だったなら素直に『会いたい』って言えるんだろうな。
ただの幼馴染だけど、軽く『アメリカに遊びに行きたい』って言ってみようか。
きっと国光のことだから、簡単に頷いてくれるのだろうけど。







ぐるぐると考えていたら、名前を呼ばれた。
手元がおろそかになっていたらしい。


私は顔もあげずに手のひらを国光に向けて差し出した。



あれ?軽い。



手のひらに乗せられただろう物があまりに軽くて、顔を上げる。
そして、目の前にある物をマジマジと見つめてしまった。



それは白い小箱。
小箱は貝のように開かれて、その中心には小さな石が埋め込まれた銀色の指輪があった。



「なに、コレ?」



私の間抜けな一言だ。


だって意味が分からない。
詰めている本に代わって渡されたのが指輪とは、唐突すぎる。


国光はパタンと音をたてて本を閉じると、私の隣に膝をついた。



「お前にだ」
「私に?ウソ!?」


「嘘じゃない」
「嘘じゃないって。あ、誰かからの貰い物?」



うろたえていた。
あり得る可能性が頭を駆け巡り、そんなはずはないと否定も忘れない。
なのに急上昇する鼓動は国光にも聞かれてしまいそうだ。



「本気でこんなものを俺にくれる人間がいると?」
「け、懸賞で当たったとか」


「もう分かっているんだろう?」



問いかける国光の声は静かだった。
真っ直ぐに私の目を見て、それから一つ息を吐くと手のひらの小箱から指輪を抜く。



「サイズが合えばいいのだが。できれば好みも」



そう呟くと勝手に左手を取り、思考の停止した私の薬指に指輪をはめ始めた。



「なんで・・・」
「予約済みの証しだ」


「それって」
「卒業したらアメリカに来い」



命令口調のくせに指輪の納まった薬指を長く節くれだった指で優しく撫でる、ずるい人。



「び・・びっくりさせないでよ」



半泣きの私が情けなく言うと、今度こそ国光は声をたてて笑うんだ。



「お前の驚く顔が見たかった」



ああ、やられた。
そっちがその気なら、私も考えがある。







それから三か月後。


アメリカの自宅に戻ってきた国光の前に突然現れて、驚くその胸に飛び込んでやった。




















サプライズ 

2009/08/15




















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