聖夜の告白












テーブルには大きなクリスマスケーキとスパークリングワイン。
ついつい衝動買いしてしまったポインセチアの鉢が食卓に色を添える。


実は生まれて初めてローストビーフなるものを手作りしたのとか、
チキンのシチューにパイ生地をのせて焼いてみたのとか、
そりゃあもう傍から見たら笑っちゃうぐらい頑張ったのが丸わかりの料理たち。



ねぇ、それなのに肝心の食べてくれる人がいないの。



「手塚クンの馬鹿」



呟きは冷めきった料理のうえに落ちていった。


もともとお酒には強くない。
クリスマスデートをすっぽかされた私はヤケ酒に飲まれてベッドに沈む。


いいよ、もう別れてやる。
手塚クンのために選んだマフラーだって、お父さんにあげちゃうんだから。


惚れた方が負け。そんなことが出来ないことぐらい分かっている。
それでもブツブツと恨み事を零しながら布団に潜り込んだ。










夢を見た。
青学のテニスコートで手塚クンを見ている私。
相変わらずの歓声と光りの中に立つ絶対的な存在。


あの人に私の想いなど届くはずがない。
絶望的な切なさに涙が零れる。


ずっとずっと片想いをしていた。
手塚クンがテニスで全国に名を馳せる、ずっと前からだ。
想いは積み重なるばかりで、手塚クンはどんどん遠くなっていく。


有名になって、誰かれとなく人に名を呼ばれ、あげくには海外へ留学することになった。


手塚クン、もう会えないの?
遠くから見つめることさえ出来なくなるの?


ずっと好きだったのに。





「泣くな・・・」





手塚クンの声がした。
硬質な声だけど、優しい響きがする。





「だって、行っちゃうから」





答えれば、温かな感触が私の頬を撫でた。





「どこにも行かない」
「嘘」


「行く時は、お前もつれていく」
「本当?」





うっすらと目を開くと少し困ったような顔をした手塚クンがいた。



ああ、会えた。
ちゃんと私の前にいて、私を見てくれている。
それが泣くほど嬉しいよ。





「手塚クン・・・」
「ん?」





触れたくて手を伸ばす。
その手を優しくとり、手塚クンが微笑んでくれた。
彼の笑顔は『恋人』という呼び名と一緒に私に与えられたものだ。





「好き」
「ああ」


「大好き」
「・・・分かっている」





人が一生懸命に想いを伝えているのに、分かっていると簡単には言って欲しくない。





「違う。手塚クンは分かってない
 私がどれだけ手塚クンを好きなのか
 偶然に再会してこうなるまで、どんなに長く苦しい片想いをしてきたか
 ちっとも分かっていないから平気で私をひとりにするんだよ」





いつもは嫌われたくなくて言えないこと。
でも、夢の中だもの。言いたいことを言っちゃえと気が大きくなる。
私は理解があるだけの都合のよい女になんてなりたくなかった。





「私のことなんか、手塚クンはそれほど好きじゃない」
「・・・俺の気持ちは伝えたはずだが?」





手塚クンが眉根を寄せる。
少し怒って見えるけど、私の手を握ったままでいてくれたから勇気を出した。





「傍にいてくれしか言われてない。好きって言われたことがないもの」
「嫌いな人間に傍にいてくれもないだろう?」


「好きなら好きって・・・やっぱり言って欲しい。そうじゃないと不安で分からなくなる」





手塚クンが目に見えて困惑していた。
何か言いたげに唇を動かしたが音にならず、
諦めたように大きく溜息をつくと『一度だけだぞ』と前置きして私の耳元に口を寄せた。





「好きだ。お前が・・・ずっと好きだった」





囁きが鼓膜を通して胸に沁みてくる。
嬉しい。あなたの気持ちがずっと聞きたかった。





「好き。手塚クン」





思わず目の前の首に手をまわして抱きつくと、手塚クンもしっかりと抱きしめてくれた。





「戻るのが遅くなって、すまなかった」


「いいの。いいから、もっと抱いて」
「ああ」


「大好きなの」





返事の代わりに唇が重なった。
たくさんキスをして、強く強く抱きしめてもらって。


満足した私は再び深い眠りに落ちていった。










目覚めれば室内は明るくなっていた。
ぼんやりと白い天井を見上げ、昨夜の事を思い出す。


とても幸せな夢を見た・・・気がする。


のろのろと体を起こすと鈍い痛みが頭にのしかかり、目の前がグルグルする。
これが世にいう二日酔いなのかと眩暈を耐えて手を伸ばせば、携帯電話の隣に腕時計が置かれてあるのに気がついた。


どう見ても自分のものではない頑丈な作りの時計。
見たことがないとは言わないというか、持ち主を知っている!



「手塚クン!?」



昨夜のままの服で飛び起き、激しい頭痛と気持ち悪さを堪えてドアを開けば。



「おはよう」



冷静沈着な男が新聞を広げてコーヒーを飲んでいた。


ええっと、いつの間にとか。なんで起こしてくれなかったの、とか。
でもやっぱり会えて嬉しいけど、こんな格好だしとか
とりとめもなく思考が空回りする。



「あの・・・いつ来たの?」



やや赤面しながら問いかけてみたら、新聞から視線を上げた手塚クンが片眉をあげた。



「覚えてないのか?」
「え?わ、わたし・・何かしでかした?」



私の質問に溜息をついた手塚クンは無造作に新聞を畳むと立ち上がる。
そして何をしてしまったのかと怯える私の前に立つと、そっと手のひらで頬に触れてきた。
心地よい感触が恥ずかしくって俯けば、困った奴だと叱られた。


焦る私の頬に触れるだけのキスをひとつ。
驚きに目を見開けば、笑いを含んだ瞳で私を見下ろしている手塚クンと視線が合う。



「可愛いことを言うだけ言って寝たんだ」
「か、可愛いこと?」


「ああ。可愛かった」



ふっと笑った手塚クンがふんわりと包みこむように抱きしめてくれる。
その胸に抱かれながら、私は昨夜の夢を思い出していた。



夢を・・・?



「手塚クン!昨夜、わたしに」



突然に胸から顔をあげた私の様子に、手塚クンは眉を寄せると首を振った。



「一度だけだと言ったはずだ」



夢じゃなかった!!



待って、あの時は夢うつつで・・・と言い訳をしたが聞き入れてくれない。
あんなことを二度も言えるはずがないだろうの呟きは、再び抱きしめられた腕の中で聞いた。




















聖夜の告白   

メリークリスマス☆

2009/12/17




















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