私を呼ぶ声










それは、昼休み。
なんとなく三人が顔をあわせて、推理小説の新刊について語り合っていた。
ふと会話が途切れた時、乾君が・・・突然言ったの。



。手塚が君のこと、好きみたいなんだけど。」


「乾っ!」


「え・・・」



初めて聞く、手塚君の焦った声。一瞬、言葉の意味が分からなかった。
呆然として、乾君と手塚君に視線を彷徨わす。



「いいじゃないか、手塚。本当のことなんだから。」


「本当だとか、そういう問題ではないだろう!何故、今。お前が、に・・・」


「俺は、嘘はいってないよ。で、は・・・手塚のこと、どう思ってる?」



え?え?え?手塚君が・・・・私を?好き?信じられない。だって・・・私も・・・



言葉の意味が理解できたら、途端に顔が熱くなった。
思わず、頬に手を当てる。きっと、耳まで赤くなってる。



だって、私も手塚君が好きだから。



私の様子を見て、乾君がクスッと笑った。



「見てのとおりだ。手塚。の返事は、聞くまでもない。両想い、おめでとう。」


「乾・・・。」



ため息交じりの手塚君。乾君は、軽く手塚君の肩を叩いた。



「おせっかいだと思ったけど。こうやって、ふたりの間でダシに使われるのもね。
 それに、どう見ても両想いだし。じれったくてね。まっ、仲良くしてくれ。
 。手塚は、このとおりの人間だから。まっ、気長に付き合ってやってよ。」


「乾っ!」



はあ・・・とため息をついてから、手塚君が私を見た。
こころなし頬が紅潮している手塚君。それでも、真っ直ぐに私を見た。



「そういうことだ。よろしく・・・頼む。」



いつもより小さな・・・手塚君の声。彼が照れているのだと、わかった。
そして、これは本当なのだということも。



「こ・・・こちらこそ。よろしくお願いします。」



私は、頭を下げた。





付き合い始めた私たち。
テニス部という大所帯を率いる手塚君は、自らも素晴らしいプレーヤーだ。
私たちに、ふたりで過ごす時間なんて・・・ほとんどない。
それでも、昼休みは出来るだけ二人で過ごした。ただ、ランチをするだけ。
貴重な時間。わずか30分足らずだけど、幸せな時間を過ごす。


ぽつぽつと話す手塚君。本のこと。釣りや、山のこと。
私のつまらない話も、頷きながら聞いてくれる。


忙しくて、昼休みさえ会えないときもある。そんな時は、電話だってしてくれる。
おしゃべりじゃない彼。電話が苦手なのを知ってる。
それでも、電話をしてきてくれる気持ちが嬉しい。



『すまない。随分、会ってない。』
「ううん。学校で、会ってるじゃない?今日も、職員室の前ですれ違ったし。」


『あれは、本当にすれ違っただけだ。』
「それでも。嬉しかったよ。手塚君の顔が見られたもん。」


『・・・・・・。』
「手塚君?」



電話の向こう。黙り込んでしまった彼。電波の状態が悪いのかな?なんて、思ってたら。
ダイレクトに耳に飛び込む、彼の声。
深くて、落ち着いた・・・私の大好きな声。



。次の日曜日。午後から、コートの整備が入るから部活が休みになる。どこかに、行こう。』



私は、ぼーっとしていた。『』と。私の名前を呼んだ手塚君の声に・・・心臓が走り出す。



?』
「はいっ!あ・・・ごめんなさい。突然だったから、びっくりして。」


『用事は、ないのか?』
「だいじょうぶ。・・・行く。」


『そうか。なら、どこに行きたいか考えておいてくれ。』
「あ・・・うん。」


『じゃあ、また。』
「あっ、手塚君。」


『ん?』
「あの・・・ありがとう。とっても・・嬉しい。・・・おやすみなさい。」


『ああ。おやすみ。。』



切られた電話。それでも。いつまでも手塚君の声が耳に残って。
優しく『』と呼ぶ声。もっと、聞きたい。あなたが私を呼ぶ声。










約束した日曜日。まともなデートは初めてかもしれない。
何度も鏡の前で全身をチェックして。もう・・・朝からドキドキが止まらない。
これで、実際に手塚君を見てしまったら。私、倒れるんじゃないかしら。
そんなことまで、思ってしまう。


落ち着かなくて。随分と早くに家を出てしまった。
なのに、自然と足が速くなる。待ち合わせ時間より、早く着くのは確実なのに。
嬉しくて・・・。


今日は、何を話そう。彼は、どんな姿で現れるんだろう。
目の前で、私の名前を呼んでくれるだろうか。
その時、彼はどんな表情を見せてくれるんだろう。


待ち合わせ場所が近付くにつれて、心臓の鼓動が大きくなる。時計台の下。
20分も前なのに、手塚君の姿があった。
長身の彼が、背筋を伸ばして立つ姿は・・・綺麗だった。
思わず、立ち止まって見惚れてしまう。
あんなに素敵な人が・・・わたしのこと好きだなんて、信じていいのかな?
つい、変なことを考えてしまって。すぐに言葉がかけられなかった。


単行本を読んでいた手塚君が、視線をあげた。
私に気がついたんだろう。本を閉じると、私を真っ直ぐ見た。
お互いに立ち尽くしたまま、見つめ合う。
先に歩き出したのは、手塚君。私も慌てて、手塚君に近付いていった。



「早いな。驚いた。」


「手塚君こそ。随分、待ったの?」


「いや。つい・・・早く来てしまった。早く来たからといって、早く会えるものではないと思ったが。
 今日は、よかったみたいだ。」


「私も、なんか落ち着かなくて。早く、来ちゃった。」



ふたり、顔を見合わせて笑う。くすぐったい。



「行こう。」



並んで歩き始める。なんとなく恥ずかしくて、ふたりの間には人一人が入れるくらいの距離がある。
そう・・・乾君、一人分くらい。
ずっと、乾君を間に挟んでの関係だったから。



「さっき、何を見ていたんだ?じっと、こちらを見たまま立っていたが。」


「あ・・・えっと。手塚君、素敵だなって・・・って思って。私なんかで・・・いいのかなって。
 あ、変なこと言ってるね、私。」



手塚君が立ち止まる。私も立ち止まって、彼を見上げた。
変なこと言っちゃった。つい、心に思ってることを口にしてしまったと、後悔した。でも。



「俺も、お前を見たとき・・・考えていた。俺が、こんなに綺麗な人を自分のものにしていいのかと。」



え?綺麗な人って?もしかして・・・私?



見たこともないような、熱い目で見つめられて。かあっと・・・顔が赤くなる。
思わず、俯いてしまった。


私の頭にふんわりと載せられた手。



「お互い様ということだな。」



可笑しそうな手塚君の声が、聞こえてきた。


顔を上げると、レンズの奥に優しい瞳。


目の前に、差し出されたのは・・・大きな左手。
いつもはラケットを握る、その手が・・・私に差し出されてる。


そっと、右手を差し出した。
その瞬間。ぎゅっと手を握られた。



。行こう。」


「うん。」



手塚君は、ふと右手で口元を押さえると横を向いた。



「どうしたの?」


「お前を目の前にして名前を呼ぶのは・・・初めてだから、まだ慣れない。」




あ・・・耳が赤い。



「いっぱい呼んで。そしたら、慣れるよ。」


「ああ。そうだな。。」



また、ふたり。見つめ合って笑った。


もう、ふたりの間に距離はない。
体を触れ合わせながら、手を繋いで歩いた。


もっと、もっと、あなたを知りたい。
私だけに、素顔を見せてね。





あなたが、大好き。




















「私を呼ぶ声」

2004.9.26




















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