二人乗り 〜手塚編〜
「手塚君。後ろ、乗って!」
歩くのが早い彼に、やっと追いついた。
彼を捕まえられたことにホッとする。
自転車にまたがって、息を切らせている私を。
なんともいえない表情で見つめてから、彼は首を横に振る。
「自転車の二人乗りは禁止されている。それに・・・お前が俺を乗せて走るのは無理だろう?」
「だいじょーぶ!全然、平気。禁止されてても、見つからなければいいでしょ?ほら、乗って。」
「見つからなければいいとは、どういう理屈だ?駄目だ。」
「風邪、酷くなったらテニスが出来なくなっちゃうよ?ね?お願いだから乗ってよ。」
「・・・・気付いてたのか?」
レンズの奥。手塚君の瞳が、少し動く。
そう、気付いてた。期末試験中の今日。手塚君は、体調が悪そうだった。
数日前から、咳をしていたのも見てたから。風邪なんだろうと、すぐに分かった。
でも、平気な顔をして。いつもと変わらないフリをする彼が、とても心配で。
どこまでも無理をする人だと思うから。放っておけなかった。
「熱は?」
「大丈夫だ。今朝、薬を飲んできた。」
「大丈夫じゃないよ。薬で熱を下げてるだけなんでしょ?家まで送るから。ね?乗って?」
頑固な手塚君。
どういえば、私の心配してる気持ちが伝わるのかと・・・半分泣きたくなりながらお願いした。
すると。彼は、ひとつ溜息をついて。
「重いぞ。」
そう言って。自転車のカゴに、自分のカバンを入れた。
良かった・・・と。表情が緩んでしまった私を見て。
手塚君の目が、ほんの少し優しくなった気がした。
いいか?と確認しながら。手塚君が後ろに乗る。
ちょっと・・・いや。かなり、緊張したけれど。気合を入れて、走り出した。
始めの数メートルはよろけたけれど。なんとか、進みだした
今時、後ろに荷台のついた自転車なんて、恥ずかしくて嫌いだったけれど。
今日は良かった・・・って、しみじみ思う。おまけに、ギアもついてる、優れものなんだから。
自転車を買ってくれた祖母に感謝して。
手塚君の手が、遠慮がちに私の腰に触れている。
自転車こいでるから、私には見えないけれど。
背の高い彼が、私の自転車の後ろに座ってる姿・・・って。ちょっと、恥ずかしいかも?なんて。
自分のおせっかいにつき合わせて悪かったかな?とも思う。
「大丈夫か?」 と、何度も聞いてくる手塚君。
平気。だって、大好きな手塚君を乗せて走っているんだもの。
片想いの私にとっては。そりゃあ、もう。ものすごい勇気を振り絞って声をかけたの。
手塚君にとっては。ほんのちょっと、他の女の子よりは話しやすい位のクラスメイトなんだろうけど。
私にとっての手塚君は、特別だから。
そんなことを心の中で思っていたら。ダラダラ続く長い坂が見えてきた。
「降りて歩こう。」
そう言ってくれた彼に。
「行けるよっ」と、元気良く答えて。坂を上り始める。
けれど、さすがに苦しい。
ふわっと自転車が軽くなり。ブレーキをして、振り返ったら。
手塚君が立っていた。
「やはり無理だろう?一緒に歩こう。」
ドキッ。
その言葉に。胸がときめいた。
一緒に・・・って。たった、それだけの言葉にドキドキしている私の気持ちなんて知らないでしょう?
赤くなっていく顔を見られたくなくて。俯き加減になって、自転車を押した。
と、その時。後ろに気配を感じて。
振り向こうとしたら、背中から覆いかぶさるように手が伸びてきた。
その手はそのまま。ハンドルを握る、私の手に重ねられる。
手塚君が、私の背にピッタリとひっついて。一緒にハンドルを握ってくれたのだと気付くまで。
たっぷり数十秒はかかったと思う。
固まっている私の耳元に。吐息にも似た、彼の言葉が落とされた。
「坂を上りきったら。俺と交代しよう。」
「で・・・でも。」
声が震えてしまう。
足も動かなくて。まるで、背中から抱かれているみたいな体勢に眩暈がする。
「大事なお前に苦労をかけるのは・・・俺としては不本意だ。」
「え?」
思わず振り向くと。穏やかな瞳の手塚君が、私を覗き込んでいた。
「俺は・・・自惚れていいんだろう??」
坂の真ん中。一台の自転車を。ふたりで支えて立ち尽くしてる姿。
周りからは、どう見える?
名前を呼ばれて。もう、出る言葉はなくて。
代わりに涙が出てくる。
手塚君の左手がハンドルから離れていき、そっと私の頭を抱き寄せると。
柔らかなキスが、こめかみに落とされた。
背中に触れたぬくもり。私の頬に触れた手。
すべてが熱くて・・・。
「手塚君・・・熱あがってるみたい。」
「それは、お前のせいだろう?」
なんとか搾り出した言葉も。あっさりと切りかえされてしまった。
そのままの体勢で、坂を上りきって。
やっと、手塚君の腕から開放された。
そして、今。私は手塚君の背中にもたれながら、自転車の後ろ。
額を背中につけて。彼の香りに目を閉じる。
「ねぇ、手塚君。私も自惚れていいんだよね?」
小さく聞いたら。
「あとで、きちんと証明する。」
彼らしい返事が戻ってきた。
自転車は走る。心地よい風をきって。
家の近くで、自転車を降りたら。
すぐに奪われてしまったファーストキス。
それが。彼の見せてくれた証明だった。
「二人乗り 手塚編」
2004.12.17
ストーリー。あらすじ担当は沙羅。
スイマセン!設定に無理が・・・。^^;
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