あなたにあげる 〜手塚編〜








「ね、ね、国ちゃん。」
「なんだ?」


「何か気づかない?」
「何を?」


「だから、何か。私を見て、なにか変わったとことか・・・、」
「さっきから、なんだ?」



机に向かって黙々と問題集を解いていく彼に問う。
私のことなど置物か何かのように扱う彼が、やっと後ろを振り向いてくれた。
ギシッと椅子が鳴って、切れ長の瞳がジッと私を見つめる。


う・・・ドキドキしちゃう。
国ちゃんの真っ直ぐな瞳には、いつまでたっても慣れないよ。



「・・・別に?変わらないようだが」
「嘘っ!本気でいってるの?」


「なんだ?変化があるのなら教えてくれればいいだろう。」
「信じられない!不二君だって、乾君だって、大石君でさえ気付いてくれたんだよ?」



頬を膨らませて睨みつけると、国ちゃんが眉間に皺を寄せて穴があきそうなほど私を見つめてきた。
ものすごく不機嫌な顔。
機嫌が悪いのは私の方なんだからと、胸の前で腕を組み視線に負けない。



「不二は同じクラスだから仕方がないが、乾や大石と何処で話したんだ?」

「食堂でって、そんなこと関係ないでしょ?国ちゃん、酷いよ。私に関心がないの・・・悲しい。
 桃城君のフォームのブレはすぐに見抜けても、私の変化なんか気付きもしないんだ。」


「桃城のフォームのことまで、どうして知っているんだ?」
「桃城君が言ってたもん」


「学年が違うのに・・・また食堂で会ったのか?」
「体育館に向かう渡り廊下で声をかけられた。」


「・・・それぐらいで、そんな詳しい話までするのか?」
「そういえば、桃城君だって気づいたよ!」



話せば話すほど眉間のしわが深くなる国ちゃん。
噛みあわない会話に、私は悲しくなってくる。



「もう、知らない。国ちゃんなんか、キライなんだからっ!」



背を向けて、部屋を飛び出した。
階段を駆け下りようとした所で、後ろから腕をつかまれる。



「まて、。」
「やだっ、私のことなんか気にもしてないくせに!」



腕を振り払おうとしたら、その手も捕まれて引き寄せられる。
あ・・と思ったときには広い胸に体を押し付けられていた。



「国ちゃん、ちょっ・・・離して!おば様が、」
「なら静かにしろ。おとなしく、話を聞くんだ。」



階段を上がったところで抱き合っているのはマズイと焦る私の耳元に、低いささやき声が吹き込まれる。
仕方なく口をつぐんで顔をあげれば、グラスの向こうの瞳は冷静そのもの。
それでも、そっと背中から上がってきた手が私の後頭部を柔らかく撫でた。



「後ろは・・・随分切ったんだな。」
「気付いてたのっ?」



一番、国ちゃんに気付いて欲しかったこと。


思わず大きな声を出した私に
「まさか、髪を切ったことに気付いたか・・・と聞いていたのじゃないだろうな?」 
と、呆れたように目を細める国ちゃん。



いや、そうです。
だって、髪を5センチも切ったのよ。なのに、国ちゃんは何も言ってくれない。
他の皆は『髪を切ったんだね』『スッキリして似合ってる』って、次々と言ってくれた。


なのに一番、『似合ってるよ』といって欲しかった国ちゃんの反応はなくて・・・悲しかったの。



子供のように早口で告げれば、国ちゃんが脱力したように溜息をついて肩を落とした。



「そんなことだったのか」
「そんなことって、私にとっては」


が髪切ったことを、俺が気付かないはずがないだろう?」
「だったら、一言・・・」


「言った。」
「え?いつ、」


「昨日の夜。お前は電話の途中で寝てしまったから聞いてなかったんだろう?
 美容院から出てきたをバスの中から見かけたと、似合っていたな、と言ったのに。
 人の話を適当に相槌打って切っただろう?」



あ・・・と思い当たる。確かに眠かった。
低くて落ち着いた国ちゃんの声を聞いてたら、ものすごく眠くなってきてウトウトしながら電話を耳に当てていた。



『もう、切るぞ。布団に入って、早く寝ろ。』



そう国ちゃんに注意され『おやちゅみぃ』と怪しい呂律で電話を切って寝てしまった。
グッと言葉に詰まる私を見下ろす国ちゃんの目が冷たい。



「だって、だって・・・ものすごく眠くて。」
「まだ11時前だった。なんで、そんなに眠いんだ?」


「それは・・・あの、」



言えない。それは、国ちゃんの誕生日に手袋をあげたくて編んでたから。
少し早いけど・・・寒くなる前にって思って。
国ちゃんのおば様に習って、不器用な私が一生懸命・・・寝る間も惜しんで編んでたのよ?



でも、言えない。
明日までは、絶対。


昨日、やっと仕上がって。
誕生日前には、少しでも綺麗になりたくて美容院にいったの。
大好きな国ちゃんの誕生日だから、私だって綺麗にして迎えたいもの。



「ゴメンナサイ。私が・・・聞いてなくて・・・勝手に拗ねてしまって、あの・・・」


。ここはマズイ。部屋に戻ろう。」



謝っているのに、さっさと体を離して部屋に戻る国ちゃんは怒っているのかと胸がキリキリする。
しょんぼりしながら国ちゃんの背中に続いて部屋に入ったら、
長い手が伸びてきて私の耳元を掠めながら後ろの扉を閉めてしまった。



それは、一瞬。


扉を閉めた手は、そのまま私の体を抱きこんで。
国ちゃんの頬が私の髪にギュッと寄せられる。



「国ちゃん!?」
「階段では、そうそう長く抱きしめてもいられない。」


「いや、あのっ、」
が俺のために頑張っていたことは・・・聞いている。」


「あ、おば様?口止めしたのにっ」
「お前があんまり、ぼんやりしているからだ。心配していたら教えてくれた。」


「う〜、驚かせたかったのに!」
「すでに充分驚いているから、心配するな。」


「そういう問題じゃなくて、」
「明日には俺のものになるのだろう?何の問題がある?」



うーん、なんかすり替えられてる気がするけど・・・抱きしめられたままでは思考が上手く回らない。
仕方ないから体の力を抜いて、国ちゃんの胸に額をくっつける。



「それと、お前の変化を俺が見逃すはずがない。」
「ゴメンナサイ」


「もう一つ。みんなと仲良くするのはいいが・・・必要以上には親しくなるのは心配だ。」
「どうして、心配?」


「・・・どうしてでも、心配なんだ。」
「親しいのは国ちゃんが一番だよ?」


「そういう問題ではないのだが、」
「なに?」


「いや・・・」



国ちゃんが言いにくそうに私を見つめてきた。
みんな国ちゃんの大切なお友達だから、私にとっても大切な友達なの。


ひとつ溜息をつくと、ふっと瞳をゆるめた国ちゃん。


私を抱きしめながら言ったのは、とんでもない我儘。



が、ぼんやりしているから心配でたまらない。
 気が気ではないから・・・明日の誕生日には、お前も一緒に貰おうか?」



はぁ?唖然としている私の額にキスを一つ落とすと。



学園内で笑わないと噂されている手塚国光が口角を僅かに上げて笑った。




















「あなたにあげる 〜手塚編〜」

2005.10.07  

くにみちゅ はぴば☆




















テニプリ短編TOPへ戻る